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彼女の名前を聞きそびれたことに気が付いたのは、それから2日後のこと。

週半ばの手塚は特に気合が入っている。
気が緩みがちなときこそ、いつもの倍トレーニングをする。
それが必ず結果に繋がっていく、というのが彼の信条だ。
ハードな練習をこなすのはなかなか厳しいけれど、確かに成長を感じる。

「不二先輩、知り合いが来てるっス」
委員会で遅れてきた越前が、コート外に目を向けた。
視線の先にはギャラリーのオーナー、佐々部さんがいた。
「やあ、不二くん。突然すまないね」
「かまいませんよ。何かあったんですか?」
彼は急に神妙な面持ちで、声をひそめた。
「実はね、日曜日の写真展に不二くんの作品を飾らせてもらえないかな、と思ったんだ」
突然の申し出に、思わず声を上げる。
「無理にとは言わないが、どうかな?」
「とてもありがたいお話です。でも、僕のは趣味の域を出ていないので・・・」
「いや!不二くんの写真、俺は好きだね。もっと広くいろんな人に見てもらいたいんだ」
そう言われると悪い気はしない。
自分の写真を出展できたら、なんて考えたこともある。
「そこまでおっしゃるなら・・・。頑張ります」
「そうこなくっちゃ!」と、佐々部さんはガッツポーズをして見せた。
何を撮ろう、どんなシチュエーションで・・・。
たくさんのことが一気に頭を駆け巡る。
「さあ!そうと決まれば、行こう!」
「えっ」
目を丸くする僕を、強引に引っ張る佐々部さん。
「さっそく撮りに行くのさ!」
「どこにですか?一体何を・・・」
「決まってるじゃないか!藤さ」
そう言う彼の後ろ姿に、僕はただ付いて行くしかなかった。

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