15.とある夏の日
私たち学生に夏休みがやってきた。
その事実に誰よりもはしゃいでいたのは翔くんである。
「やっぱ夏休みって良いよな〜!」
「その前に、翔は追試が残っているでしょう。」
「うっ…。」
トキヤくんの言葉に痛いところをつかれた、というような顔で翔くんの視線が明後日の方向へふらふら。
はぁ、と溜め息を吐くトキヤくん。
「私、翔くんにノート見せてもらったし、勉強付き合うよ。」
「え…ほ、ほんとに?」
「だって友達だもん!」
イェイ☆
…とピースサインを作るけど、翔くんの反応は微妙なものだった。
あ、れ、何か変なこと言った?
「…その、今はただの友達かもしんねーけどさ……いつか…、……。」
「翔くん?」
「…いや、何でもない。」
サンキューなっ、と微笑んだ翔くんの顔が藍ちゃんが時々見せる切なげな表情と重なった。
そんな出来事が過ぎ、夏休み半ば…
藍ちゃんから一枚のチケットを渡された私は目をキラキラさせていた。
「いよいよ来週の日曜、ファッションショーで君のデザインした衣装を着るから特別に招待してあげる。」
「あっありがとうございます!!」
そう、デザインした衣装は既に完成しているのだ。
藍ちゃんに何度も何度もダメ出しを喰らい、徹夜して頑張って作り上げたもの。
ようやくステージで着てもらえる。
「楽しみだなあー…。」
「浮かれてると痛い目に合うよ。」
「だって〜…っぃいったあ!!!」
「包丁使ってるんだから。」
藍ちゃんの仰るとおりです。
はあ、と大きな溜め息をつかれた。
私自身も溜め息つきたい。
「すみません、消毒……え…、き…」
「ん…ちゅっ……。」
「あ、あああ、あ、あのぉお!?」
「っは、まず…。」
なんということでしょう。
藍ちゃんが私の切った指に……
…ゆ…指に…ちゅっ、ってした。
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