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家に帰ると、真っ先に彼女に電話をした。
迷惑かも、なんて考える暇もないくらい、夢中だと気が付く。
「こんばんわ」
「こんばんわ」
まるでやまびこのように彼女は繰り返した。
それが愛しくてしょうがない。
「昨日はありがとう。電話、迷惑じゃないかな?」
「大丈夫です・・・。そこまで私の写真を気に入ってもらえるなんて、嬉しいです」
はにかむその様子に、思考が停止する。
「僕が今まで見てきた写真の中で、1番だと思ったんだ。きっとそれは、ずっと変わらない」
「そんな・・・」
少しの沈黙の後、彼女がぽつぽつと話し始めた。
「あの藤には思い入れがあるんです」
「え・・・」
「亡くなった母と一緒に、よく見に行ってたんです」
自嘲気味に笑う彼女に、胸が締め付けられる。
こういうとき、どうしたらいいのか。
上手く言葉がでてこない。

「ごめんなさい。こんな話されても困りますよね」
固まる僕に気を使ったのか、すぐに話題が変わった。
見かけた野良猫がかわいかったこと、空で泳ぐ鯉のぼりが気持ちよさそうだったこと。
そんな他愛もない話。
ひとつひとつをしっかりと聞きながらも、僕にできることはないか、考えるばかりだった。

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