side:B


鋼夢Webオンリー『Don't forget you』参加した際にネットプリントにて配布したSSです。





脚を壊した少尉が店主をしているカフェの扉の小窓から、見知らぬ者を観察する。
少尉が脚を壊したのは、ヘンシェルの代わりに山岳警備に向かった時。
足場と打ちどころが悪く、長時間勤務ができない脚になった少尉を責める者は誰もいなかった。
身寄りが無い者は、ブリッグズに山ほどいる。
行くあてのない少尉のために、以前より存在していたカフェに勤務することを提案したのはボスだった。
呑気な顔でコーヒーを淹れる少尉と世間話をする目的で週に一度は顔を出していた、あの時「お前がヘンシェルの代わりに出たらどうだ。」と言ったのは、俺。
寂れたカフェに、黒いワンピースを着た女性がいる。
白いシャツから伸びる腕でテーブルを拭き、あちこちを片付けていた。
見た目だけでも目を引くカフェのウェイトレスが動きを止めて、テーブルを拭く手を止めて奥に隠れる。
観察をやめて、そっと扉を開けてカフェに入り適当な席に座った。
女性がこちらに気付き、手際よくメモを用意する姿を見て見ぬふりをして席に着く。
テーブルと床は普段よりも綺麗な気がしてならない俺に、女性が注文を取るべく駆けつけてすぐ「コーヒーひとつ。」と言う。
頭上から「畏まりました。」と高くて間延びした声がする。
席に座り、先ほど見たワンピースから見える長い脚と背格好で納得する。
山岳警備兵長の親類の友人だったか、知り合いだったか、軍属ではない者が働き口のために辺境に来たことは噂になっていた。
入所初日に顔を見た兵士の異様な沸き上がり、すれ違う部下たちがカフェの補充人員の話をしている時の顔。
男ばかりのブリッグズ、たまにいる女性は注目の的になってしまう。
目の前にミルクがついたコーヒーが置かれ「お待たせいたしました、コーヒーです。」と伸びた腕から胴を目で追って、それから女性に目を奪われた。
背格好、顔つき、髪と目と肌の色、全てが初めて見る毛色。
訳ありが集まれば、自然と多種多様なルーツを持つ混血も増える。
外見で大体どこの国の人間か分かる俺でも、この女性がアメストリス人ではないこと意外が分からない。
どこの国の人間だ、と女性を観察する――――ボスのような凄みのある美しい顔ではない、とにかく可愛らしい顔をしている。
かわいい。
邪な気持ちが芽生えたことに気付かれたのか、目が合う。
女性は俺と目が合うなり、にこりと笑った。
「ごゆっくりどうぞ。」
胸が締め付けられるような感覚を覚え、動揺を抑え込んだ声で返事をしてコーヒーを飲む。
動悸がして、顔に熱が集まる。
風邪だ、風邪に違いない、これを飲み終わったら先生のところに行こう。




2021.10.10

[ 316/351 ]

[*prev] [next#]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -