カムクラと霧切
つまるところ、運というのは確率の話ですよね。より少ない確率をより多く当てられるならば、それが良い結果であれ悪い結果であれ運に関する才能と言える。良し悪しなどというのは後から外部が判断するものですから、あなたの父親が固執していた運の正体なんて所詮そんなものです。僕の持つ、僕が名乗る場合の幸運の才能も種を明かせば確率を割り出す才能……そう、それは不運の才能とも言い換えられるでしょう。僕はあらゆる状況を判断し予測し、計算することでより少ない確率を引き当てることが出来ます。籤ですべて当たりを引くことも、すべて外れを引くことも自由自在に。今までいたであろう運の才能、僕が知りうる中では苗木誠や狛枝凪斗、あれは僕のような思考を経てはいないでしょう。ですが結果は同じこと。数多の人間の中からきわめて低い確率の範囲に該当した。その結果さえあれば人為だろうが生来だろうが変わらない。
あらゆる才能は根本的には同じものだと、僕は考えています。思うに、どんな才能であれ、それは究極には「限定する」ということなのではないでしょうか。「選別する」と言ってもいい。運は確率を、探偵は根拠を。上手く脳に伝わる情報を限定してアウトプットすることこそが、才能の発現である。 僕になされた手術がまさにそうだった。僕に情緒や意志がないよう作られたのは、それが不要だと見なされたからも勿論ですが、そこにリソースを割り振るとすべての才能を使うのに支障があるということなんですよ。僕の素体は人間の肉体として申し分なく健康でしたが、その脳ですべての処理をさせると僕の肉体では耐えられない。そこを装置かなにかを付けて補うことも勿論考えたでしょうが、彼らは機械を埋め込んでしまうと「人間の希望」にはならないと判断されたようですね。才能のない人間がその人間だけであらゆる才能を振るえるということ。僕が冠する「希望」というのは、そういう定義らしいですよ。
「……そう。同意はしないけれど、理解はしたわ」 霧切響子はストッキングに包まれた両足を組み、その切れ長の瞳で男を見据えた。病室と牢獄の合の子のごときその部屋に男は奇妙に馴染んでいた。彼の風貌は病的であり罪人の気配を宿している。カムクライズル。父の産み出した最後の遺産。 「当たり前ですが、やはり貴方は父親とは似ていませんね」 「……あの人は、探偵にはなれない人だったのよ」 「でしょうね。僕のような人間を作ろうだなんて正気の沙汰ではない」 「なら、貴方は?」 霧切は父の瞳を思い出す。父はこんな目をしていただろうか、カムクラの瞳は煌々とかがやいている。正気な人間の目だ。 「僕だった誰かは、きっと貴方の父とそう変わらなかったでしょうね。」
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