22.気になるあの人
「今日、早乙女学園の学園祭があるんだって。」
「……行きたいんですか?」
別に…、なんて言うけど興味が無ければそんなこと言わない人だってわかっている。
この美風藍のマネージャーを数年間もやっているのだからそんなことはお見通しなのだ。
ついでに言うと、早乙女学園に気になっている女がいるという訳だ。
「はぁ…この後、雑誌の取材が終わったら3時間程ありますよ。意中の彼女を見に行ってはどうです?」
「なに、言ってんの。」
俺は今、彼の声が少し上擦ったのを見逃さなかった。
何に対しても執着心など無い彼が、これほどまでに興味のある女が現れた。
それは、アイドルにとって邪魔になる存在……だが俺は止める気持ちなどは更々無かった。
どこか孤独な彼を支えてあげられる人ができたということに、どこか応援していたのかもしれない。
「Aclass×Sclass、舞台『優柔不断の王子様』……。」
変装をした彼と共に校内を歩く。
ポスターを見た彼は出演者の衣装が彼女のデザインしたものと察したように公演場所に向かった。
俺も後をついていくと舞台はほぼ終盤まで迫っているようだ。
しかし彼の視線はステージでない。
上で舞台を見守っている彼女だ。
「王子役、一十木音也でした!」
舞台の幕が閉まると上へ移動した彼ら出演者は彼女のもとへ真っ先に向かい、ハイタッチ。
彼女は人気者らしい。
あの主役を演じていた赤い髪の男子生徒なんて彼女を見つめる瞳が物語っている。
「…行くよ。」
「時間はまだありますよ?」
「僕が行くって決めたんだからいいでしょ。」
・・ああ、なるほど。
察しがついた俺は意地悪く微笑んで言ってやった。
「"ヤキモチ"ですか?」
「は、」
「誤魔化さなくてもいいですよ?」
「違うッ!…勘違いしないでよ。」
珍しく感情的な彼に驚く。
恋は盲目とはこのことだろうか?
「…それにしても、男ばかりでしたね、彼女のまわりにいるのは。」
「………。」
「………。」
移動中の車内、彼が口を開くのは必要最低限のことだけになった。
仕方ないからシュークリームで機嫌を直してもらおう。
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