「救われない話だろう?」
苦笑する佐々部さんに、僕はただうつむくしかなかった。
「でもね、この話にはまだ続きがあるんだ」
彼は真っ直ぐにこちらを見据えた。
「君がここに来るようになってから、名前は変わった」
「え・・・?」
「楽しそうに、キラキラとした瞳で写真を眺める君を見て思い出したそうだ。自分は写真が好きなんだって」
飾られている藤の花を見る。
心なしか微笑んでいるように感じた。
「母親の死に目に会えなかった原因は、写真だ。それでも、撮りたい気持ちが沸き起こってくる。その度に名前は自分を責めたんだろう」
彼女の心情を想像するだけでも、とても辛いのに。
それでもずっと耐えてきたんだ・・・。
「俺はいつか名前が戻ってくると信じて、定期的に個展の枠を取ってたんだ。不二くんが日曜に来ただろう?あの日がそうさ」
よみがえる、がらんとした店内。
初めて君を意識した瞬間。
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