早朝のふたり




「オレに優しくして、周りから良く思われてえってんなら他あたれ。」
ちがうの、私は都丹さんが好きなの。
「目の見えないジジイを弄びたいのか?趣味悪いぜ。」
そんなんじゃない、私は都丹さんが好き。
「誰でもいいんじゃなくて、オレがいいのか?」
そうよ。
「…………。」
都丹さんが好き。
「……離されない覚悟はしとけよ。」



懐かしいような夢から目が覚めて、朝焼けの空の光で瞳孔が縮む。
起きてすぐに体の変化を感じて、軽く呻いた。
「ん…ねむ……」
子宮が疼き、性器から愛液が溢れているのを起き抜けに感じ取る。
布団の中で何度か寝返りを打ってから、疼きの正体を突き詰めた。
昨日、都丹さんと二人で出かけた際に良い雰囲気になって、蕎麦屋の二階でまぐわった…が、時間が足りなくて陰茎を挿入せずに終わった。
たまにあることだけど、昨日は特に良かったのを覚えている。
都丹さんと一緒にいると、落ち着く。
触れ合って、笑いあっていると、好きという思いが溢れて身体を重ねたくなってしまう。
まぐわうなら思いきり感じたいし乱れたい、気をやりたいし熱を感じたい。
微睡んだ頭で欲の上澄みに触れる。
陰核を弄り、膣内を指で刺激しても、違う。
「……んっ」
脳裏に浮かぶのは、昨日の情事。
不完全燃焼の私は指で性感を探る。
都丹さんの指と舌が性器に触れたときの快感は、自分一人では引き出せない。
「…自分じゃ、むり…」
ふう、と溜息。
布団から起き上がり、井戸の水を汲みに行こうと廊下を歩き出した。
永倉さんも目が覚めない時間に、私一人で屋敷を歩く。

縁側を通り、井戸へ向かう廊下の向こうで都丹さんが寝ているはず。
起こさないように、と静かに歩いていると、襖が開いた。
さっき起きたと言わんばかりの顔をした都丹さんと目が合った。
「なまえ、早起きじゃねえか。」
都丹さんの後ろには寝起きで乱れた布団があって、いつもの服は枕元に畳んであった。
足が開いた襖に向かい、都丹さんの元に座る。
「目が覚めてしまって」
「まだ誰も起きてねえぞ。」
「いま何時でしょうかね、五時くらいかしら」

浴衣姿の都丹さんが、眠そうに欠伸をした。
寝巻にしている浴衣から見え隠れする刺青と欠伸は似合っていなくて、つい微笑んでしまう。
もっかい寝るかあ、なんて言い出しそうな都丹さんを伺えば、そっと腕を掴まれた。
「さっきの、聴こえてた。」
「え」
腕を振り払う気になれず、先ほどの布団での出来事を必死に思い返す。
目が覚めて、自慰行為をしようとして、やめて、起きて。
変なことは言っていないはずだし、呼吸や衣擦れの音が聴こえていたのだとしたら。
私の指先を嗅いだ都丹さんが悪戯っぽく笑う。
「朝から盛りやがって……。」
「…どこまで聴こえてたの?」
「あの時の息遣いに声が混じってた、何も知らない奴が聞けば寝言だと思うから安心しろ。」
都丹さんは眠そうな顔をしているけど、私の腕を掴む力は決して弱くなかった。
朝の冷たい空気が、肌を撫でる。
赤面しても都丹さんには見えていないのをいいことに、思い切り泣きそうな顔をした。
「昨日のが、まだ……でも、一人でしようにも、全然イけなくて…」
都丹さんの指じゃなきゃ、イケないの。
「おいおい、朝だぞ…。」
「そっちだって朝に勃つんでしょ」
「そうだけどよ。」
そっと都丹さんの側に寄って、浴衣から見える脛を撫でた。
浴衣の下に朝勃ちのものがあると思うと、都丹さんの下半身から目を離せない。
脛を触る手を取られ、引き寄せられる。
「なまえ、声は抑えろ。」
大きな手で胸を覆われ、身を任せた。

