24.裏と表


那月くんにレコーディングルームへ来るように言われていた私は、階段を駆け上がる。

ー…ガチャッ。



「おせーんだよ、クズ。」

「…っ、わあ!」



中に入った瞬間、怒りに満ちたような那月くんに腕を掴まれて壁へと押さえつけられた。

え?と疑問符を浮かべる私に、綺麗な顔を歪ませた那月くんが言う。



「ちっ、お前みたいな鈍感女が那月と釣り合う訳がねーんだよ。」

「それって一体どうゆ…、…っ!」



突然、キスをするみたいに那月くんの顔が私の顔に近づいた。

思わず息を殺すと、ニヤリと口角を吊り上げた。



「……良い顔だな。」

「っ!」

「俺が怖いか?」

「怖くは…ない…けどっ近いよ!」

「へぇ…なら、試してみるか?」



掴まれていた腕を更に強く握られ、目を瞑った。



「………。」

「…キスすんぞコラ。」

「え?」



ー…ガチャッ!!



「砂月ッ!!」

「…翔、くん……?」

「っお前、優子に何してんだよ!!」



息を切らした翔くんが右手に持っていたのはメガネの様だった。

そういえば今の那月くんはメガネをしていない。

ツカツカとこちらへ向かって来た翔くんは私と那月くんを引き剥がそうと、那月くんの腕を掴む。



「なんだチビ、お前もこの女に気があるのか?」

「……だったら何だよ。」

「翔くん…?」

「優子に近づくんじゃねぇええ!」



翔くんが空手をやっていたのは聞いたことがあるけれど、その素早い動きは初めて見た。

床に押さえつけ、那月くんにメガネをかけたのだ。

那月くんの顔色が変わる。



「…僕……、なんてことを……。」



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