ふわりと女の子(とファルル)
私は本物のお花よりも、造花のほうが綺麗だと思う。枯れないし、虫もいない。水や土なんかなくても、いつだって最高に鮮やかで完璧だ。だからファルルは私のアイドルだった。人工の姫君。眠っていても目ざめていても、等しく無垢な至高の女の子。 なのに最近は虫がたかって羽音がうるさい。 プリパラのスタンダードは三人一組のユニットなので、ファルルが誰かと組むことは仕方がないと思った。だけど私は、トリコロールなんて、あんなのは認めない。まず第一にファルルがセンターじゃない。紫京院ひびきは確かに美しく高貴なプリンスだったけど、王子様なんてファルルというお姫様の引き立て役でさえあればいい。リーダーがセンターである必要なんかないだろう。そして一番許せないのがあの女だった。私は造花を愛する。氷でできたお城のような、心を知らないマリオネットみたいな永遠に留まった美しさこそアイドルで、それだけがファルルの傍にあるべきだと思う。
あの女は、私のアイドルを殺す女だ。
花の都プリパリを南に抜ければ、そこには長閑な田園地帯が広がっている。電車から外を眺めると、一面のラベンダー畑が大地に薄紫のヴェールをかけていた。草の臭い。さっそく帰りたくなってしまう。風になびく自分の髪が目に入り、その気持ちはますます強まる。私の髪は、プリパラ内ではきらびやかなプラチナ・ブロンドに設定してあるけれど、ここ一帯は管轄外だ。気に入っているマリオネットミューのスウィーツエレガンスコーデ(ピンク色の総レース生地に赤い薔薇があしらわれている。いかにもお姫様っぽくて好きだ)も解除されている。あの女が好きそうな場所だ。電車が着き、降りればひときわ強い風が吹きつけた。 せっかくプリパリに来たのに、ファルルでなくあの女を真っ先に見に行くなんて、自分でもどうかしていると思う。でも、どうしても気になった。ファルルは生で見たって液晶と等しく綺麗でかわいいだろう。あの女はどうなのか、見てみたくなった。
殺す女は、とても、かわいかった。
ものすごくではないかもしれない。確実にファルルの方がかわいいし、パラ宿にだってもっとかわいい子はいる。でもそういう相対評価ではなくて、青空の下に佇むごく普通の女の子として、ただただ緑風ふわりはかわいかった。見惚れるほどに。そのかわいさは絶望だった。 私を視界にみとめて、ふわりは微笑む。リスや小鳥と戯れていたのを、そのピンク色の目に私だけを見る。なにかご用かしら?透き通った、うららかな声。私は何も言えずに、ふわりを見返す。 「……プリパラにいるときと、一緒ね。全部」 「ええ」 「ずっと、あなたを見てたわ」 「そうなの?ありがとう。後でトモチケを交換しましょう」 「ファルルとも交換したの?」 「ええ。友達だし、チームメイトだもの」
その声で、目で、くちびるで、ふわりは私のアイドルを殺す。
「やめてよ」 「え?」 「殺さないで。ねえ、やめてよ。ファルルは死なないんだもん。私のアイドルは、私のかわいいは、ずっとずっと死なないし生きてないんだから、やめてよ。ファルルの美しさを、わからないのに、隣になんて立たないで!」 顔が熱く、手元に水の気配を感じた。泣いているんだと遅れて気がつく。プリパラ内でならまだしも、現実の私の泣き顔なんてきっととてもブスだろう。ああでも、顔の造形は変えられても表情はどうにもできないから、どうせダメか。私は昔のファルルを思い出す。無機質な目で『0-week-old』を歌っていたファルル。私は、私は、何を思っていたんだっけ? 「……でも、私はファルルと、ひびきさんと、隣でいたいの。それは絶対に、私じゃないと嫌なの」 ふわりの声が、困ったように笑った。視界はもうぼろぼろで、その顔もきちんと見えやしない。でもきっと、こんなに醜い私を、あざ笑ってさえくれないんだろう。ふわりが私の背を撫でる。ふわりの手は柔らかく、肌は熱かった。それがとても心地よくて、私はいますぐ死にたくなった。私のアイドルを殺したくせに、ふわりは私のことなんて、きっと永遠に殺してはくれない。
美貌の青空
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