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「あ。」
ずるり、と引き抜かれたと同時に声を出された。
「なまえさん、これ。」
殆ど意識を飛ばしていたけれど、ライナーの呼びかけで引き戻される。
同時に襲い掛かる下半身の違和感にぞっとして嘔吐しそうになるけれど、持ちこたえた。
これ、と言ったライナーが、私に手をかして起こす。
腰を曲げると、体内から精液やら愛液やらが漏れる感覚がした。
性器にじわりと広がる液体の感覚。
女なら、何度も経験するこの撫でられるような感覚。
今すぐに風呂に入りたい。
起き上がり、股を見ると血が流れていた。
慣れたものだけれど、男はこれを見たら、そりゃあ驚くだろう。
生理がきて、最悪の事態は一度回避できたことにまず安堵した。
「大丈夫、生理だよ」
久しぶりに声を出した。
すごく、掠れている。
何時間も歌ったあとに何本も煙草を吸ったような、荒れた声。
この声を聞いても、ライナーは何も思わないのだろう。
私の荒れた声ではなく、何に対して思ったのか分からない答えを、そっと呟いた。
「そうか、また子供できないのか。」
改めて、異常な状況だと思ったけれど、きっと頭が麻痺している。
それでも、頭が麻痺してる範囲内で出来ることをしなければいけない。

ライナーが風呂に入ってすぐ、痺れる足で廊下に出た。
このまま逃げようかとも思ったけれど、足の痺れ方からして外に出ても、どこかに辿りつけはしないだろう。
廊下の突き当たりを見ると、床に転がる自分の携帯を見つけた。
ひっつかんで、久しぶりの携帯を開く。
壊れていないことを確認して、メールを開くと、友人数人からの連絡メールと、ベルトルトくんからの返信があった。
「大丈夫ですか?」と一文だけだが、そのメールは受信した時間帯から見るに即座に返信したものだった。
もしかしなくても、心配させている。
すぐに返信のボタンを押して、ベルトルトくんにメールをした。
震える手で、簡潔に書きたくもない今の状況を書く。
文面はめちゃくちゃだろうけれど、何もしないよりはマシだ。
打っているうちに手まで痺れてきて、情けない体に泣きたくなる。
焦りながらも、メールを送信した。
送信履歴を消して、冷たい心臓を押さえるように携帯を元の場所に置いた。
耳を澄ませれば、シャワーの音が聞こえる。
まだ出てこないだろう、そう思った。
部屋に戻り、積み上げられた制服の下にある鞄に手をつっこんだ。
携帯ならここに入っているはずだ、そう思って鞄を開いて漁ったけれど、鞄にない。
ここにないのなら、どこだ。
携帯を普段置いている場所なんて分からないけれど、どこにあることが多いのだろう。
部屋を見渡して、必死に思考を巡らせた。
机の上、床にもないしキッチンにあるわけがない、水場にもないだろうから、残るはクローゼット。
クローゼットの横に、脱いだ服が散らばっていた。
脱いだズボンのポケットだ。
即座に服の山に近寄り、座り込んで手を伸ばした。
ズボンをひっつかみ、ポケットを触ると、何かが入っている。
取り出そうとしたら、私の手の上にそっと手が重なった。
「探し物か?」
風呂上りの生暖かい手に触れられ、背筋が凍る。
それでも先に言い訳をしようと思った。
もう駄目かもしれない。
おそるおそるライナーを見ると、風呂上りの気持ちよさそうな顔をしていた。
「なまえさん?」
ズボンを握り締める私は、とても奇妙に映るだろう。
「なあ、何してるんだ。」
前なら喜んで反応した声も、恐怖でしかない。
そっと握り締めたズボンを離して、視線を視線で返した。
「なんでそんな、怖い顔してるんだ、なんで。」
どうせ何をしようとしていたか、察しているんだろう。
随分といいタイミングで風呂から上がったものだ。
何も反応しない私の手を掴んで、大事そうに撫でた。
視線を視線で返しているはずなのに、どうも目線が合わない。
おかしい目をしているのは、私なのかライナーなのか、わからないのも恐怖だった。
「どうかしたのか?」
「なんでもない」
ようやく出た言葉のくだらなさに、自分でも笑いそうだった。
「なんで、何を探してたんだ?」
それにも、答えずにいた。
何か答えを与えてしまっても、全部逆なでするだけだ。
「違うだろ、そう、違うだろ、なまえさん。違う。」
うわ言のように繰り返されて耳が痛い。
あのメールは、ベルトルトくんに届いただろうか。
震える手で打ったから、文面に自信はないけれど、どんな状況なのかは書けた。
随分と申し訳ないメールを送りつけたと思う。
ベルトルトくん、といえばライナーは学校に行かなくていいのだろうか?
今が何曜日か分からないけれど、そのうち学校に行くだろう。
その時逃げられるかどうか、微妙なものだ。
痺れた足、重い腕、この体は全て自業自得だとそう思わされる。






2013.08.14

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