13




体が重い上に、記憶がばらばら。
呼吸をすると背中に痛みが走った。
どこも切れてはいないはずだけれど、体の節々が潰れたように痛む。
重い体。
とてもじゃないけれど、今は使い物にならない。
無理な体勢で性行為をされたのが原因だろうけれど、原因を把握するのも一旦やめた。
二の腕は痺れて使い物にならず、足もどこにあるか分からないくらい感覚がない。
縛られた部分を中心に、血が止まっている。
よく覚えのある股の部分に、異物感が取り付いて離れなかった。
焼ける痛みよりも先に張り付く異物感に胃から何か出そうだったけれど、胃は刺されるばかりの苦しさ。
頭でも、いつの間にか思い切りぶつけていたのか。
ばらばらになった感覚がひとつに戻らず、どれくらい経ったのだろう。
意識が戻ってから、一時間も経っていない。
体の近くにライナーがいない気がする。
私の見えないところで、また何をしているのだろう。
よくしていたその行為が、体内に異物が入り込んでいるとしか思えなかった。
腕や足を動かそうにも、タオルで適当に縛られて痺れたこともあってまったく動かない。
縛られているから、四肢だけでも自由になれば多少マシにはなるんだろう。
マシになったところで、何も変わらない。
こんな状況になっても泣き喚かない自分に、嫌悪するばかり。
自分は実はダッチワイフでした、と言われても納得するような状況。
唯一救いは目をつむれること。
目を閉じて、行為を体のみで感じる。
痛いし苦しい。
内臓が、圧迫に耐えている。
ライナーがずっと、なまえさん、なまえさんと呼ぶたびに、内臓が痛かった。
それでも涙が出ない。
こんなものなのだろうか。
ずっと昔の人間は、動物は、これが当たり前だったんだろうか。
性欲のぶつけあいに、合意があるかないかで、拷問になるなんて。
「なまえさん。」
聞き覚えのある声がして、重い瞼をこじあけて霞む視界を何度か瞬きした。
腕が見えて、それからすこし上に視線をずらすと、心配そうな顔をしたライナーがいた。
なんで平気そうな顔をしているんだろう。
「なまえさん、あのな。」
何か話し始めたけれど、まったく聞く気が起きずに、聞くのをやめた。
ふと見ると、ライナーの左腕の火傷がない。
真っさらな腕を見て、我が目を疑う。
話されている内容を聞き流しながら、左腕をしばし見つめた。
さっき、無理矢理される前に、煙草の火を腕に押し付けていた。
火傷の痕が、どこにも見当たらないのだ。
それなら全て幻覚だったのかと思ったけれど、この状況が幻覚じゃないと証明している。
縛られた手足が解放される前に、また意識を手放した。
とても、とても眠い。
沸きあがる胃の冷たさを覆い隠すように、眠気が頭を覆った。
火傷の痕は、どうしたのだろう?

「なまえさん、何か食べる?」
ライナーが体力尽き果て倒れる私に、話しかけた。
目を開けることすらやめていたら、腕を縛っていたタオルを外され、ゆっくりと起こされた。
寝ていた上半身に、血が下がる。
ばさばさになった髪の毛が肩にかかって、くすぐったい。
いつの間にかブラウスもブラジャーも取り払われていて、腕に乱雑に絡まっていた。
腕に絡まるブラウスは妙に綺麗なのに、腕だけ赤い。
赤い部分が縛られていた部分なのだろう。
手首が真っ赤だ。
腕を見つめる私に、ライナーがそっと更に乗せたトーストを差し出した。
いい匂いが、鼻につく。
「焼いたけど、食べるか。」
床の埃っぽい匂いよりは幾分もいいパンの焼けた匂い。
しばしライナーの顔を見つめ、血が通って痺れが薄れた腕でトーストを皿ごと貰おうとした。
何か食べないと、この状況なら飢える。
ライナーの気分が落ち着いているうちに、色々と繋いでおかなければ。
鈍い腕を動かそうとして、手をとめる。
トーストの表面を、よく見た。
焼けた表面はとても美味しそう、美味しそうなのだが。
トーストなことは間違いないのだが、トーストの上に何か白濁とした粘着質な液体が乗っている。
焼いたばかりのパンの上に、見覚えのあるものがかかっていた。
バターだと思いたかったけれど、絶対に違う。
それがなんなのかは、嫌でも分かった。
「なんで食べないんだ?」
私はライナーが見れずに、気持ちの悪いものを凝視していると、ライナーはパンを手に取り、私の口元までもってきた。
吐き気を覚えながらライナーの顔を見ると、想像はついていたが、笑っている。
それも、優しそうに笑っている。
「ほら、口開けろよ。なまえさん、今は体調悪かったよな、ごめん。」
悪気の感じられない言葉に放心しながら、口元に持ってこられたトーストを見つめた。
精液のかかった部分だけ避けるようにして、噛んだ。






2013.08.14

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