04







「これは?」
ライナーがまた新たに本を手に取った。
家に来ていいよ、と言ってから、毎週金曜日には来ている。
金曜日だと、次の日は大抵休みだから、遅く帰っても大丈夫なのだそうだ。
門限というものは、とうの昔に卒業したから、ライナーがとても若く見える。
実際、私より若いと思って最近歳を聞いてみたら高校生にしては年齢が噛み合っていなかった。
詳しくは聞かなかったけれど、留年でもしたのだろう。
それでも、私のほうが四つは年上だ。
またしても少年愛、という言葉がちらつく。
違う、違う、そうではない。
少年といえど、見た目は大人だ。
変な気を感づかれないようにしなければ。
「祖母が残した本ね、気に入ってたそうよ」
ライナーが手にした本をよく見るために、そっと寄り添った。
「ヘルマフロディテの体温」
祖母が気に入っていた、というのは本当だけれど、これは初版ではない。
あとから私が自分用に買い戻したのだ。
「ヘルマフロディテ、って。」
「両性具有よ」
両性具有、と聞いて、ライナーの顔がすこし赤くなる。
そういう年頃だったわね。
本の内容を説明すべきか迷ったけれど、ここで説明してもライナーの焦燥感を煽るだけだ。
「性は常に変わる。愛するものと抱き合うために、ってね。そんな話よ」
適当な説明をすると、ライナーは本を開かず、そっと棚に戻した。
その姿が、とても高校生らしかった。
私がその本を読んだのは、中学生の時だというのに。
単に私がませた中学生だったのだろう。
そして、今はまた性的に煽る悪戯心も平静と持ち合わせるようになった。
「もっとも、男女なら変わる必要もないんだろうけど」
そう言うと、火でもついたかのようにライナーの顔が赤くなった。
こういう話に、慣れていないのだろう。
「お姉さんは・・・」
あまりに弱々しい声に、笑いそうになった。
笑いを堪え、微笑んだ。
ライナーが私を見る。
私は微笑みかえす。
「なんでもないです。」
ただこれだけの言葉で、こうにもなってしまうのか。
悪戯心は、簡単に沸きあがる。
その際、少年愛という言葉は頭に出てこない。
なんと都合のいい脳みそだろう。
私はそっと、ライナーにキスをした。
ちゅ、と触れるくらいのキス。
私の唇が柔らかく感じるくらい、ライナーの唇は乾いていた。
けれど、弾力がある。
男の人の唇だ。
唇を塞いだ今は分からないが、ライナーは何が聞きたかったのだろう。
恋人の有無だろうか。
私は、恋人の有無を気にしてた。
ライナーに実は彼女がいて、その暇つぶしに私に話しかけているのではないか、と。
そういう私が、そうなのだけれど。
悪口や勘ぐりは自己紹介とはよく言ったもので、心配していることは全部自分の心配だなんて、よくあることだ。
彼氏はいるけど、しばらく会っていない。
仕事が忙しいから、ずっと会ってない。
そのうち会わなくなるか、暇になれば連絡を取るつもりでいる。
でも、今目の前にいる男の子と呼ぶのが難しいライナーに、興味が向いてしまった。
いつからこんな緩くなったんだろう。
彼氏ができる前は、あらゆる意味で硬かったのに。
ライナーの顔は、真っ赤だった。
さあ、男子高校生はどう出る。
そっと、私の両肩に手がかけられた。
軽い力で、押し倒される。
私に覆いかぶさるライナーの顔は真っ赤だった。
「お姉さん。」
押し倒されて寝転んで、天井がよく見えた。
ああ、天井ってこんな白かったっけ。
「なまえさん。」
大きな手が、私の頬を撫でた。
「こういうこと、いいの?」
「なんで?」
「だって、なまえさんはお姉さんだし・・・。」
「関係ないよ」
すこしだけ体を起こして、ライナーの顔を両手で固定してキスをした。
一度唇を僅かに離してから、もう一度キスをする。
唇の隙間から舌を入れると、ライナーの肩がびくりと震えた。
私の背中が、ライナーの両手にがっしりと支えられる。
まさか人生で、年下を誘う瞬間が来ようとは、思ってもいなかった。
でもそれは断片的に見れば、ただの愚かな行為でしかない。
私の人生は、私しか知らないのだから。







2013.08.01

[ 99/351 ]

[*prev] [next#]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
×
- ナノ -