1.新しい生活


外遊びより、家で絵を描くことが好きだった私はどこにでもいるフツーの女の子だと思う。

今もフツーに両親と年相応な対談をしている訳だし?



「家を出てデザインを勉強する、ですって…?」

「……はい。」



季節は冬、受験シーズンだ。

私は都内にあるデザイン専門学校への進路変更を母に説得していた。



「バカなことを言わないで頂戴!」



ーパシンッ、と頬を叩かれた。

はそれでも私は視線を逸らすことなく、必死に説得を試みた。



「…わかった、好きにしなさい。」



そう言ったのは父だった。



「貴方、本気なのっ!?」

「あぁ…。」

「あ、ありがとうございます!!」

「その代わり必ず合格して、そして絶対に弱音を吐かないこと。」



父の言葉に目を大きく開いて、私は勢い良く頷いた。

それから寒い冬を乗り越えて、見事受験を合格してみせたのだった。

母は最後まで反対していたけれど、私の上京が決まると、学費から半年分の家賃と食費などの費用を工面してくれた。そして出発の朝には笑顔で送り届けてくれたのだった。



「そろそろバイトを探さねばなぁ〜…ん?」



学校にも慣れた頃、校内でとあるポスターを見つけた。

ここに載っているのは確か…アイドル・美風藍だっけ?

よく見るとポスターの内容は、シャイニング事務所が主催するファッションショーのデザインコンペの参加募集中というものだった。

そこでとある数字が目に止まる。



「『優勝者には賞金10万!?』」



まさかこのポスターで私の運命が大きく変わるとも思いもせず、担任の先生から参加用紙を貰うのだった。



「七瀬さんはなかなか面白いセンスを持っているから、良い結果が出せると思うわよ。」

「えへへ、頑張ります!10万!」

「あはは…。」



そして、コンペにデザインを提出してから数ヶ月が過ぎたある日のことである。

『貴方様のデザインされた服が我がシャイニングショーに採用されましたことをお知らせ致します。』

そう書かれた紙を片手に学校へと向かっていた。



・・・え?

採用!?採用ってえ!!??



「先生…こ、これって、つまり!?」

「おめでとう、七瀬さんが優勝したのよっ!!」



目尻が熱くなるのを感じた。

ど、どどどどうしよう。
今までに無いくらい嬉しいよ!!!


それからまた数日後、

賞金を貰うためと何か大事なお話があると聞いた私はシャイニング事務所へ向かうことになった。



「待ってマシター、Miss七瀬。」



『社長室』と書かれたドアを開けると、目がチカチカするような社長さんがそこにいた。

話し方もインパクトがあって、思わず動揺してしまう。



「お…あ、こっこの度は私のデザインを採用しっ、ていい頂きありがとうございまっ、」

「噛みすぎでしょ。」



ピシャリと綺麗な声に言葉を制止された。

声がした方をチラリと見ると、そこにはあのコンペ参加ポスターに載っていた彼がいた。

美風藍だ。

[ 1/53 ]

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]