「昨日の、そんなに不満だったか?」
耳元で囁かれ、腰の中身が砕けていく。
太く、節くれだった指が肌を伝って太ももの隙間に入り込む。
「不満じゃない…」
「足りなかったのか。」
「うん………中で…庵士さんのちんぽが挿入ったままイキたかったの」
朝日の眩しい早朝には相応しくない言葉を口にしながら、都丹さんの指が性器を触るのを待った。
愛液がお尻まで垂れているのが分かるし、足が動く。
腰を揺らして、快感を期待した。
「じゃあ今ここでイカせても駄目だな。」
「わ、わかんない、駄目じゃないけど、イってるときに、ずっと奥突かれるの好きなの…」
大好きな人とのまぐわいほど、心地の良いものはない。
抱き合い、気持ちを確認しあってから口付ける。
背負っているものを全部放り投げて、ただの動物になって、怒張した陰茎が挿入されて何度も抜き差しされる瞬間。
「自分の指でイケねえのか、とんでもねえ駄目まんこだな。」
私も都丹さんも、互いに乱れ喘ぐだけの肉になる瞬間が恋しい。
「ぶっ壊れたみたいに濡らしてんじゃねえか。」
口を塞がれ、都丹さんの指が性器を這った。
声を出してはいけない背徳感に発情しながら、脚を開いた。
まだ皆が寝静まっている、間違っても嬌声で起こしてはいけない。
都丹さんも声を求めているわけではなさそうで、必要以上に音を立てることなく、緩やかな刺激だけを与えてくる。
陰核は硬くなるたびに、指の腹で可愛がられていく。
皺のある手のひらが愛液で濡れていくのを見ながら、快感に浸る。
敏感な部分への優しい愛撫。
尻を左右に振って強請ると、人差し指と中指が陰核を責めた。
気持ちよくて、押し付けるように腰を上げる私のために都丹さんの指が動く。
指の腹は愛液でぬるぬるになって、溶けてしまいそう。
足に力を入れ、快感を受け入れる。
待ち焦がれた絶頂に腰が大きく跳ね、子宮が痙攣した。

息が詰まってから何度か動いた腰から手が離れ、都丹さんは私の顔を撫でる。
「収まったか?」
ぼうっとしたまま、都丹さんを見た。
目は見えていないのに、私の身体を知り尽くしてる。
「都丹さんは…どんな風に感じてるの?」
だから、気になった。
都丹さんは枕元に畳んであった服の一番上にあったスカーフを手に取り、私の目元に巻きつけた。
「こうすれば分かる。」
スカーフで目隠しされ、朝日が見えなくなる。
都丹さんの匂い、性の匂い、朝日の匂い、朝の冷たい空気の匂いを感じ取ってから、大好きな声を耳にした。
「お揃いだな。」
真っ暗な視界でも分かる。
都丹さんと顔が近い。
言えば「見えないからどのくらい近いか分かんねえな。」と言われるに違いないから、何も言わずに抱きしめた。



布団に移動し、身体をまさぐられる。
手と舌が這うのは普段と同じなのに、目隠しのせいか敏感になっていた。
体が熱くて、期待を欲して止まない。
「助平な身体になったなあ…前より感じるようになってるじゃねえか。」
背中に、熱い舌が這う。
生暖かくて滑る熱の塊が背中を舐めて、反射的に腰が跳ねる。
声を出す代わりに、布団を握りしめたまま息を沢山吸い込んだ。
快感に身悶えする私を、庵士さんが褒める。
「綺麗だな。」
「見えないのに…わかるの?」
「見えねえぶん、こうでもしねえとなまえを感じれねえんだ。」
触感、声、音、見えないもの以外の情報で庵士さんは感じている。
庵士さんは私の背中を舐め、身悶えし声を必死で抑える私を楽しそうに食べた。
生き物のように動く舌から与えられる快感で、腰の力が抜けて、前のめりになって布団に倒れ込んだ。

