25.帰る場所


あの後、翔くんから聞いた話によればあれは砂月くんで…いつもの那月くんなら砂月くんの記憶は忘れていると言う。

でも確かに那月くんは青ざめた顔で私に「ごめんなさい」って言った。



「お前、バカだろ!」

「…………。」



あれから那月くんは部屋に閉じこもって、翔くんにも口を聞いてくれないのだと言う。

だから「大丈夫だよ」って伝えて、またいつもみたいにみんなでご飯が食べたい。

だから私は会いに来たんだ。



「でも、那月くんも悪気があった訳じゃないと思うから……」

「悪気?んなモンある訳ねーだろ、ったく…そんなだからお前は…。」

「だから私、那月くんに…!」



ー…パシッ。

ドアノブに伸ばした腕を翔くんに掴まれて、反射的に身体が震えた。



「ぁ…悪い…でも、時間見ろよ。」

「時間…?」

「もう日が暮れるの早いんだ…男子寮に気安く来るなよ。」

「……ごめん、いつも翔くんに心配させてるね私。」

「ホントになっ!」



わしゃわしゃ、と大きな手のひらで翔くんが私の頭を撫でる。



「翔くんみたいなお兄ちゃんが欲しかったな。」

「…っ……俺はお断りだ。」

「え?」

「…ま、今はそれでもいいよ。」



時間が解決してくれるさ、と言った翔くんの横顔が大人に見えた。

結局、マンション前まで翔くんは送ってくれたのだった。

そこに見慣れた後ろ姿。



「…藍、ちゃん?」

「優子……。」

「なんで、ここに……。」



戸惑う私を見た藍ちゃんは、これ以上に無いくらい綺麗に笑った。



「気付いたら、ここに来てた。」



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