「ただいま」

「おかえりなさいペロスさん」

「どうした、どこか具合でも悪いのか」


もうバレた。


「あ!!」

「ん? どうした」

「ペロスさん、ベロしまって」
 
「は?」

「いいから早く!」

「おい待て***ッ」


ペロスさんの言葉なんてお構いなしに、椅子の上に立って彼の舌をくるくると巻いて口のなかに収納させた。


「これでよしっと」

「よし、じゃない。急に何て事しやがる」

「ごめんね。風邪気味で…この忙しい時期にうつしちゃうと大変だから」


そう言うと、ペロスさんは目をパチクリさせた。


「ククク、何だそりゃ……心配せずともうつされたりしねェよ」
  
「万が一もあるでしょう?一応しまってて」

「はいはい、わかった」


ペロスさんは前屈みになって、薄い唇をわたしのものに軽くあててきた。


あわてて手で口を覆う。


「はっ、話聞いてた?風邪なんだってば やめてよ!」

「これくらい大丈夫だ手を退けろ」

「や」

「おいおい久しぶりの再会だぞ……これくらい許してもらえなきゃ流石に拗ねちゃうぜ?ペロリン♪」

「だめ。それに昨日の朝会ったばかりでしょ」

「あァもう……なんて甘くない妻だ!」


くるりと後ろを向いて嘆くように天を仰ぐペロスさんに、見て見ぬふりをする。大袈裟な。


だけど、ただでさえ細い身体が、心なしかさらにほっそりした気がする。


とっても優しい人。弱音なんて一度も聞いたことがないけれど……相当お疲れなのかもしれない。


かなしげな彼の背中に、キュッと胸が締めつけられた。


「ごめんね」

「イヤ、わかってる……私を想ってくれてのことだ」

「…………うん」

「熱はないのか?」

「うん、ちょっと喉がいたいだけ」

「じゃあコレをおひとつ」

「わあ……ありがとう!」

「クク、私が食べさせてやろ、……あ!!」


言葉の続きを待たずに、ペロスさんから作り出されたキャンディを口にほおり込んだ。


キャンディなんて、大人になってから食べる機会は多くなかったけれど、彼と一緒になってからは、ほぼ毎日。気づけば口のなかで転がしている。


それに彼のキャンディを食べれるなんて、なんて幸せな人間だろう。


「…お前は本当に幸せそうな顔をして食べる」

「ふふ、ペロスさんのキャンディを食べてるときが一番幸せ」

「それは光栄。少し引っ掛かるがまァいい……医師も呼んだ。診てもらってからゆっくり休みなさい」

「……ありがとう」


2018/01/10 03:05


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