うつ伏せになった私に、庵士さんが覆い被さる。
私を何度も気持ちよくする手が、私の顔の真横に置かれた気がした。
ゆっくりと挿入され、お尻と腰が密着してから、熱の通った身体の一部が体内で動く。
目の見えない庵士さんの性感を高めたくて、愛液まみれの指を舐めた。
自分の味がして、美味しいとは言えない。
舐めたほうの手が近くから消え、陰核に刺激が走った。
「んっ、はあっ……」
腰を動かされながら陰核を撫でられ、布団に顔を埋める。
「これが好きなんだろ?オレもこれ好きだわ。」
「す、き…これ、すき」
「なまえがこれでイクと、すげえ締め付けられて持ってかれそうになる。」
肌のぶつかる音、衣擦れの音、呼吸、声。
全てがいつもよりも小さいけど、重なっている身体だけは変わりない。
「ズリネタのために反芻しちまってよぉ…ちんぽがないとイケないなまえも卑猥なもんだ。」
「思い出してない…ちがうのっ…」
「何が違うんだ、一人じゃ満足できねえんだろ?下の口がヨダレ噴いてんぞ。」
耳元で聴こえる庵士さんの年季の入った猥語に、脳が焼ける。
庵士さんが私の身体で気持ちよくなっている姿は、目隠しを外せば見れる。
視界が奪われた今、はあはあと荒い息遣いをする低い声や口づけるときの呼吸、私を抱きしめるときに縋り付くような息をすること。
体の全てが、興奮材料になる。
満足したい、庵士さんで気持ちよくなりたい。
「ちんぽじゃないっ…庵士さんじゃなきゃ、庵士さんじゃないとイケないの…っ」
「…ほら、イケよ。」
陰核が何度も擦られ、奥を刺激するように突かれる。
膣内を抉る感覚と陰核の快感を貪り、足の筋肉が張り詰めた。
「んっ…!!!あっ…!」
ああ、やばい、イキそう。
いつもなら杭を打つように腰を打ち付けられるのを思い出して、庵士さんが私のために腰を振っているのを感じる。
陰核から引き出された絶頂を迎え、仰け反って身を捩った。
声は出さず、静かに達する私の中に包まれている庵士さんの腰が荒っぽく動く。
「次…あの蕎麦屋、入ったら…ッ!オレが満足するまで離さねえからな。」

そっと目隠しを外すと、庵士さんは何度か耳を澄ませていた。
誰も起きていないかどうか確認して、腰を進めている。
苦しそうな顔で腰を振る庵士さんが愛しくて、脚を絡めた。
「嬉しい、私でいっぱい気持ちよくなって」
耳元で囁き、庵士さんの耳を舐めた。
筋肉質な肩が震え、身体の中にある肉棒が一回り大きくなるのが分かる。
絶頂の余韻の中で挿入される、余裕のない快感に浸る子宮に射精され、粘膜に熱が溶ける。
庵士さんは私の体に崩れ落ちて、汗ばんだ腕で抱きしめてくれた。
「はあ…はあ…。」
「あんじさん…きもちよかった、幸せ…」
「…朝からは控えてくれ。」
うん、と頷いてから、部屋に充満した匂いに気づく。
膣内にある精液は後で処理するとしても、着替えないと汗と匂いでバレてしまう。
庵士さんは私に抱きついたまま、心臓の音を聴いている。

「抱き合ってると…したくなって、気持ちよくなりたくなっちゃう。」
「…オレも。」
「庵士さん、私、幸せよ」
胸に耳を当てる庵士さんは何だか可愛らしくて、つい撫でてしまう。
白髪頭や肩を撫で、刺青のある背中を優しく触った。
「なまえがいてくれたら、耳も聞こえなくなっていいや。」
庵士さんの、この上ない安心を知れた気がした。
私がいてくれたら、その言葉に感情が燃え上がる。
顔をずらして、耳をそばだてた庵士さんが周囲の就寝を確認した。
「まだ皆寝てる、少し休んでいけ。」
庵士さんは掛け布団を引っ張って、二人だけの世界を作った。
熱い体には冷たく感じる掛け布団の中で、抱き合う。
口づけあって、舌を絡めた。
私と庵士さんの世界に、卑猥な音が響く。
目が見えていないことが気にならなくなるくらい、庵士さんと通じ合う気持ちが愛しい。

雀が鳴き始めたら、起きよう。




2022.06.10



[ 325/351 ]

[*prev] [next#]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -