贄を厭わぬ奴隷の全て






本誌ネタバレはしてないけど本誌読んで書かずにはいられなかった
教官が好きすぎて2020







書類を整理するキースにくっついて、伸びた顎鬚を指で遊ぶ。
私の指にはキースの柔らかい猫毛の髭が絡みつき、ゆっくりと解けては絡まる。
仕事もそろそろ終わるころだろう、と見計らいキーズの膝の上にお尻を乗せて、両足はキースの脚の間。
右足先は床、左足先はキースの膝の裏を撫でるような動き。
マーレ製の爪専用の色付け液は、明かりの下で怪しく光る。
この世界の色々なことが分かってから、皆は変化を受け入れていった。
私はマーレ製の食材も服も口紅も香水も爪色も、気になったもので豊かにしている。
けれど、キースは少し違う。
厳めしい顔で、今も新兵に巨人を倒すための立体機動を教えている。
今の世の中では時代遅れとか無駄とか散々陰口を叩かれていそうな調査兵団の考えを、キースは捨てていない。
他人から見れば、キースは時代遅れの古い人間。
それが普通なのかもしれない、と思うことがある。
変化を恐れたり、疑ったりするのは当たり前のこと。
まったく変化に目を向けなくても、不思議ではない。
「なんだ、なまえ。」
「特に用はなし」
「なまえ、そろそろ書類が終わる。すこし待て。」
でも私は、厳めしい顔に対し至って平凡な性格と低い声と意外と素直なところと真面目なところと、私の望みどおりに凌辱してくれる逞しい身体が好き。
古い時代遅れだろうが、世間についていけなかろうが、ひっくるめて好き。
「私がくっつきたいだけ」
もうすぐ仕事が終わりそうなキースにくっつき、大きな肩に寄りかかる。
夕飯は作ってあるし、食べ終わってお風呂に入ってもいい。
綺麗な身体のままベッドに裸で倒れ込んでもいいけど、そういうことよりもしたいことが沢山ある。
愛する人と身体を重ねるよりも感じられることを、私は心得ていた。
透明な瓶に煌びやかない装飾が施された蓋。
綺麗な瓶を胸元の谷間の間から出して、キースの視界にそっと置く。

「ねえ、これマーレの香水だって」
「買ったのか。」
「貰った」
リコから、とは言わずに綺麗な瓶に見惚れるふりをしながら、キースの肩に手のひらを這わせる。
「不要なものは入っていないだろうな。」
「毒入りなら、透明な瓶に入れないわよ。僅かに透かすと水の中で毒が滲む」
爪に色がついた指で瓶を摘み、天井にある明かりに綺麗な瓶を透かす。
光に瓶を翳す。
滲まず、水の中は歪まない。
僅かに燻る香水を見て、あ、と声を漏らす。
「アルコール入ってるかも。肌に直接あてたら駄目かもしれない」
「わかるのか。」
「見えるの」
念のため蓋を開け、香りを嗅ぐ。
香料の中に混ざる材料の数々は分からなくとも、毒入りではない。
確かなのはアルコールが入っていること。
保存するために混ぜたものだろうけれど、香水の香りにかき消されアルコールの匂いはしない。
「無害な程度だわ」
蓋を閉め、瓶を置いた私にキースが厳しい顔を向けた。
「目が良い。」
「相変わらず、ね」
続く言葉が私から出なければ、キースは自ら喋りだす。
キースが喋る時、新兵を罵倒しているはずの薄い上唇と厚い下唇が紡ぐように動く。
そして目つきに対して瞳孔が比較的狭くなれば、キースは私の話をする。
「入団した時からそうだったな、なまえは視力が良かった。今でもなまえより視力の良い新兵はいない。
ザカリアスの鼻が効いたことを他の教官は評価していたが、俺は視力を評価した。調査兵団に残り、部隊に居続ければ良かったものを。俺について来たばかりに…。」
兵団の中でも、当然ヒエラルキーはある。
リヴァイとザカリアスは、兵団の中で高く評価されていた。
異様な強さと強い嗅覚は壁外調査で毎回役に立ち、人員損失もあの二人がいた時期は少なめ。
そしてスミスが団長になってからは、人員損失は殆どない。
私はハンジとリコのほうが実力があると思っていたので、今の調査兵団団長がハンジだと知った時は嬉しかった。
「私のこと、まだ教え子だって思ってる?」
元団長であるキースは、兵団のことを話す時は生き生きしているのが分かってしまう。
心臓を捧げたのだ、無理もない。
仕事が生きる意味で、団長を突然辞めて、落ち着いた頃に教官職へ。
その過程をずっと見てきた私だから、こうしてキースを探れる。

「なまえは……秘匿な人間だ。」
秘匿、なんて私から最も遠い言葉に眩暈がする。
キースに秘密にしていることはない、それどころかキース以外には見せたくない部分までも見せては浅ましく肉欲にまで溺れるというのに。
でもキースは、肉欲よりも内側のものをずっと見ている。
内側を外側よりも見る、だから私はキースが好き。
「なんの力もない俺の側に、ずっといる。何かを秘密にしたまま、俺を受け入れてくれる。」
「隠し事も無いし秘匿でもない、愛してるからよ。貴方が好き。それ以外の理由がほしい?」
似たようなやり取りは、何度もした。
けれど、キースの心の隙間はなかなか埋まらない。
特別な存在になりたかった、と人生の大半を掛けたことで何も得られなかったことが彼の奥底に押し込まれたまま、今も残る。
私がもしもキースと同じ体験をしたら、死にそうになるくらい落ち込んで、もう使い物にならない。
嘆くことができるうちは、人は変われる。
「あるのなら、な。」
理由を求める。
キースも私も、求めるものは違えど根底は同じ。
誰かでもいい、何かでもいい、支配され服従され特別だと思いたい。
特別であることは、誰かの中で永遠に生き続けることだから。
「キースは私の宝物だから、私の光なの」
天井から差す明かり、仕事を黙々と片付けるキースにまとわりつく私、キースの香りとマーレ製の香水。
決して裕福ではない暮らしではあるものの、指摘されてもどうでもいいと思えるほどにキースとの暮らしは充実している。
あなたが毎日傍にいるから、私は幸せ。
「生きるために見つけた光は、抱えてみたら宝物だったの。この素晴らしさがわかる?キース」
少し大袈裟な表現をしながらも、言っていることは本心。
愛がいつの間にか生きる指針に含まれる。
それがどれだけ素晴らしいことか、すごいことか、私はキースと共にいて知った。
キースの両頬を撫でると、、愛しい気持ちでいっぱいになる。
「団長の貴方じゃない、教官のあなたじゃない、私はキースが好きよ」
「俺は何にもなれなかった、ただの傍観者だ。」
私の宝だっていってるでしょ!と言いたい気持ちを抑えつつ、私は服従する。
支配したいのなら、服従して相手を包む。
「じゃあ教官、私に傍観者を教えて」
机に座り、笑いながら足を見せる。
マーレ製のストッキングとガーターベルトは、私とキースのお気に入り。
ストッキングを望み通りに破かれ、お尻を叩かれ、赤く腫れていく肌にガーターベルトが食い込むたび、私は喘ぐ。
足を見せ、ガーターベルトの手前までスカートをめくり唇の端から舌先を見せる。
唇にはマーレ製のリップ。
赤い唇からはみ出す舌で、誘う。
「黙れ。」
直訳、今はセックスする気分じゃない。
「やあだ、最高」
机から降りて、性的な気分を振り払って、キースに抱きつく。
私と同じベッドシーツの匂いが、キースの首元から僅かに香る。
「愛してるわ」
巨人の叫びばかり聞いてきた耳元で、愛を囁く。
そんな気分じゃないなら、そんな気分にさせればいい。
日焼けした肌と、潤いの少ない肌。
瞳の色と唇だけは昔のまま、とキースの顔を見ると、頬を赤くしている。
「真っ赤じゃない、どうしたの」
手品師のように素早く脱いだパンツを、手にひっかけて笑う。
「やっぱり、する?下着は脱いでるわよ」
「履け。」
ぼとり、と床にパンツを落とし、キースをまた抱きしめる。
皺のできた頬にキスをして、日焼けで浅黒くなった頬に赤い唇のあとがつく。
マーレのリップは、マーキングに最適と街の女性に評判だ。
キースと暮らし始めてから鋏を入れてない髪に、節くれだった指が潜り込む。
私のキスマークがついたまま、キースは私に語りかける。
「宝…か。他人にそう言われるとはな。」
私を見てくれるキースの瞳は、緑っぽかったり金色っぽかったりするヘーゼル。
私とは違う色。
この瞳に見つめられながら罵られるだけで、私は子宮が締まり愛液が溢れ出す。
とっても怖い鬼教官。
その姿も、私を見つめる穏やかな瞳も、愛さずにはいられない。

「なまえは俺の全てだ。」
言いにくいようなことも言えてしまえるほど、疑うことを知らない。
見た目こそ怖くても、純粋。
正直者であれと言われ育ったのだろうか。
自らの意思は曲げないところも、大好き。
「捧げる心臓が、もうひとつ必要だ。傍観者がそう願うなんて余程の幸せを感じないと、思えることではない。
俺の人生の、ただの傍観者の俺に残された唯一の希望と、捧げるに値するものだ。」
キースは自らを傍観者と名乗る。
凡人とも言うし、取り柄もないと言う。
そう自覚するわりには強くて誠実で、逃げることもしない。
恐れに立ち向かうし、敗北を認める。
自分にしかできないことを見つけることができる。
それって、とても素敵なこと。
「私より良いこと言わないでくれる?」
つい顔を赤くしてキースの頭頂部をぺちぺちと叩くと、鼻で笑われた。
ふとした瞬間の笑顔が愛しい。
額の真上、頭頂部と額の間にもう一度赤いキスマークをつける。
意図的につけるものであり、私のものである証拠。
キスマークを一度も拭ったことのないキースの指を手に取り、そっと口づける。
赤い口紅がつかない程度に、そっと包む。
愛する人の手を取るだけで感じる気持ちを、ずっと抱えていたい。
唇の形がはっきりと赤くついたキースを見るたび、穏やかな気持ちになる。
「なまえ、愛してる。」
普段あまり言わない愛の言葉は、突然振りかけられる。
キースは、そういう人だ。
頬を赤くした私が、反射的に顔を隠すとキースの大きな手が私に伸びる。
「もう」
厳めしい顔に、優しい目つきをしたキースが私を見つめる。
軽く唇にキスしてくれたと思えば、ぬるりと舌が入り込む。
上顎を舐めるのは、欲情の唾液で包まれたザラついた大きな舌。
キースの指がガーターベルトにいたずらを始めたのを感じて、床に下着を落としておいてよかったと思う。
自らベルトを緩め、私の脚を開かせる。
食い込むガーターベルトを器用に外すキースの歯は、私ごと噛み切れそう。
ずれるストッキングの下にあったガーターベルトの痕を、口の中で唾液まみれになっていた舌が這った。
服を緩めれば、大きな手が胸を揉む。
さっきまで下着があった場所に、キースの舌が這って声が漏れる。
唾液と、私の愛液と、薄い上唇と厚い下唇が脚の間で何度も音を鳴らす。
どこをどうすればいいか知り尽くされているから、喘ぐ。
舐められ、感じて、脚をキースの背中の上で絡ませてから、自分で腰を振る。
「どうした、腰が動いているぞ。」
上目遣いの怖い顔を見て、身体の中が快感で支配された。
「わた、私は…舐められてイく、変態…です、教官」
「貴様は奴隷だ。教官の私に相手をしてもらえる間は豚のように喘げ。」
指が膣内に入り込み、大きな喘ぎが漏れる。
赤さはとっくにキースの肌に残した唇で、吐息と喘ぎを混じらせる。
キースの指を何度も締め付ける膣内。
私は浅ましく、求める。
空いているキースの手をベルトを緩めた下半身に持っていけば、膣内にあった指が引き抜かれ私の髪を掴んだ。
「断りもなく、なんのつもりだ。」
厳しい目で見つめられ、支配してくれている独占欲にじわじわと快感が上り詰める。
もうだめ、と身体は反応し、陰核は痛いほどに勃起し愛液が溢れた。
「教官ので、私の…だらしない子宮を、いっぱい躾けてください」
商売女が言うような言葉も、私の中に入り込んでしまえば熱を覆うためのもの。
空いた両手で覆いかぶさってくるキースを抱きしめると、ゆっくりと身体に異物感が挿入されてきた。
入り込んでくるだけで、声が漏れる。
異物感はすぐに肉体に馴染んで、性的快感へと変化していく。
とても不思議だ。
自分の身体の一部ではないものが挿入されているというのに、それが擦り合いで快感になっているだけだというのに。
世界に私とキースだけで、快楽の海へ飛び込む。
そこに不安なんてない、飛び込んだ先で絡み合う準備はできている。
キースと呼ばすに、教官と呼ぶ。
なまえと呼ばせず、奴隷と呼ばせる。
支配と服従の海の中で見え隠れする信頼と愛に浸るのが好き。
ガーターベルトが外れて、大きな両手が私を抱きかかえ、性器には快感。
快感以外何も考えられない頭で、キースの名前を呼ぶ。
仕事をしていた真面目なキースはこの瞬間だけ、性欲に縋った只の男になる。
抱きかかえられたまま、腰が打ち付けられ内臓が震えた。
「あ、あ、ああ、教官のっ、躾で…ちゃんとします」
「それはいい心がけだな。イク時は言え。わかるな?」
ぶるぶるする太ももと、力の入る脚に追い打ちをかけるように肌が密着しあい、勃起した陰核が擦れて絶頂が引き出される。
わかります、と答えてから真っ白になりそうな視界にキースだけを映す。
ペニスを奥まで挿入され、大きさを感じ内臓を揺らされながら突かれる快感と、皮膚と陰核が擦れ合う快感。
「私は、あなたの種付け奴隷です」
キースのことを教官と呼ぶ時の閉め言葉。
「出来の良い奴隷だ、褒美をくれてやろう。」
「精液、くださいっ」
太い首に抱き着いて、キースに縋る。
もう何度も抱き合っているのに、逞しさのある肉体はいつ抱きしめても温かくて心地が良い。
膣内で圧迫するペニスを何度も膣壁で感じながら、擦り合うたびに達するまで感じる。
何度も反る背中と、びくびくする身体を大きな手が支えてくれた。
汗ばんだ私の身体に、キースが何度も口づけては舐める。
舐めている舌が突然皮膚を吸い上げた、と思った時に膣内でペニスがびくびくと震えた。
キースの顔は怖いけど、目元が切なそうに歪む。
私の中で気持ちよくなって、私を抱きしめる力が強くなって、吐息が漏れる回数が増えて。
膣内で何度もびくびくするペニスを感じて、嬉しくなる。
身体の底で溜まり押し込まれた精液を漏らしたくなくて、腰に足を絡めた。
抜かないで、とキースを抱き返す。
吐息が落ち着くまで、お互いを抱きしめ返した。
冷たい空気は、落ち着いているうちに鼻にひっかかる。
そして自分たちがどれだけ熱い身体で絡み合っているか分かって、発散した性欲は散っていく。
女は発散した性欲を引き戻すのが簡単。
「最初からする気あったんでしょ」
ちょっとだけ、煽る。
「脚を、見せられたあたりから…したくなった。」
「最初からじゃないの」
「なまえが抱き着いてくれるだけで、俺は嬉しいのに…煽られたら…。」
キースを抱きしめ、胸元に顔を埋める。
こういう時間が、一番好き。
私の支配者を受け入れる瞬間、奴隷に服従した支配者。
太い鎖骨の下にある、心臓。
キースの心臓の音を聴くために胸板に耳をあてると、大きな手に頭を撫でられた。
髪にはキースと私の匂いが混ざり合う。
すでに捧げた心臓があり、もうひとつ捧げる心臓が必要だと言うのなら、私の心臓をあげる。
だから、私に全てを捧げて。







2020.06.22













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