神の愛、人の愛 3 (2/3)


 ジノがカレンと話している間に事後処理を終えたのか、スザクとシュナイゼルが並んで館から出てきた。スザクが二人を目に留めて歩み寄ってくる。
「二人とも、こんなところまで…。何かあったの?」
スザクの瞳にどことなく陰が生じたように見えたのは、気のせいではないだろう。主君の命令とはいえ、ジノとカレンが働いている間に性行為に及んだことに、彼が罪悪感を覚えないわけがない。
 「訓練中に怪我人が出たから、アスプルンド伯爵から錬金術使用許可の要請が来たんだ。そんなに急ぎじゃないんだけど、私も仕事が一段落ついたとこだったから」
ジノは努めて明るくスザクに事情を説明して、書類を差し出す。
「そっか。わざわざごめん。殿下、許可を出しても構いませんか?」
スザクがシュナイゼルを振り返る。ジノは思わずシュナイゼルを睨んでしまったが、彼はジノと目が合っても涼しい顔をしていた。
「あぁ、構わないよ。まったく、ロイドも仕方がないね…」
怪我を治すのに錬金術が有用なのは事実だが、ロイドがそれを口実に錬金術の研究に興じているのは、シュナイゼルの部隊では周知の事実だ。教会の締め付けも、彼の研究意欲に水を刺すには至らないらしい。
「でも、怪我は早く治るに越したことはありませんから…」
シュナイゼルの許可を得て、スザクが書類にサインする。スザクとシュナイゼルがロイドの趣味に関して苦笑を交わしている見慣れた様子さえも、ジノの苛立ちを掻き立てた。
 「僕は殿下を自室までお送りしてから戻るから」
スザクはジノに書類を託すと、ランスロットに跨ってシュナイゼルの方へと手を差し伸べる。シュナイゼルはその手に捕まってスザクの後ろに乗り上げ、彼の腰に腕を回した。
 ジノは、皇族とはいえ男なのだから自分で馬ぐらい乗れるだろうと、思わずシュナイゼルを睨み付ける。ジノの視線に穏やかな笑みを浮かべて応えたシュナイゼルは、スザクの腰を嫌らしい手つきで撫でた。
 「ちょっ…殿下? 危ないから、擽らないでください」
スザクが敏感にピクンッと体を跳ねさせ、それをただの悪巫山戯だと言い訳するように笑いながらシュナイゼルを咎める。何も知らない頃のジノであれば、特に不自然に思うこともなかっただろう。だが、今はシュナイゼルの挑発だとすぐに悟り敵意を滲ませて彼を睨みつけた。だが、シュナイゼルの方は何処吹く風だ。
「あぁ、すまない。触り心地が良さそうだったものだから、つい」
「…お戯れも程々にしてください」
悪びれもしないシュナイゼルに、スザクは困ったように眉端を下げつつも、目元は笑っている。だが、ジノは怒り心頭だった。思わず怒鳴りそうになったところで、カレンに腕を引っ張られる。
 「アンタのトリスタンはこっちでしょ。私も紅蓮で戻るから、一緒に戻るわよ」
「ちょ、カレンさん…」
ジノとしては、これ以上スザクとシュナイゼルを二人きりにしておきたくなかった。だが、カレンはぐいぐいと強引にジノを門の前に繋いだトリスタンの方へと、引っ張っていく。
「カレン、ジノ、怪我人のこと、頼んだよ」
挙げ句の果てにスザクにまでそう声をかけられてしまえば、ジノも先に戻らないわけにはいかなかった。


 「アンタね、何考えてるのよ!? シュナイゼル殿下に食ってかかったりしたら、アンタもアンタの大事なスザクもタダじゃ済まないわよ?」
並んで馬を走らせながら、カレンがジノを詰る。彼女の駆る紅蓮の赤茶色の鬣と、彼女の赤い髪が、夕日に照らされて燃えるように輝いている。
 ブルーグレイの毛並みを持つトリスタンは、ジノの苛立ちを感じ取ってか、低く嘶いた。
「わかってる。わかってるけど!!」
ジノはトリスタンを走らせながら、宥めるように彼の首筋を軽く撫でる。だが、そのジノの方こそ感情の昂ぶりを抑えられていなかった。
 「私だって、アンタの気持ちがわからないわけじゃないわ…」
カレンが抑えた声色で告げ、深い溜息を吐き出す。
「スザクは枢木の当主よ。枢木の当主が、ブリタニアの皇子なんかに好き勝手にされてるなんて…」
ギリリとカレンが奥歯を噛み締める。
 ジノはスザクの生家について詳しくは知らないが、日本でも有数の名家だとは聞いている。日本人であることを誇りに思うカレンにとっては、スザクの家柄は大きな意味を持つのだろう。
「私には、そういうのはよくわからない…」
ジノには彼女のそういう感覚はよくわからない。ジノにとってスザクはスザクでしかない。だが、カレンにとっては違う。そう思うと、カレンとの間に芽生えかけていた連帯感のようなものが、スッと消失したような気がした。カレンもそれを感じ取ったのか、気まずそうに口を閉ざしてしまう。
 二人はそれ以降無言のまま馬を走らせた。それぞれが、それぞれの無念と苛立ちを感じつつも、互いにそれを共有できないもどかしさを感じていた。


 to be continued


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