光ちゃんとピロートーク



あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。



光ちゃんのスマートフォンが鳴る。
ピンク色の待ち受け画面が見えたけど、誰からメッセージが来たのかは知るのをやめた。
お互いの愛液でべたべたになった指でスマートフォンを触る気にならない。
でも、光ちゃんは他人からの連絡に敏感な子。
普段なら、誰からメッセージが届いたか確認だけするのに、スマートフォンを放置して私の横で目を閉じている。
快感に覆われて眠ってしまったのか、と思い声だけはかけた。
「誰?」
「親。」
すぐに声が返ってきて、長い睫毛のすぐ向こうにある大きな瞳と目が合う。
光ちゃんの大きな目が好き。
私を全て見透かしてしまうような、大きな瞳と長い睫毛。
「いいの?」
「どーでもいいや、内容わかりきってるし。」
光ちゃんの頬は、肌の透明感に混じって水蜜桃のように潤んでいる。
保護者にはなんて言って来たのだろう。
たぶん、友達の家に泊まるとか遊ぶとか、そういう風に言ったに違いない。
光ちゃんの笑顔で何かを言われて、たとえそれが嘘だったとしても、私は間違いなく信じてしまうだろう。
だって、こんなに可愛い。
理性を失っても、光ちゃんを愛しているという事実だけが残る行為の甘さを貪れる。
快感と絶頂を永遠に繰り返せる女同士のセックスに、私と光ちゃんは浸っていた。
数十分前まで淫語しか発していなかった唇で、現実を紡ぎだす。
「どーせさあ、帰ったら面倒くさいこと言われるだけだし。後で弟と比べて嫌になるアタシの気持ちも分かってんのによ。
まーじで親は弟にしか目やってなくて、ほんっと頭固いんだよな。気ィ使えって話だよ。」
こんなに可愛くても、光ちゃんの背後にある現実は周りと変わらない。
それぞれが背負う背景と現実と、悩みと自分の負い目。
受け止めるには若すぎて、目を背けるには早すぎる現実。
その中で私と光ちゃんは出会った。
「光ちゃんは凄く良い子なのに」
ボーダーに所属して、手に負えない影浦くんの傍で堂々として、オペレーターとして活躍していて。
面倒くさい道を選ぶと、すぐに足を取られて呼吸が止まるボーダーの中で一人だけ笑顔で過ごしている。
自分に素直なオシャレをして、自由で、笑顔が可愛らしくて、みんなが羨む素敵な女の子。
「可愛くて優しくて、ほんとは皆のために何でもできる本当に優しい子なのに」
でも、心の裏で燻るものが必ずある年頃で。
そんな光ちゃんが、愛しくて仕方ない。
私の言葉をまっすぐに受け取ってから、光ちゃんは笑顔を見せた。
少しだけ目立つ八重歯を見せながら、光ちゃんは喜んで私に抱きつく。
「だろ?だろ!?やっぱなまえはアタシのこと分かってるわ〜!」
温かい身体に抱きしめられて、この上ない心地よさに包まれる。
細い体、長い脚。
小ぶりな胸にある淡い色の誘惑。
腰のくぼみ、ふとももの付け根。
つま先のピンク色のペディキュアも、指先のピンク色のネイルも、ネイルに纏わりついた愛液も。
トリートメントの匂いがする光ちゃんの長い髪のてっぺんに掌を当てれば、光ちゃんは嬉しそうに笑う。
「なまえも、アタシがいなきゃ気持ちよくなれねえもんな。」
「それは光ちゃんも、でしょ」
空いた手で腰を触ると、光ちゃんが鈍く笑う。
腰の中にある臓器が締まって、疼いて、絶頂が溢れる手前の感覚を得てしまえば、あとは好きなように溶ける。
「ま、まあそうだけどさ…なまえのイク時の顔、すげー好きだし。」
私は光ちゃんがイクときの声も顔も好き。
しがみついて、大好き大好きって言いながら達する温度。
愛液と、喘ぎ声と、私と光ちゃんしかいない世界。
求めれば与え続けられる快感。
決定的な終わりがない行為。
好きな人としか出来ない、性器の中から生み出される感覚の共有。
「光ちゃん、大好きよ」
私は、光ちゃんとしか出来ない。
「アタシがいなきゃ、大好きって言えないんだろ。」
光ちゃんも私も、お互いがいなきゃ言えない言葉がある。
ひとつひとつを大事にしていけば、何にも代えられない宝が産まれていく。
細い体を抱きしめて、キスをした。




2021.01.03







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