嬲る耳



縁側で昼寝をする都丹さんと背中合わせになって、本を読む。
昼下がりの穏やかな時間に一緒にいると、落ち着く。
都丹さんは寛いでいるときの私の心音が好きらしく、暇をしていると背中合わせになりたがる。
好き同士になってから、一緒にいることが格段に増えた。
知りたいことも、増えていく。
「なまえ、今日は何読んでんだ。」
「夏太郎くんから貸してもらった郷土本」
「何だそれ。」
「私が知らない話や言い伝えや料理のことが書いてあるの」
へえ、と相槌を打った都丹さんの背中に寄りかかる。
本には「この村では適齢期になると男性は髪を伸ばし、編み込む」と書かれていた。
「髪の毛、どうしていつも丸刈りなの?」
ふと気になったことを聞いてみれば、すぐに返事が返ってくる。
「風呂入る時、楽だから。」
「髪が短いと楽なの?風呂に入るとき、一人で危なくない?」
一人で歩いているのが心配だから、と腕を掴んだこともあった。
都丹さんは目が見えていないけれど、見えていた時期があるおかげで一人で出来ることのほうが多い。
心配することもない、でも気になってしまう。
背中合わせで表情が見えないけど、都丹さんはしれっと納得した。
「うん、オレ一人での風呂は危ねえな。なまえも一緒に入ってくれ。」
「ええっ」
「恥ずかしがらなくていいぞ、オレはなまえの裸は見えねえからよ。」
「そういう問題じゃないでしょ」
都丹さんが起き上がり、私の腕をそっと撫でた。
「ほら、コレあるから他の奴らと一緒には入れねえんだよ。」
コレ、と都丹さんが差した先には、先日の情事で私が噛みついた痕が残っていた。
「あ」
「どこの猫にやられたんだって牛山あたりに面白がられそうでな。」
ははは、と笑った都丹さんを見て、すこし恥ずかしくなる。
他の人に曝け出すには躊躇う噛み痕を、都丹さんなりに気にしていてくれた。
それが嬉しくて、起き上がった都丹さんの二の腕に触れる。
そっと立ち上がり、風呂道具を探しに行った。


「見えてないから入ってこいよ。」
全裸の都丹さんが、既にお湯に入っている。
滑ることもなく湯舟まで行けたのだ、私が風呂の介助をする必要はないんだろう。
でも、私も分かっている。
風呂場は声が響く。
耳のいい都丹さんにとって、ふかふかの布団よりも良い場所なのだ。
お湯に入ると、都丹さんは私を抱きしめてきた。
熱いお湯の中で抱き合うと、すぐに湯だってしまう。
私の首元に耳を当て、心音を聞く都丹さん。
刺青の入った体で甘える姿に心をくすぐられ、白髪頭を撫でる。
「からだ、洗ってくれ。」
「うん」
湯船から上がり、風呂の椅子まで難なく移動する都丹さんを見て介助の意味を見失った。
ゆっくり湯船から上がり、石鹸を手に都丹さんの後ろに座る。
刺青のある背中を泡で洗うと、都丹さんは気持ちよさそうな吐息を漏らした。
「手がすべすべで気持ちいいな…。」
「それはよかった」
身体を洗い、頭を洗う。
洗う間、噛みついて出来た痕を見つめた。
まぐわっている時だけは都丹さんのことを「庵士さん」と呼ぶ。
名前で呼ばれると、都丹さんは興奮してしまう。
噛み痕を見ていると名前で呼びそうになり、ぐっと堪えた。
短く刈り込んだ頭は洗うのが楽で、あっという間に洗髪できる。
お湯を掛け流し、私に洗われて綺麗になった都丹さんは笑顔で私を引き寄せた。
「オレにも洗わせろ。」
「見えてないのに!?」
思わず言い返すと、都丹さんは笑った。
「触れば分かるだろ。」
石鹸を手にした都丹さんが、私の身体を洗う、もとい身体をまさぐる。
ぬるぬるした手が、私の身体を撫でていく。
大きな手に厚い胸板、何度も抱き合った身体。
洗いながら指先を弱いところに当ててくるのが分かって気持ちよさが身体に忍び寄りだす。
背中、脇の下、お腹、臍、足、洗ってくれている手の動きに夜事の指先を思い出し、子宮が疼きはじめる。

「夏太郎のやつ… なまえのこと気にかけてんだな。」
都丹さんの、焼きもちが始まった。
「そんな、友達だよ」
「気にならない女に本を貸したりしねえよ、鈍いフリしてオレを出し抜く気か?」
意地悪なことを言うときの都丹さんは、少し荒っぽくなる。
代わりに、指先は快感を正確に引き出す。
太い指が陰核に触れ、内腿が震えた。
「やだ、やだ、そんな…」
「夏太郎じゃ満足できないようにしてやるよ。」
こういうことを言われながら責め立てられると、すぐに気をやってしまう。
どうしよう、どうしよう。
都丹さんの指は私の快感を引き出してきて、性器はすぐに濡れてしまった。
身体をまさぐられながら性器を弄られ、都丹さんの手のひらが私の愛液で汚れていく。
太い指で陰核を撫でられ、全身の力が抜けて身を任せると、すぐに気をやってしまった。
風呂場の床に粘度の高い愛液が落ちて、恥ずかしい。
私は都丹さんの体と髪をしっかり洗ったのに、私は好きなようにされてしまうの?
でも、なに?
焼きもちだからって、こんな時まで夏太郎くんの名前を出さないで。
都丹さんに向き合い、たまらず抱きついたフリをしてから、人一倍敏感で音を味わっている耳に舌を絡めた。

「っお、おま、うおっ…!」
面白いくらいの悲鳴を聞いて、都丹さんの片方の耳を手で塞いだ。
都丹さんの頭を抱きしめるように寄り添ってから、耳を舐める。
「おわあああ、わああ!なまえ!やめっ、やめろ!」
情けない声をあげる都丹さんの言うことなんか、聞いてあげない。
耳珠と耳たぶに舌を這わせ、音を鳴らす。
都丹さんの両手が私の後ろで暴れている気配がするけど、無視。
じゅるじゅる、ぶちゅ、べちょ、ぢゅるる、ぶちゅ。
都丹さんが私を舐めるときに出すような音を鳴らしながら、耳を舐めて鼓膜を支配する。
耳甲介を舐めながら舌を蠢かせ、わざとらしく音を出した。
「ああああ…!!やめ、やめっ、なまえ…!」
舌先が耳孔に触れて、唾液が僅かに垂れる。
都丹さんの呼吸がだんだん荒くなり、悲鳴は呻き声に変わっていく。
塞いであげているほうの耳が、燃えているかのように熱くなっていた。
唾液をまとった舌で、大きめの耳輪を舐める。
わざとらしく息を吹きかけて、意地悪をし返した。
「都丹さん、ひどい。私は都丹さんにしか身体を許してないのに」
卑猥なことをしているけど、庵士さんと呼んであげない。
「わかっ…わかってる。」
息も絶え絶えに答える都丹さんが面白くて、耳孔に舌を突っ込んでみると「ぎゃっ。」と短い悲鳴がしてから、都丹さんの上半身が震えたのが分かった。
ぎゃっ、って何?
嫌なの?
舌で都丹さんの耳の形を覚え、唇で耳を食む。
唇の裏側で耳輪を扱くように舐め、舌の真ん中で耳孔に水音を響かせた。
目が見えないぶん、人一倍耳を使う人の耳で淫靡な音が避けられないくらいの至近距離でするのは、どんな気分なのだろう。
耳全体が唾液で滑り、溶けそうなくらい熱くなっている。
「わるっ、悪かった、オレが悪かった!!」
「何に対して悪いと思ってるか言って」
耳元で囁くと、都丹さんの身体がびくびくと震えた。
どうしたの、その反応。
まるで、都丹さんに責められて気をやってる私みたい。
興奮で赤くなった皮膚と軟骨の窪みを舐めると、唾液の淫猥な音がする。
息を切らす都丹さんが、私の腕にしがみつく。
「なまえの……きも、気持ち、を、考えず………ひっ……気持ちいい………。」
「あーあ、駄目になっちゃってる」
耳輪を食んで、耳珠をしゃぶる。
じゅるるる、ぶちゅ、と音を鳴らした後、音を立てて耳朶を吸う。
都丹さんの耳と首のあたりから、私の唾液のにおいがする。
「はっ…はっ…… なまえ……もう…。」
強めの力で押し返され、渋々身体を離してから都丹さんの顔を伺う。
だらしなく開いた唇、顎髭に垂れた唾液、困ったような目つき、赤い顔、汗ばんだ首筋と額。
唇を震わしている都丹さんなんて、初めて見た。
普段よりも大きくなった陰茎を隠しもしない都丹さんに、謎の支配欲が湧き上がる。
漠然と「いけないことをしてしまった」と思いながら、息を必死で整えている姿を凝視した。
「今の…全身舐め回されたあとに…空になるまで出した金玉をしばかれた感じだ…。」
「たとえが分かりにくいわ」
「……加減を…考えてくれ…ちんぽが苦しい…。」
息を切らした都丹さんが、風呂桶のお湯を私にそっとかける。
泡が落ちて、さっぱりと綺麗な体になった。
同じように都丹さんにもお湯をかけると、腕を掴まれ手の甲に口付けられる。
都丹さんからの「我慢できない、思いきりしたい」誘いの合図。
見えていない両目、私を伺っているかのような真っ赤な顔。
そっと口づけたあと、風呂場を後にした。



部屋についてから、呼吸する暇もないほどに口づけられた。
引き締まった身体に抱き寄せられると、逃げることはできない。
洗い立ての身体で汗をかくため布団に飛び込み、座り込んだ体勢で庵士さんを受け入れる。
庵士さんの背中に腕を回し、刺青を指でなぞった。
「くすぐってえ。」
彼はそう言ってから、私の胸を舐めた。
胸から腹、腰、臍、性器、足と舐められて痕をつけられていく。
身体には庵士さんがつけた口づけの痕がいくつもあるし、私こそ庵士さん以外に身体を見せられない有様だ。
「やあ、庵士さん…気持ちいい」
私と庵士さんの体は、互いしか許していない。
庵士さんは舐めるのが好きだし、私は彼に舐められるのが好き。
「なまえ……声が良い、聴かせろ。」
先ほどまで舐めていた耳に「たくさん気持ちよくなるから」と囁き、庵士さんの頭を撫でる。
洗ったばかりの頭からは、石鹸の香りがした。
庵士さんに跨って、陰茎を体内に招く。
「はああ、あん、はっ………」
「どうなってる?」
わざと聞いてくる庵士さんが、愛しくてたまらない。
「いつもよりおっきいちんぽが、私の中に入ってるよ」
「なまえがこんなにしたんだからな、どうしてくれるんだ。」
「私の…庵士さん専用おまんこで、精子びゅーびゅーっていっぱい出させてあげる」
「助平なことばっかり…言いやがって…最高だ。」
濡れたそこは難なく庵士さんを包み、肉の中に熱の塊が収まった。
陰茎の先が奥に当たるたび、子宮が伸縮するような感覚がする。
「耳を舐められるの、そんなによかった?」
「出ちまうかと思った。」
「ふふ、耳だけでイケるようになろうね、庵士さん」
体内で、庵士さんがまた大きくなる。
耳がよほど良かったんだろう。
腰が揺れるたびに、水音がする。
肌の触れ合う音と、互いの呼吸。
「なあ、オレがこんなんでいいのか?」
「こんなん、って?」
「幸せでいいのか、ってな。」
光を失った囚人。
その背景を上書きするために、愛がある。
「いいのよ」
幸せでいい、庵士さんにそれを分からせるために私は身体を開く。
獣のような息遣いの庵士さんが、私を抱きしめながら腰を動かす。
結合部が擦れる快感を貪る私を捕食するように、庵士さんが私の身体を舐めてはまさぐる。
耳を舐めた時のような音が下半身から聞こえて、恥ずかしい。
「なまえ…っ、なまえ、かわいい、かわいい…好きだ、かわいい。」
「私も」
「ずっと好きだ、なまえ、かわいい、愛してる。」
愛を囁く庵士さんを見て、いけないものを思い出す。
風呂場で蕩けてしまった庵士さん。
耳が人一倍弱くて、たくさん喘いでしまう姿。
衝動が抑えられず、庵士さんの耳をしゃぶった。
「っお……!うおっ、ああ!!やべぇっ…!」
舌で包んだ耳に熱が集まる。
耳孔を舐めてから、腰を動かす。
「んむ……ちゅ、庵士さん、大好きよ」
庵士さんの耳を愛撫しながら膣内を締めて、搾り取るようにお尻を振った。
愛液が肉に触れる音と肌のぶつかる音に掻き消されそうな庵士さんの声が、私には確かに聴こえる。
「ひっ、いっ、うわあ…っ!」
私を強く抱きしめた庵士さんが、精を放つ。
膣内にある陰茎が動き、生暖かい熱がお腹の奥に滲んだ。
体温が心地良くて喘ぐ私の顔のすぐそばに、庵士さんの顔がある。
庵士さんが耳を舐められる快感に塗れた顔は、私しか知らない。
「なんで、なんで…オレの耳を……。」
「庵士さんがやらしい顔してたから」
「…年寄りを辱めて、楽しいか…?」
「すっごく」
「なまえには勝てねえ…。」
庵士さんが私の首元に寄りかかり、耳を胸に当ててきた。
私の心音を聴く穏やかな顔を見ていると、私まで落ち着く。
「…………今日の、また、やってほしい…。」
胸元で絞り出された声を聞いて、微笑みながら庵士さんを抱きしめた。
二人で絡みあって汗まみれになった、また風呂に入らないと。




2022.06.06




[ 323/351 ]

[*prev] [next#]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -