石鹸とあなたと徹夜明け



単純な世界の続き

新ガイドブックでの事実発覚が面白すぎた




眠たそうに外れた視線と淀んだ目、怠そうな瞼。
半開きのような口から、実に楽しそうな声が飛び出す。
「それで今回の研究がね!」
「あの、ハンジさん。」
「なにかな?」
私はハンジさんの目の前に淹れたての紅茶を乱暴に置くと、言い放った。
「いいですか、これ飲んだら、風呂に入ってください」
紅茶の香りと混ざる、油くさいべたついた臭い。
訓練で汚れた髪の毛を、更に酷くしたような、そんな臭い。
一体、研究で何日、いや何週間引きこもっていたのだろう。
訓練のあとの汗をかいた男性とは、また別の臭いがする。
研究に没頭するあまり身を疎かにしてるのか、それともそんな暇がないと割り切っているのか。
どちらにせよ、ハンジさんから悪臭を取り払わなければいけない。
「え、いま昼だよ?今から?」
今から、と言われ目を丸くするハンジさん。
風呂に入ることへの抵抗はなさそうなところを見て、安心してしまった。
「当たり前です!入らないなら私が無理矢理入れます!」
「大丈夫だよ、風呂なんて・・・」
「外に出ないから汚くないって理論ですか!?その理論なら打ち壊しますよ!?」
「わかったわかった。」
紅茶を飲むハンジさんは、私の好きなハンジさんなのだけれど、それにしたって風呂くらい入ってほしい。
にやりと笑ったハンジさんが、嬉しそうに言った。
「可愛いなまえが、一緒に風呂に入ってくれるのよね?」

浴場には偶然人はおらず、貸切状態。
昼間だし、誰もいないのは当然かもしれない。
抜けだしたことを怒られそうだが「ハンジ分隊長を風呂に入れてました」といえば、まあまあ納得してもらえるだろう。
お互い裸だけど、そんな気分にはまったくならない。
椅子に座って頭を下げたハンジさんに、お湯をかけた。
お湯が頭から髪の毛を伝って、盛大に風呂の床に零れていく。
濡らした頭に、駄目もとで大量の石鹸を泡立て、ひたすらに洗った。
だが、予想はついていたことが起きた。
殆ど泡立たないのだ。
髪の毛があまりにも油でべたついていて、頭皮まで汚れているのだろう。
必死に洗う私をよそに、ハンジさんはとても気持ちよさそうに声をあげた。
「あー、あったかいねー。」
泡立たない頭にもう一度お湯をかけ、洗い流す。
そしてまた洗って、洗い流す。
手が疲れてきたころ、ようやく髪の毛が泡立ったが、毛先のほうにいくにつれ泡は消えていった。
「なんで!ハンジさん!髪の毛泡立たないじゃないですか!」
思うまま必死に訴えると、ハンジさんは洗われる気持ちよさに恍惚としているようだった。
呻きのような、喘ぎのような、中途半端な声で返事をされる。
「洗うの三回目だし、これ石鹸の量は倍ですよ!?」
わしゃわしゃと頭を泡立ててるうちに、ハンジさんがのんびりと返答した。
「ああ、うん、最後に洗ったのいつだっけ。」
「いらん事実教えないでくださいね!?」
今洗っているものの、出来れば知りたくない事実を知ることを拒否し、頭にお湯をかけて泡を流す。
念のため、ということで四度目の洗いに突入すると、ハンジさんが洗われているまま話しかけてきた。
「なまえは指が細いんじゃない?なんか絡まってない?」
「あなたの髪が細いんですよ」
洗っていて分かった。
ハンジさんは、髪の毛一本一本が細い。
それでいて、量が多い。
だから髪をくくるとボリューム感たっぷりになっていたのだ。
それにしても、そういう髪質なら出来れば頻繁に洗ってほしいものであって、汚いと巨人に嫌われるとでも言えば、毎日風呂に入ってくれるだろうか。
それなら、そんな簡単な嘘でもついてしまおうか。
「体は自分で洗うから、なまえは自分で洗ってよ。」
頭を下に向けているので、うなじと背中が丸見えのハンジさんが、手振りをしながら私に言った。
髪もだいぶ泡だって、綺麗になったと思う。
お湯をかけた時には、べたついた髪ではなく指どおりの良さそうな綺麗な髪になっていた。
これで髪をくくったら、それなりに綺麗だろう。
お湯の入っていた器を手放し、椅子に座り、自分の体を洗うために石鹸を取った。
四度もハンジさんの髪を洗ったおかげで、手から油が吸い取られてつるつるになっている。
濡れた髪を適当に縛り、体を洗い始めたハンジさんが、私を見て呟いた。
「腕、白いね、なまえ。」
眼鏡をしてない、濡れた顔のハンジさんは、かなりの美人だ。
そう言われ、ふと自分の腕を見てからハンジさんの腕を見ると、確かに私のほうが白かった。
「日焼けしにくいんです」
日焼けすると、そばかすができる。
それが嫌で、訓練以外では外には出ていない。
もっとも、外に出るのが嫌だから、分隊長の付き人をしているのだけれど。
「真っ白、なまえ。体洗い終わったら触っていい?」
「へっ?ああ、はい」
ハンジさんは、私の体に視線を釘付けにし始めた。
白い肌なんて、珍しくない。
先ほどのハンジさんを洗ったときの教訓を生かすように自分の体を洗い、丁寧にお湯で泡を落とした。
体が綺麗になったところで、ハンジさんがそっと私の二の腕に触れる。
爪先が細い手が、するりと私の二の腕を這う。
「わあ、すべすべ!真っ白!すごいなあ。ここまで白い子、滅多にいないよ。」
「そうですかね」
ひきこもってますから、とは言わなかった。
ハンジさんは、私の体をべたべたと触り始めた。
背中、腕、腰、太もも、首筋。
手がするすると移動し、その度の感触に唇を締めていた。
「あの、ハンジさん、あの」
耐え切れず申し出ると、ハンジさんはまた悪気のなさそうな顔をする。
「ん?変な気分になった?」
「確信犯ですか」
「なまえは可愛いから悪戯するよ!」
ぬる、とハンジさんの両手が胸に滑り込んできた。
胸を揉まれる、というか、他人に胸を初めて揉まれた。
驚いて体を引いても、ハンジさんは笑いながら胸を揉んだり触ったりしてくる。
これが同性同士のスキンシップなのか、と納得しそうな自分がいた。
「やめ、やめてくださっ」
揉まれ続けたら、興奮してしまいそう。
そんな気がして即座に椅子から離れようと、ハンジさんの腕をかわした。
椅子から立って、体を引こうと立ち上がったが、失敗だった。
そのまま滑り、盛大に転ぶ。
腰を床に打ちつけ、鈍痛が下半身を支配する。
風呂の床は、冷たかった。
頭のあたりに石鹸やら何やらが当たり、鈍い音や散らかる音が風呂場に響き渡る。
その様子を見たハンジさんは、けらけらと笑っていた。
さらさらの髪が濡れたハンジさんは、それはとても魅力的だった。
けれど、転んでぶつけたところから広がる鈍痛に、それどころじゃなくなっている。
冗談に冗談のような状況が返ってきたのが、楽しいのだろう。
鈍い痛みのあと、自分の体勢に気づいた。
開脚してないからいいものの、ハンジさんにお尻を向けたまま転んでいる。
すこしでも呻いて体をずらそうものなら、間違いなく局部が見えてしまう。
そっと体勢を変えて、風呂の床に座り込んでから呻くと、またしてもハンジさんに笑われた。
「ほんと、あの、恥ずかしかったです」
正直に述べると楽しそうなハンジさんが、私に問いかけてきた。
「どっちが?」
セクハラか、これが、セクハラなのか。
「いわ、いわ、言わせないでください」
風呂の床に座り込む私に、ハンジさんがお湯をかける。
どうせなら風呂で遊ぼうという、ハンジさんらしい意図だろう。
私は腰に鈍い痛みを覚えながらも、お湯をかけあう体制に入った。





2013.09.14


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