こどものせのび


こどものかっとうの続き



すこし酔っ払った私を、ミケさんは抱きかかえて膝の上に乗せてくれる。
エルドとグンタよりは飲めるけど、いつもミケさんが飲んでる小さい瓶の、強いお酒は駄目。
すぐにくらくらしちゃう。
そんな私でも、ミケさんは抱っこしてくれるのだ。
ミケさんは無口で、あまり喋らない。
けれど、お父さんとお母さんが五年前のあの日に亡くなったことが夢に出たとき、起きてから泣いてしまった。
止まらない涙に、情けなくもなる。
ぺトラにも、誰にも見られたくなくて、とにかく誰かの側にいたかった。
ミケさんのところに駆け込むと、何も言わずに抱きしめてくれた。
だから私は、お父さんみたいなミケさんが好き。
お父さんがどんな人だったか、すぐに思い出せない。
思い出そうとすると、死んだときのお父さんの姿を思い出してしまう。
その記憶を上書きするように、私はミケさんに甘えている。
大好きで仕方ないのだ。
とんでもなく身長差があるのも、年齢の差があるのも、早く産まれなかった私のせい。
私のせいだから、ずっと好きなままでいたい。
こんな考えをしているから、いつまでも見た目が子供のままなのだろうか。
討伐数をそのまま身長に足せば、ぺトラと同じくらいの目線になるのに。
いつもそう考えている。
ぼんやりした私も、抱きかかえられて暫くすると正気が戻ってきた。
お酒を飲んでも、抜けるのは早い。
だから二日酔いなんてへまはしないけど、今頃オルオあたりは嘔吐しているだろう。
ぎゅうっと抱きついて、ひたすらに甘える。
ミケさんの顔を見つめて、へらへら笑う。
「鼻おっきい」
ミケさんの鼻をつまんで笑うと、ミケさんまで静かに笑った。
鼻をつままれているから、鼻で笑えないのだろう。
「私、鼻が低くて、子供みたい」
「見た目が子供だから、仕方ない。」
むう、とむくれると、ミケさんにほっぺをつつかれた。
膨らましていたほっぺから空気が抜けて、キスしてほしいときの唇になる。
そのまま、ミケさんを見つめていたら、そっとキスをされた。
キスのことをちゅうって言いそうになるけど、ミケさんと前にした約束は、二人きりの時はこのキスができるかという内容。
舌を絡めあうキスは、よくわからない気持ちよさがあって、好き。
最近は私からキスしてしまう。
正直意味もよくわかっていないし、ぺトラにも聞けてない。
でもきっと、この意味をミケさんは私が分かっていると思ってしているのだろう。
私の歳は、大人なのだから。
「ふあ、ミケさあん、んう」
名前を呼ぶ間もなく、ミケさんは私にキスをしてくる。
口の中で舌がぬるぬる絡み合うと、ぬちゃ、って粘着質な音がする。
その音をまた覆い隠すように、舌が入り込んでくる。
私が噎せたりしない程度にやっている感覚が、たまに伝わってきて、もっとやっていいんだよといいたくなった。
そもそもに私の小さい口とミケさんの大きな口じゃ、アンバランスなのだけれど。
口髭が唇にあたって、くすぐったい。
「もっと、んう、はあ」
自分から舌を絡めてみるけど、大きくてざらついた舌に上手く絡ませられない。
唇が、唾液で塗れる。
ミケさんの上唇を吸ったら、口髭がまた当たった。
たぶん、私のほうが息が荒い。
こういう時に上手く呼吸できるようになれれば、いいんだろうか。
「きもちい」
率直に気持ちを述べることしかできず、自分の語彙の無さにうんざりする。
またキスをしてみると、顔を手で固定された。
こうされたら、しばらくは離してもらえない。
あまりにも苦しくて、手をばたばたさせたら、すぐ離してくれるけど、気持ちいいのでそれもあまりしない。
その結果、酸欠でふらふらになることもある。
ふらふらになっても、ミケさんが抱きかかえてくれるから別にいいや。
一瞬だけ口が離れて自由になったので、ミケさんを見つめたままぼんやりした。
「ちゅう、好き、ミケさんのちゅう大好き」
またキスをちゅうって言ってしまったな、と思いながらも、私のほうから首に手をまわしてキスをする。
腰のあたりを抱えられて、また足がぶらさがる。
床から数cm、足が遠い。
背が低いと、小さくてそのうちどこか千切れてしまいそうな感覚に陥る。
だって、ミケさんは大きいから、大人だから。
私なんて、容易いだろうから。
でも、優しく抱っこしてくれるから、大好き。
「んふ、あ、あ」
すこし苦しくなって手をばたつかせたところで、口がようやく離れた。
息を吸い込んで、空気の冷たさに喉が驚く。
私が熱いだけで空気はいつも通りの冷たさと埃っぽさを漂わせている。
すこしだけぼうっとしてから、ミケさんを見つめた。
またキスしたくなるけど、我慢。
「ミケさん、私ね、早く大人になりたいの。大人になったら、ミケさんともっとちゅうしたいから」
「年齢は大人だろう。」
頭を撫でられ、嬉しくなる。
甘えた気持ちが、こうも発展して、こうなったけど、大人の気持ちは分からない。
私もとっくに大人のはずなのに、時たま思い出すお父さんとお母さんが死んだ光景。
それが全てを止めている、そんな言い訳をしてまで子供でいる理由を話す必要はない。
今のままの私を、ミケさんが抱っこしてくれる。
それが、嬉しいし、幸せなのだ。
「待ってやる。なまえはなまえだ。」
「待つって、なにを?」
「なまえが、あと10cmは身長が伸びたら、だな。」
「むりだよ、ずるい!」
ミケさんは、いつものように鼻で笑う。
鼻をつまめば、大体黙ってくれるけど、しない。
頭を撫でられ、頬を撫でられ、私も思わずへらへらと笑う。
こういう笑顔ができてしまうから、私はまだ子供なんだろうか。
「なまえは可愛いな。」
突然の言葉に、私が驚いている間、ミケさんは笑いもせず見つめてきた。
安堵感を感じて、緩んだ笑顔をしたあとに、大きな体に抱きついた。
大人になれば、もっと可愛がってもらえるのだろうか。
そんなこと、誰にもわからない。
甘えるたびに怖い記憶も薄れていく気がして、抱っこしてもらわずにはいられないのだ。
なまえ、と呼ばれて、そっと大きな手で頭を撫でられる。
安堵感から引き起こされる眠気に、ほんのりと手足が暖かくなった。







2013.09.14


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