舞弥と切嗣

少女というものは人形で遊ぶものだよ。そう言われたので、この国はとても平和なのだと舞弥は思った。舞弥は十分後にその男を殺し、もって任務を終了した。舞弥が生まれた国では、少女こそが肉の人形だった。国を出た後も舞弥は人形でいる。それ以外の生き方が、自分にあるとは思わなかった。

舞弥は人形だが、持ち主は少女ではない。アジア系の、大人の男だ。名前を切嗣という。男の名前が本名なのか、舞弥は知らない。舞弥自身の名前は偽名だったし、他に名前はないので、切嗣が嘘だろうが本当だろうがどうでもよかった。切嗣は銃を撃つのがうまかった。玩具ではなく、本物の銃。ナイフを使うのも、他人を騙すのも、人を殺すことならなんでも上手だ。
切嗣は舞弥が相手を殺したのを確認すると、死体を背負って車に詰め込む。舞弥が助手席に座ったのを確認すると、自分は運転席でエンジンをかける。この車を彼がどうやって調達したのか、死体をどうするのか、そもそも舞弥になぜ殺させたのか、舞弥は、何も知らない。知りたいとは思わなかったし、必要性も感じなかった。持ち主になんの遊びをするか問いかける玩具はない。
開け放たれた車窓から、外の熱気が強く吹き込む。乾いた熱風は故郷のものによく似ている。黄色い太陽と礫砂漠が流れていく。することがないのでぼんやり眺めていると、切嗣が言った。
「懐かしいかい」
「……変なことを訊くのね」
人を陥れるときは悪魔のように聡明なくせに、切嗣は時々、ひどく愚かなことを言う。切嗣はそれきり何も訊かず、小汚い煙草の箱から一本取り出して吸い、沈黙を選んだ。切嗣はニコチン中毒ではないが、煙草を吸う。恐らく人を殺したいわけではないのに、人を殺したがる。舞弥は、彼のことを理解したいとは思わなかった。できるとも思えなかった。ただ、できるほどの時間を、自分は彼と過ごすのだろうと予感した。
「舞弥」
「はい」
「君の服を買わないといけないね。怪しまれないような、年頃の子供に見える服を」
「人形遊びみたい」
「どっちだって、一緒だろう」
「ええ」
右へ大きく、揺れながらカーブを曲がる。太陽が視界に差し込んで眩しかったので、舞弥は目を閉じた。


マリオネット