27.和解と決意
ドラマ撮影から始まり、雑誌のインタビューやらニューシングルのことでこの数日間は特に忙しかった。
そんな中、稀の休憩時間に珍しく母から電話がかかってきた。
『…父さんね、もうそんなに長くないの。会ってあげて。』
父は、とても厳しい人だった。
僕は父が笑った顔を見たことがないし、遊んでもらったことなんて一度も無い。
だけど、仕事に熱心で誰よりも働いていた。
そんな父は僕に立派な仕事に就いて欲しいと強く望んでいたから、アイドルデビューした当初、酷く冷徹な顔をされた。
そしてお互いに口を聞かぬまま僕は上京し、父は身体を崩して入退院を繰り返すようになった。
「早く行って来なさい。」
「スケジュールは……」
「何とかしますよ、それが俺の仕事ですから。」
「……ありがと、マネージャー。」
タクシーに乗り込んで、病院前に着くと自然と駆け足になった。
ドアをを開けると、色白の痩せこけた父が横になっていた。
「お前…、…藍。」
「父さん…。」
僕の顔を見た後、父さんはすぐ視線を逸らした。
「母さんが余計なことを言ったんだな、だからお前がここにいる。」
「……怒ってる?」
「…あぁ、そうだな。」
「…………。」
やはり来ない方が良かった。
そう、下を向いたその時だった。
「…自分に、腹が立っている。」
その声に思わず目を開き、パッと顔を上げると困ったような顔で父がこちらを見ていた。
「すまなかった、お前が叶えた夢を素直に祝ってやれなくて。」
「…父さん。」
「言い訳になってしまうかもしれないが…私のように失敗して、傷ついて欲しくなかったんだ。今は心からお前を応援している。」
「……ありがとう。」
その日、最初で最後の父の笑った顔を見た。
「後悔だけはするなよ」と言った父の顔はきっと一生忘れない。
そしてそれは1つの決意となって、彼女のもとへ贈ることになった。
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