下劣なり、その愛欲





「遠征?」
「そうだ、暫く開ける。」
春秋のことだ、また率いるチームを育成したのだろう。
いつも通り「春秋、気を付けてね」と言うつもりが、春秋に先を越される。
「明日には俺からのプレゼントが届くようにしてあるから、使ってくれ。」
突拍子もない言葉に、嬉しくなる。
にこりと爽やかに笑う春秋の裏には、大体いつもロクなことがない。
「プレゼント!?なにかな」
それでも、こういう時は乗っておくと楽しいのが、春秋という人のやること。
以前、冬島さんがコンドームしか釣れない小さいBOX型のゲームを作った時も、率先して人目につくところに置いたのも春秋。
ゲームを見つけた沢村さんに殴られる冬島さんを見て、爽やかに笑う春秋を思い出す。
春秋のユーモアは黒く、薄暗さを持っている。
「あんまり期待しすぎないでくれ、まあ、俺の気遣い…というか?」
だけど、人目に出さずにいるには惜しい。
そんなユーモアの持ち主が、春秋。
プレゼントと聞いて、わくわくしないほうが珍しい。
「気に入らなかったら、俺が帰ってくるまでクローゼットの中に置いておけばいいから。」
この会話が、つい数日前のこと。
いまの私の目の前には、春秋のいない部屋に段ボールがひとつ。
品目には「精密機器」と書かれ、段ボール箱は清潔感のある洒落っ気のなさ。
中身が何かは、大体想像がつく。
丁寧に箱を開け、梱包資材の黒い袋を取り払うと、ピンクの箱に入ったバイブレーターが出てきた。
男性器の形を模したものと、小さな貝のようなデザインのもの。
箱には「ラブアクメ!初心者向け一人えっち」と書かれている。
もし目の前に春秋がいたら、箱ごと投げつけているだろう。
でも、今は春秋がいない。
クローゼットの中にアダルトグッズが無いわけではないし、コレクションがひとつ増えたと思えばいい話。
プラスチックの薄いケースを捨て、ピンク色のバイブをふたつ手に取る。
丁寧にローションまで付属したアダルトグッズを見て、春秋もいないことだし下着を脱いだ。
服を適当に脱いで、男性器と貝を見比べる。
全裸でベッドに寝転がって、ガスメーターの取扱説明書よりも薄い説明書を読み、私が興味を持ったのは貝のほうだった。
男性器のほうはよく見るけれど、貝のほうはローターとバイブレーター機能を併用している。
見た目はスクイーズにありそうなマーメイドコレクションのおもちゃ、と言ってもいい。
おもちゃ箱に入れていても、アダルトグッズだとバレないだろう。
せっかく一人なのだ、膣内を使わずに絶頂を得てもいい。
ローションの蓋を開け、性器の窪みに数滴垂らす。
ひんやりした液体は、これから熱くなる性器の唇の中に溶け込むように垂れる。
貝のバイブレーターの真ん中を押すと、思っていたよりも細かく大きな振動を開始した。
指で少しだけクリトリスを擦り、感じることを確認する。
頭に思い浮かべるのは、この前見たエロ漫画でも映画のラブシーンでもいい。
自分の肉体の中で、快感を渦巻かせる。
一人ですることの気持ちよさは、ずっと前から知っていた。
バイブレーターを性器に当て、気持ちのいいところをゆっくりと探る。
何も考えていなくても、背負っていても、この瞬間だけ解放が許されていく。
クリトリスに当てて、刺激を手繰り寄せていけば気持ちよくなれる。
「んっ、んん」
刺激の奥、記憶と結びついた快感。
快感の種になるものは、しっかり分かっているのに。
バイブレーターを当てては離し、なんとか感じようとする。
「ど、うして」
春秋の指がここを這う。
指が行き来して、私を気持ちよくしてから、膣内に挿入される。
あの時の、快感。
興奮して愛液を垂らす性器は、なんでも求めているわけではなかった。
匂いも顔も、覚えている。
身体が、脳が、春秋を覚えているうちは、こんなもの使っても意味がない。
求める人がいないと、できない。
「いや、やあ、なんでえええ」
涙声に似た悲鳴をあげて、なんとか感じようと手にあるバイブレーターを押し付ける。
快感の手触りに似た感じはするものの、到底達するに至らない。
興奮して赤く腫れ、愛液を垂れ流す性器。
普段なら、一人だけでなら気持ちよくなれたのに。
「むり、むり」
春秋を知ってから、一人で出来なくなってしまった。
バイブレーターの音が間抜けに響く部屋で、快感を手繰り寄せる。
