包丁がまな板に当たる小気味よい音に、ことことと鳴る鍋。
あれ・・・。
ぼんやりとした意識の中で感じる、家庭的な温かい雰囲気。
かすかに漂ってきたいい香りに、途端に空腹を感じる。
もしかして、お母さんかな?
あれから電話が通じて、飛んできてくれたのかな。
もぞもぞと布団の中で寝返りをうつ。
そうだったら、いいな
優しい腕が私を揺り動かす。
「名前ちゃん」
うん。
「ごはんもうすぐでできるからね」
うん、うん。
「ふふ、早く起きないといたずらしちゃうよ?」
がばっと起き上がった私に、くすくすと笑いかける隣人、もといストーカー。
どうしてさも当たり前のように部屋にいるんだとか、そもそもどうやって入ってきたのだとかもうどうでもいい。
私はきっとこいつから逃げられない。
本能のままにストーカーから距離を取る。
やつは不思議そうに私を見つめて、すぐにキッチンへと戻った。
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