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104メンツが高校生
若干の現代パロディ








喋ることで、話すことで、基本的な知識を得る。
それを当たり前と捉えられずに文字の世界に篭るのなら、得られる知識は減るのだろうか。
減るわけでもなく、増えるとしたら、喋ることも話すことも、明かすことも、どうだっていい。
手を伸ばして届く距離に、知識は詰まっている。
本はいい。
何も喋らないし、知識を与えてくれる。
人と違って、間違いを正しいと威張ることはない。
たまに、紙に口紅がついたりするけれど、そういう時は本がキスを求めに来たと思うことにしておく。
書物に触れることが好きだったから、高校を出てすぐに図書館に務めた。
服装も派手にするのは休みの日だけでいいから、仕事は仕事、遊びは遊びと切り替えができる。
だから、仕事は気に入っていた。
図書館には、沢山の学生がくる。
見ていると、特定の仲良しグループがいたり、一人が好きな子もいたりする。
一度だけ見る子だと思えば、別の子と来たり、ただ見ているだけでも人間関係が浮いて見えることもある。
人間関係が他者から見えることは、大人になればなるほど隠す。
何も隠さない、隠し事をする賢さを知らないままだと、大人でいることはとても難しい。
誰が悪いわけでもなく、悪い誰かから身を守るために覚えることのひとつ。
何も知らない子供は好きではない。
特に年下趣味はなかったけれど、毎週金曜、一人で勉強しにきている男の子がいる。
がっしりした体格で、ラグビーでもやってるんじゃないかってくらい、ごつい。
男らしい顔をしていたけど、制服を見る限り近くの偏差値が高い高校の高校生だ。
随分大人びていたから、目を奪われ、司書席から凝視していた。
金髪に、鍛えられた体。
何度か貸し出しや本探しのために彼と会話しているけれど、低めの声に、口は悪そうだけど丁寧な喋り方。
いつの間にか、私は彼のことが知りたくなっていた。
図書館にくるだけの学生が興味の対象になってしまった。
年下なんて、興味ないのに。
感情に整理をつけたくて、恋愛や脳の伝達物質の本を読んだけれど、どの本を読んでも、年下男性、それも10代にときめくのは少年愛としか書かれておらず、頭を抱えた。
そんな趣味はない。
でも、気になっていた。
子供なのに、やけに大人びた子は、どんなことを話すのだろう。
どこにも書かれていない知識に、手を伸ばしたい。

仕事帰り、図書館からは喫茶店が相当近い。
夜のつまみでも買って帰ろうとした時、喫茶店前で屯する二人の長身男子高校生と、背の低い女子高生がいた。
男の子二人のうち一人は、見覚えがあった。
金曜日にくる男の子。
隣にいる黒髪の男の子と金髪の女の子は、友達だろうか。
金髪の女の子の後姿を見てから、黒髪の男の子の足から伸びる長い影を見つめた。
細い影、その横に、長い影が添うように落ちている。
なんとなく視線を合わせたら、男の子と目があった。
気づかないふりをして、さっと喫茶店に入る。
この喫茶店にいるということは、女の子の付き添いだろう。
喫茶店に入ると、冷たいくらいの冷房の風が肌を撫でた。
この時間はまだ品数があるから、必要なものだけ買うことができる。
もっとも、繁華街近くの喫茶店の品揃えを見てしまえば、なんてことはないのだが。
携帯を見て時間を確認すると、十九時を回っていた。
学生はそろそろ帰れと言いたいが、高校生にもなったら夜にカラオケくらい行くだろう。
いくつかのお菓子を買って、会計を済ませた。
会計している間、男の子のほうをそっと覗き見るように視線をずらした。
何か話していたのち、黒髪の男の子と金髪の女の子が去っていった。
手を振って何か言っていることから察するに、屯も終えて帰宅といったところだろうか。
会計を終え、すこしばかり雑誌を立ち読みした。
特に買いたい雑誌はないけれど、海外のゴシップ誌をぱらぱらとめくり、元の位置に戻す。
紙の間に爪を挟んで、指先の力を少しだけ持っていかれる。
一連の同じような作業じみたことをしているうちに、帰りたくなった。
袋を片手に持ち、冷気漂う喫茶店から出た。
自宅への道にたどり着くまで、十分ほどかかる。
歩いてる間、音楽でも聴いていよう、そう思った時。
「あの、お姉さん。」
お姉さん、なんて呼ばれるのは街中のキャッチくらいだ。
音楽を聴こうとした手を止め振り向くと、あの男の子がいた。
自分の中だけで通用する名前もつけていない、あの男の子。
まあ、偶然ね!なんて言う気は起きず、言葉も返さずに声をかけてきた男の子を見つめた。
「図書館の人ですよね。」
思ったより、丁寧な喋り。
それでも、声はなかなかに低い。
「そうだけど」
「よかった、お姉さん、土地勘あります?」
男の子は、困ったような顔で笑った。
笑い方に残る若干のあどけなさを見て、高校生なんだなあと思う。
大きな体に、大人びた雰囲気に見えるのは、この男の子が高校生だということが分かっているからだ。
「あるよ」
「いや、俺、この辺りの土地勘なくて。」
「なんでそんなこと聞くの?図書館に来てたじゃない」
私がまず疑問をふっかけると、痛いところを突かれたように男の子が答える。
「一人で帰れるかって言われて、帰れるって言ったんだけど帰れなくて・・・」
きっと、先ほど見た二人の前で虚勢を張ったのだろう。
黒髪の男の子のほうは、優しそうな子だったのに、強がったのか。
思わず笑ってしまった。
「わ、笑わないでください!」
「そっか、家遠いんだ?」
「はい。」
私の中に、いくつかの選択肢があった。
お金を渡して、タクシーに放り込む。
道案内をする。
またはお金を渡して、カラオケにでも放り込む。
だけど、男の子は制服だからカラオケから追い出されるだろう。
しかも、今日は金曜日。
一番いいのは、タクシーだけど、私の悪戯心が働いてしまった。
ぞわぞわと動き出したのは、大人っぽい高校生の男の子だから、というだけで、邪な思いは特にない。
これが邪というのなら、私は永遠に何かを探ることを許されないだろう。
私は大人だ。
だから、子供には親切でいないといけない。
「私の家近いから、始発までいる?」





2013.08.01

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