16.期待と不安


最近、藍ちゃんの予想外な行動に流されっぱなしの私。

今も頭がショート寸前です。



「顔真っ赤だよ?」

「そっ、それは藍ちゃんが!!」

「……変な顔。」

「なっ!」



藍ちゃんの意地悪な瞳を見つめ返すと、いつものごとく頬を抓られた。

痛い・・よ・・・。



「かわ…、…っ…!」

「あ、あ、ひ…ひゃん……?」

「………………。」



急に、藍ちゃんが俯いたまま黙ってしまった。

次に顔を上げた藍ちゃんの表情は先程とは違う、あの切なげな表情だった。



「………夕飯に、しようか。」

「へ?あ、はいっ。」

「後は僕がやるから、優子は絆創膏を貼った方がいい。」

「あ、どうも…。」



自分の部屋に戻り、切った指に言われた通りに絆創膏を貼った。

そこで気付いてしまった。

本来、禁止されているこの衝動…。



「藍ちゃんが、好き…。」



そう言った口を急いで手で塞いだ。

ー…『恋愛は絶対に禁止』。



「出来たよ。」

「ありがとうございます。」



平静を装ってリビングへ戻ると、放置していた野菜がカレーに変身を遂げてお皿に盛ってあった。

藍ちゃんは…きっと私にドキドキしたりしない。

だからさっきみたいに、指にキスしたりするんだ。



「………穴空くんだけど。」

「へ……?」

「見すぎ。」

「!!」



慌ててカチャカチャとカレーを掬うと、小さな溜め息が聞こえた。



「そうゆうあからさまな反応されると…妙に、困る。」

「…え………?」

「ごちそうさま。」



食器を運び、さっさと藍ちゃんが自分の部屋へ戻って行く。

私が藍ちゃんを……困らせてる…?

藍ちゃんの熱っぽい瞳が頭から離れなくて、私は髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。

期待しちゃダメだ。

期待しちゃ絶対に…ダメ…だ。


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