気持ちがいいはずの場所に当てても、絶頂に向かうまでの快感の波が全く来ない。
いつものじゃなきゃ、だめなんだ。
春秋の指と舌と、勃起したペニスがないと。
赤面した顔の情けなさをドレッサーの鏡に映し、タオルを手に取ったからバイブレーターの電源を切った。
「い…いけない…」
なんで。
熱でぼうっとした頭のまま、時計を確認する。
午後二時半を過ぎ、そろそろ夕飯を作らないと夜になってお腹が空く。
性欲どころで、ご飯に脳を使う余裕がない。
「…なんで」
春秋は暫く帰らないのに。
性感に不満が募るのを覚悟しつつ、バイブレーターを握りしめた。



それが数週間前の話。
何事もなかったかのように性欲で溢れた部屋の主として出迎え、春秋を許す。
同じ屋根の下で暮らしながらも、性欲に関しては真新しいことが常にあってもいい。
ここにいるのは、私と春秋だけ。
仲良くして、それから襲えばいい。
プレゼントのことを何も口にしない私を、すこしだけ気にかけているのか、目が合う回数が多い。
部屋着にしたジャージに身を包んだ春秋を見て、不意に声をかけてみた。
「ねえ春秋、なんであれくれたの」
寝巻姿の私が言うと、一層いやらしくなる。
もし私の頭の中が姿に反映されるのなら、寝巻ではなくセクシーランジェリーにも満たない下劣な穴あき下着だろう。
見ただけ平穏な私に、春秋が平静な声で返す。
「なまえが寂しい思いしないように?」
柔らかいベッドの枕元で寝る準備をする春秋は、何も知らないような顔をして笑う。
「で、どうだった?」
春秋が、私に囁く。
全てを見透かしたような目で、声で。
見透かしたい、見透かされたい。
「どうだったの?」
春秋に跨ったまま下着を脱いで、愛液の垂れるだらしない性器を晒す。
指に愛液が垂れ、熱に浮かされた身体の全てが性感帯になる。
「わかってたくせに」
「言ってくれないと、わからない。」
跨る私に驚く素振りも見せず、春秋は手を伸ばす。
大きな手が私の顔と背中に触れた。
それだけで、私の発情が引き出される。
「もう嫌、春秋、躾てえ」
声も、目つきも、腰つきも、春秋を誘う。
開いた脚の間にいる春秋は、優しく笑ってから私の側まで来てくれた。
「そうならないように、プレゼントしただろう。」
ちゅ、と唇にしてくれたキスを逃がすまいと春秋の頭を掴む。
春秋の薄い唇を舌で割って、春秋の上顎を舐める。
歯列をなぞり、絡めあった舌の隙間から漏れる吐息に鼓膜を奪われていく。
ベッドの上で春秋の身体を引き寄せ、手の付けようがないくらい発情した私の性欲の牙に春秋をかける。
「だめ、春秋じゃないとだめなの」
春秋の手を掴んで、私の下半身に誘導した。
大きくて長い指が臍下に触れて、子宮が疼く。
私の出来上がりを見て、春秋がゆっくりと性器に触れてくれた。
「うわ、凄い濡れてる。」
言わないで。
そう言う気も起らない。
肉唇の間にある突起に触れていく春秋の指に、バイブレーターでは引き出せなかった快感が生まれる。
指の腹でクリトリスを優しく触られて、喘ぎ声が漏れた。
貪欲に動く腰の中にあるものを受け止めた春秋は、私の首から胸まで、ゆっくりとキスをする。
「気持ちいい、気持ちいい」
発情期の動物と然程変わりない私の胸の先を舐める春秋の舌が、熱い。
春秋の指が動く場所から、ぐちゅぐちゅと淫猥な水の音がする。
「なまえ、アレ渡しただろう。」
「ぜんぜ…ん、使えなくて…」
「どういうこと?」
春秋が、指の動きを少しだけ緩める。
性欲に塗れた哀れな私を、春秋は貶すことなく受け入れてくれた。
無様で、惨め。
垂れる愛液の中にある肉壺は、期待と性欲で満ちる。
「触っても、自分じゃいけない」
「じゃあ、バイブ使っても気持ちよくなかったのか?」
「気持ちよくないい、全然だめなの」
春秋が、私に優しくキスをしてから耳元で「変態。」とそっと囁く。
背骨の中がぎゅうと締まり、子宮のあたりが痺れた。
素直に言えば、きっと気持ちよくしてくれる。
私の思いを汲み取った春秋が、責め始めた。
「我慢できなくなったのか?なまえ、可愛い。」
「が、まん、できないの」
「じゃあ、俺がいない間はあのバイブ使わないでイくの我慢してたのか?」
「うん、うん、我慢してた」
頷く私の姿を見た春秋は、赤い舌で私の胸を舐める。
春秋の目の中に興奮が座ったのを見て、悦んで脚をくねらせた。
