美嘉とみりあ

染めていない真っ黒な髪や、指の短い小さな手に触れてみると、よくわからない感慨が胸にけぶって視界を霞ませる。小学生だったとき、美嘉はみりあのような女の子とは仲良くなれなかった。美嘉はもっと華やかでませた子どもだったし、そういう友達と親しくしてきた。熊のアップリケやプラスチックの星で飾られた同い年の少女なんて幼く見えてしかたなかった。
美嘉は高校生だったから、赤城みりあという女の子に際限なく優しくあれた。もう戻れない時間の上に立っている、自分とは全然似ていない女の子を、どこまでも好きになれた。

例えばヘアゴムやイヤリングなら、美嘉はラインストーンやラメで輝くものが好きだ。色ならショッキングピンク、黒、金や銀、それらが自分を一番セクシーで可愛くてカッコいい城ケ崎美嘉にしてくれると知っている。だが、みりあのことは分からない。何があの子の持つ、生き生きとしたきらめきを引き立てるのか思いつかない。ふだんファッションの話をする奏やフレデリカ、唯もあてにはならない。莉嘉はみりあに歳が近いが、美嘉が好きなものなら大抵好きだし似合っている。みりあのことが分からない。何を贈ったって、あの子なら目を輝かせて喜ぶとは思う。しかし美嘉はみりあにとっておきをあげたかった。年上のお洒落でカッコいいお姉さんとして、贈りものをしてみたかった。

「みりあちゃん。誕生日、おめでとう」
ずっと下にある一対の瞳がきらきら瞬く。電球の光を跳ね返すのは誰の眼だって同じはずなのに、みりあの瞳だけがいつも特別に光るのはなぜなのだろう。髪や瞳の黒さは、周囲のすべての光を集めて一番輝いてしまう。
「覚えててくれたんだ!嬉しい!」
「当然だよ。プレゼントもあるんだー。ほら」
鞄から綺麗にラッピングされた包みを取り出して見せると、今度はその丸い頬がばら色に染まる。みりあの顔は感情を描かせるキャンバスだった。手渡したプレゼントを大事そうに抱き締めると、そのままくるっと回ってみせる。なんてことのない事務所の廊下でも、ステージの上と同じ軽やかな足取りで。
「ねえ、美嘉ちゃん、開けていい?」
「うーん。おうちで開けてみて?」
「えー?」
なんで、と背伸びをして目を覗き込まれる。普段なら美嘉はかがむようにして目線を合わせるのを、衝動的に逸らしてしまった。自分でも驚くほどダサい。あまりにも、わかりやすすぎる。
「だって、ほら……気にいってもらえるか、わかんないから」
「そんなことない!美嘉ちゃんがくれるなら、気に入らないわけないもん」
みりあといるとなぜだか、どんな年上の相手といるよりも、自分が子どもだと思い知らされてしまう。今だってそうだった。嬉しくて、それが素直に顔に出てしまう。みりあといるときはいつだってカッコいい城ケ崎美嘉でいたいのに、ダサい自分にばかり気がつく。
「あ〜、もう、みりあちゃんは人を喜ばせる天才だなあ。アタシ、全然カッコつかないじゃん」
それでも精一杯にニヒルに笑ってみせるのは、美嘉の小さな意地だった。
「美嘉ちゃんはいつもカッコいいよ?」
「なら、いいんだけどね。まだまだカリスマJKだもん」
「ふふっ。だから、ねー、開けていい?」
「だから恥ずかしいんだってば〜…」
子どもだと思い知るのも、お姉さんぶるのも、悪くないと美嘉は思った。みりあによって知る気持ちは、みっともなくても悪くはなかった。この子の仲間であれてよかった。だから年上でよかったし、年上だから、カッコつけていたい。
ここには二人、女の子がいる。ただそれだけのことを、それだけにしたくないと思った。


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