12.別人と本物


ほっとしたのも束の間。

ガシャッ、と何かが落ちるような音がした。



「へっ?」

「四ノ宮のメガネが……!」



翔くんの間の抜けた声の後、真斗くんが渋い声を上げた。

状況を理解した翔くんの顔が一気に青ざめ、メガネを外した那月くんはもの凄く怖いオーラを放ち始めた。

友ちゃんと春ちゃんはお互いに抱きしめ合って怯えているようだ。

どうしたんだろう??



「那月くん、メガネ外すと雰囲気変わるんだね!」

「あ?」

「かっこいいよ!」

「「「「「…………。」」」」」



あれ・・・?

辺りがシーンと静まり返る。

その瞬間、メガネを拾い上げた翔くんが後ろから那月くんにかけた。

そしてまたホッとした穏やかな空気が戻ってきた。



「ふぅー…ビビった。」

「翔、グッジョブ!」

「おー………。」



音也くんと翔くんの疲れたようなやり取りを目に、訳が分からず首を傾げる。

Yシャツをパタパタと仰ぎながら翔くんがコソッと口を開く。



「那月はなぁ〜…メガネを外すと全く別人の"砂月"になっちまうんだよ。」

「"砂月"……。」

「さっき見たろ?」

確かに雰囲気は違ったけど、那月くんと同じ匂いを感じたっていうか。

悪い人には見えなかった。



「だだい…ま………。」



その夜、マンションへ戻るとずっと望んでいた定着しつつあった光景を目の当たりにした。



「…あ、おかえり。」

「ほ、ほほ本物!?」



思わずカタカタと震える私に藍ちゃんは容赦無く頬を抓ってきた。

痛いよ・・・。



「…、…何で抓られてそんな嬉しそうな顔してるの?ドM?」

「ち、ちがいますッ!」


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