このまま支配してほしい、私の身体の言い訳を、あなたが背負ってくれればいい。
「そんなにエロかったっけ。」
「ちが、う、春秋が」
「遠征、無理してでもなまえを連れて行けばよかったな。俺の性奴隷だって言って。」
卑猥な妄想。
男性なら誰でも必ず一度はする秘めた欲望と妄想を、ぶつけられる。
「次の遠征から、なまえのことを性処理道具だって言えば連れて行ってくれるかもしれない。」
「や、だあ、そんな」
「おもちゃを渡してもこんなになるんだから、皆に相手してもらったほうがいいだろう?」
「そんなの、やだ」
春秋が私の下半身に手を伸ばす。
いやらしい妄想も、春秋との間では唾液で汚すための砂糖にしかならない。
肉唇を大きな指が行き来して、溢れた愛液が春秋の指を汚す。
「ここ気持ちいい?」
優しく触れられるクリトリスが、どんどん硬くなる。
溢れてくる愛液が熱くて、触られているだけで今までの欲求不満が消し飛んでいく。
丸い小さな突起だけを弄るだけなら、春秋の指もバイブレーターも変わらないはずなのに。
「気持ちいいぃ」
「すごい声、なまえ、そんなに気持ちいいのか。」
「きもちいい、おねがい、もっとしてえ」
震えるほどの快感を浴びせられ、腰の動きが止まらなくなる。
今までの春秋とのセックスは、どんなものだっけ。
激しくもないし、怠惰でもなかった。
確実に私が毎回気持ちよくなっていたことだけは覚えている。
それ以外のことなんて、今は思い出せない。
喘ぎながら感じる私の脚の間に、春秋が顔を近づける。
いつもなら、恥ずかしくて一度脚を閉じようとするのに。
春秋の頭を掴んで、性器に口を当てさせる。
「おねがいいい、イきたいの」
春秋の唇の間から出た舌が、性器を舐めていく。
柔らかい舌が熱い性器を這う。
なにも考えられなくなった頭に音を伝えるためについた耳に、春秋の舌が出す下品な音が通り過ぎる。
掌にある春秋の頭を何度も撫でて、汗ばんだ手と身体の行き先を春秋に任せた。
「なまえ、気持ちいい?」
「きもちいい、春秋、好きっ」
「バイブのほうが振動もあるし、指と舌より絶対気持ちいいと思うんだけど。」
わかってる、言わないで。
頭を振ってから、春秋を見つめた。
「どうして気持ちいいか、言えるよな。」
座った目をした春秋が、私の脚の間にいる。
「わた、わたしは」
身体と頭が繋がっているという事実と、目の前にいる春秋とのセックス。
浅ましい優越を、抱きしめていく。
「春秋じゃないと、気持ちよくなれない、変態です」
どうしたいか、どうなりたいかも春秋に任せる。
手綱を咥えて散歩に行きたいと尻尾を振る犬のように、主人と言わんばかりに。
私の性器に手をやった春秋が、熱でダメになりかけた私の耳元まで寄ってくる。
「変態。」
そう囁かれてから、指が動き始めた。
ぬちぬち、とか、ぐちぐち、とか音がする。
脚が強張り、吐息が乱れていく。
「どこが一番気持ちいいか、言えるよな。なまえは良い子だから言えるね。」
指が這う、声が支配する、快感に鎖を委ねる。
私の支配を握りしめた春秋の黒い瞳孔を見つめながら、唾液まみれの舌で紡ぐ。
「春秋が、触るとこ、全部」
春秋の肩を引き寄せて、キスを強請る。
唇がくっついてから、舌が絡み合う。
指の動きに快感が引き出され、私の身体が強張っても指は止まらない。
腰が跳ねて、無様に達する私の中身が答える。
子宮のあたりが締まってから、だらしなく喘ぐ。
放心する私のお腹を大きな手が撫でて、そっと抱きしめた。
「なまえ、可愛い。」
優しく囁いてくれる春秋の低い声が掠れて、吐息と混じる。
欲情した春秋の声。
「疲れた?」
「うん…すこし…」
「なまえが落ち着いたら…中、いれたい。」
掠れている声は何度も聞いているのに、聞くだけで興奮してくる。
糸ひとつでも触れようものなら反応して跳ねる身体を、暫し放り投げた。
あのピンクのおもちゃは、どこに閉まったっけ。
面倒くさくて、思い出せない。
コンドームはベッドの横にある棚にある。
このまま春秋に任せたら、どんなことをされるんだろう。
快感を浴びせられ、もう動けない。
ぐったりした私の額にキスをする春秋の荒い呼吸ごと受け入れ、僅かに動く両腕で春秋を抱きしめた。








2021.01.31






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