愛の降る夜





私とバッカニアが二人ずつ入れそうなくらい大きなバスタブで、お湯に浸かる。
ピンク色の入浴剤をお湯に放り込むと、中から薔薇の花弁が溢れてバスタブを飾った。
桃色のお湯と薔薇の中に、私とバッカニアがいる。
先にお湯に入って花弁で遊んでいるうちにバッカニアが入ってきて、まさに背後に全裸の彼がいるけど、振り返る勇気がない。
「すごい色、ホテルだからこういうのもあるのね」
恥ずかしさから、必死で目を背ける。
バッカニアから見えている私は頭から背中の真ん中くらいまで。
素肌を見られているけど、まだ耐えられる。
「アームストロング少将が目を付けた部屋だ、信じろ。」
ふと、薔薇の花弁を見つめた。
アームストロング少将は、薔薇みたく綺麗で何をしていても美しくて、誰だってときめく素敵な女性。
それは、事実。
ようやく振り返って、わざとらしく不満そうにしてみた。
「他の女性の名前出したら嫌!」
「ぬっ!?すまん。」
振り返った先には、お湯に浸かったバッカニア。
風呂だもの、当たり前。
物凄い筋肉なのは置いておいて、気になったのは機械鎧。
肩までお湯に使って、バスタブの中を少しだけ移動する。
丸い指先の普通の機械鎧の右手。
決して上半身をお湯から出さずに、機械鎧の手に触れた。
「機械鎧、お風呂の中でも平気なのね」
「それくらいで壊れる作りではない。」
銃の仕組みは分かっていても、機械鎧の仕組みは詳しくない。
「…そうなんだ」
当たり障りのないことしか言えず、濡れた肌で自分の頬を触る。
お湯のせいで頬も指先も熱い。
バッカニアの肌の色は、私と僅かに違う。
お湯から上半身を一行に出さない私を、赤い顔をしたバッカニアが見つめてくる。
「近くで見ると、白すぎる肌をしている。」
「そんなことない、普通よ」
恥ずかしくて、どうしても目を逸らしてしまう。
ほんとは目を合わせて、愛してるってきちんと言いたいのに。
「お湯、熱い」
「ちょうどいいくらいだが、水を足すか?」
ぶんぶんと頭をふり、お湯を見つめる。
お湯の上の花弁は私の気持ちなんか知らないと言わんばかりに揺蕩う。
「こっちを見てくれ。」
お湯にばかり目をやっていたせいで、呼ばれる。
顔をあげれば、赤い頬をしながらも真剣な眼差しを向けてくれていた。
バッカニアの怖さしかない顔が、照れと他の何か知りえない感情で覆われている。
言われた通りに彼を見つめれば、生身の手が私の顎と首に触れた。
大きな手、私の顔を掴めるくらいの手。
「なまえ、可愛い。」
低く囁かれ、下腹部のあたりが締まる。
笑いだしたいような叫びたいような不思議な感覚。
「かわいい、なんて、もっと小さくて守りたくなるような子に言うことでしょ」
「何を言っているんだ、俺から見ればなまえは可愛い。」
かわいい、かわいい。
言われるだけなのに、物凄く胸が高鳴る。
興奮してるのを必死で抑えて、名前を呼んだ。
「バッカニア」
ハニーとかクリームとか呼んでる愛しい相手の名前。
お湯の中の手を動かせば、バッカニアの膝に腕が当たった。
当たっただけで分かる、筋肉質で太い脚だと。
この脚をこれから見ると分かるだけで、どうしようもない欲求に当てられた。
大きな手が、私の頬を撫でる。
「愛している。」
無骨な手、厳めしくて険しい顔。
愛の言葉を囁く見た目には見えない、そんな人が私に向かって愛を述べる。
背骨が破裂しそうなくらい、嬉しい。
「私も」
大きな手が、そっと頬から離れて首から下に移動しようとする。
触れられそうになる、そう感じた瞬間思わず背を向けてしまった。
する気がないと捉えられても仕方ない。
でも、どこかで大きな手が私の身体を引き寄せないかと期待してしまう。
どこまでも卑怯な私を、バッカニアは無理に追いかけない。
「肌が赤いぞ。なまえ。」
「…そう?」
「のぼせるなよ。」
たぶん、この人は無理矢理どうにかするなんてことはしない。
今こうして裸で風呂に入っているのに、何も起こっていないのが証拠。
思わず背を向けた私の肩を掴むこともしない。
頭がぐらぐらする。
「ねえ…するの?セックス…」
後ろにいるバッカニアに聞きだすこととしては、場違いな内容ではない。
身体が熱くて仕方なかった。
のぼせているわけではないのは、分かっている。
お湯の中で足を閉じて、抱えた。
「変よね、ね?ここまできてしないなんて」
「したくないなら、いいぞ。」
バスルームの中で声が響く。
聞きなれた声のはずなのに、一言一言が響いて仕方ない。
今にもお湯の中に頭を突っ込みそうなのを我慢して、バッカニアの顔を見た。
予想より普通の顔をしたバッカニアが、私の後ろにいた。
「したい、けど…どきどきする」
振り向いた私は、どんな顔をしているんだろう。
気の抜けて間の抜けた顔をしているに違いない。
バッカニアが、ゆっくりと私の身体に手を伸ばす。
大きな手が私の脇の下に入り込み、軽々と抱き寄せた。
お湯の中で移動した身体が、生身の手と機械鎧の手で優しく撫でられる。
私が抵抗しないのを確認してから、バッカニアの生身の指で背中を触られた。
一瞬息が詰まり、両手を厚い胸板に添える。
「んうっ」
自然と腰が後ろに突き出て、バッカニアの胸板に添えた手と膝でバランスを取る。
漏れた声、だんだん荒くなる自分の吐息。
太い指が私の腹からみぞおちにまで移動してから、そっと胸を揉む。
揉まれただけなのに、臍下が酷く疼いた。
胸って、こんなに感じたっけ。
「あっ、はあぁぁ」
だらしない声を責めもしないバッカニアを揺らぐ視界で見つめると、熱い唇でキスをされた。
私も、バッカニアも、熱い。
私が足をぴったりと閉じていることには触れず、そっと抱きしめられた。
機械鎧の鈍い冷たさが皮膚に当たる。
ふう、と息を吐いたバッカニアの首に耳を当てた。
どくどくと鼓動が聞こえるわけもない。
確かなのは、お互いに緊張していること。
その気持ちお確かめ合ったところで、私の頭が本当にぐらぐらした。
「だめ、のぼせそう、先あがるね」
「む、早くあがれ。」
恥ずかしさよりも熱さが勝ち、先ほどまで決して見せなかった裸をバスタブから上がるために見せる。
お湯から上がり、バスタオルを取り素早くバスルームから出た。
振り返って、待ってるわなんて色っぽいことは言えなかった。
身体を大急ぎで拭きながら、これからすることの覚悟を決める。
疼いた子宮から垂れる愛液を感じて、熱い吐息が漏れた。


バスローブ姿でベッドに転がっていると、同じくバスローブ姿のバッカニアが出てきた。
丈は当然、足りてない。
いつもと違うのは髪型。
「なあに、みつあみとったの?」
みつあみがあるはずの髪が、濡れたまま下がっている。
「洗い終わったあとはしばらくこうだ。」
バスタオルで拭きながらこちらに来たバッカニアがベッドに腰かけたところで、背後に回りバスタオルを手に取る。
「貸して」
丁寧に髪を拭き、どうせこのあともう一度お風呂に入るんだからと妙に冷静なことを考えながら、みつあみを編んだ。
毛の一本一本が細いけれど、見た目の割に量がある。
拭いた程度で濡れた感覚が消える髪を編んで思う。
機械鎧の指で器用にみつあみを編むのだから、手先は器用。
その手先に、性的な何かを期待していいのだろうか。
邪な自分の気持ちも編み込む勢いで編んでから、リボンで毛先を結ぶ。
いつもどおりの髪型になったバッカニアが、ありがとうと低い声で呟いた。
「こうしないと、こうできないでしょ?」
みつあみを掴んで、引き寄せる。
キスをする時にいつもしている行為。
バッカニアが驚いた顔をしてから、悪そうな顔でにっこりと笑った。
「積極的だな。」
バスローブの中に手が入り、下着に包まれた胸が揉まれる。
首に手を回して引き寄せれば、すぐに押し倒される体勢になった。
私の身体はすっぽりとバッカニアに覆われて、身体の中に取り込まれそう。
襲われている体勢のまま、微笑んだ。
「一人で練習したのよ」
バッカニアの顔を両手で掴んで、キスをする。
口の中に招き入れた舌を舐めまわせば、髭が首元に当たった。
くすぐったい。
鎖骨と首のあたりに、髭がいちいち触ってくるのが気になって身体をもぞもぞ動かせば、腰を掴まれた。
シーツから起こされる。
バッカニアの膝の上に乗ってキスを続けていれば、太もものあたりに何かが当たった。
大きい、形がわかる何か。
苦しくなって唇を離せば、腰を掴まれたまま赤い顔で唸られる。
「なまえ、おい…触ってくれ。」
「どこを?」
何も考えず返せば、気まずそうな顔をされた。
「下…。」
した、と言われて反射的に笑ってしまえば、ムッとされる。
特徴的な髭を指先でくるくる遊んでみても拒否されず、座った目で見られるだけ。
深い青い目が、今だけ少し怖い。
「自分だけ気持ちよくなろうってこと?だめ」
髭を遊ばせた指を抜いて、膝の上から下りる。
バスローブを脱いで、誘惑した。
「私も気持ちよくして」
シーツの上で下着姿になった私を、目を丸くして見つめるバッカニア。
バカなことしてないでこちらに来い、と言うと思ったのに。
「可愛い。」
バッカニアからは予想外な言葉が出てくる。
「はっ?」
照れ臭くなり、笑いながら四つん這いになって近づく。
彼のバスローブの下で、ものが大きくなっているのが形で分かった。
私で興奮している。
「可愛い下着は選んだけど…可愛い?」
その事実が、とても嬉しい。
「ものすごく。」
ぶっきらぼうに言ったバッカニアが急に可愛く思えて、いたずらしたくなる。
下着姿のまま近寄り、わざとブラジャーに包まれる胸を揺らしてみた。
「外して」
一瞬迷った手が、私に伸びる。
生身の指が背中で動き、機械鎧の妙に冷たい指が谷間にある結び目を解く。
ブラジャーの後ろと前が外され、シーツの上に落ちる。
脱げたブラジャーがベッド脇の棚に置かれて、胸が丸見えになった。
温かい手、そのあとに冷たい指が胸に埋もれる。
「んっ」
咄嗟に出る声が、高い。
自分以外の人間に胸を揉まれ、背中の中が恥ずかしさで凍る。
揉まれているだけなのに、子宮が痛いくらいに疼いた。
「はあっ」
身体を捩っても、離してはくれない。
背中に機械鎧の右手があって、逃げられず胸を揉まれる。
どんどん胸の先が硬くなるのが分かって、恥ずかしくなって再びみつあみを引っ張った。
「下、触っていい?」
バスローブを指で引っかければ、耳元で「構わんぞ。」と低く呟かれる。
今まで聞いた中で一番低い声がして、内臓が燃え上がった。
バッカニアの着ているバスローブの中に手を潜り込ませ、確認せず触る。
亀頭の先の部分を手のひらで何度もズルズルと擦ると、滑り気のある何かが手のひらについていく。
かなり大きいペニスだと、触ってすぐに分かる。
手のひらにつく液体はなんなのかは想像つくけど、バスローブを取り払う気にはならなかった。
体格に見合った大きさだとしても、弄るのは楽しい。
手のひらで何度も亀頭の先だけを擦れば、バッカニアが僅かに喘いだ。
「なまえっ、力加減をっ。」
耳元で荒い息遣いがしたので、バッカニアをふと見る。
苦しそうな顔をしているのを見て、間違ったかと手を引っ込めた。
「強かった?」
違う、と呟くバッカニアの顔を今一度見てから、手のひらを見る。
精液はついていないし、痛そうなわけでもない。
「なに?触るのはダメなの?」
「そういう触り方だと腰が引けるのだが…。」
むう、と不満そうな声を出され、目の前のバッカニアがバスローブを脱ぐ。
この状況では当たり前だけど、予告もなく脱がれて一瞬だけ止まる。
鍛え上げられた腹筋、筋肉、筋肉、どこも筋肉まみれ。
腰の真ん中にあるものを見て、置かれている状況を本能的に理解した。
「わかんないわよ、それ自体が見るのも初めてなんだし」
目の前の愛しい人は、私で興奮している。
私の身体にくっついているもので、私自身で、私という人間と交わろうとしていることで。
それ自体、と勃起したペニスを見る。
バッカニアが身体を引いて、驚いた顔をした。
「その可愛い顔をして今まで何もなかったのか!?」
「ないわよ!」
そう、ない。
何もなかった、こんなに誰かを好きになるなんて。
「誰かを好きになる余裕なんてなかった」
ハニー、あなたが私の心の扉を開けた。
そんな本の主人公のような言葉は言えずに、黙って俯く。
太い腕が私の身体をそっと抱いて、軽くキスをされた。
「なまえ、驚いたろう、すまなかった。」
「平気」
だってもう大人だし、と言う気にはなれない。
好きな相手に今夜穴開けられることに面を食らっている、というだけで。
抱き寄せられ、そっとお腹の上に乗せられた。
私一人なら軽く座れるくらいの腹筋の上に、パンツ一枚で乗る。
「尻をこっちに向けろ。」
寝っ転がったバッカニアが、私の腰を撫でた。
こっち、とは顔のほうだろう。
バッカニアの胸に手をついてから、くるりと回転して背を向ける。
目の前には当然、勃起したペニス。
これをどうするかは、知っている。
手を伸ばすのに躊躇っていると、バッカニアの手が私の腰を掴んで引き寄せた。
何が起きたか理解する前にパンツを下ろされ、性器に熱い舌が這う。
「えあっ!!!」
悲鳴に近い喘ぎが漏れて、肩に力が入る。
「んん…」
声を詰まらせ、吐息を漏らす。
舌が何度も性器を行き来して、クリトリスが吸われる。
バッカニアのお腹の上で四つん這いになって、お尻は彼の顔の上。
体勢の恥ずかしさに何も出来ず、ただ感じる。
大きな舌が性器を蹂躙する感覚がして、何度も腰が動いているのに大きい手にしっかりと掴まれているおかげで逃げられない。
がくがくと震える腰。
膣内にゆっくり挿入された指を感じながら、舌の感覚に翻弄される。
舌が動いて、私の声が漏れて、膣内を弱く刺激されて、自分しか触ったことのない性器を舐められて。
強張った太ももでバッカニアの頭を挟んでも、愛撫は止まらない。
「あっ、んぁ、きちゃう」
自分から出た甘い声。
きちゃう、と言った私の腰を機械鎧の手が撫でる。
生身の温かい指がゆっくりと膣内を動いている間も、充血したクリトリスが舌で刺激された。
もうだめ、と思った矢先に腰が跳ねて背中が反る。
気持ちよくて、だらしない声をあげても腰は離してもらえない。
痙攣する身体、痙攣する身体の下のほうにある子宮と周りの筋肉が何度も動いて、そこだけで生きているような錯覚に陥る。
バッカニアのお腹の上でよだれを垂らし、何度も息を荒らす。
何度も動く腰が落ち着いたころ、バッカニアの手が離れる。
手を離されても腰が意識とは別のところで揺れて、息は整いにくい。
「なまえ。」
バッカニアが私の名前を呼んでから、ゆっくりとシーツの上に寝かせてくれた。
脱げかけていたパンツをそっと脱がされ、機械鎧の指がベッド近くにある棚に置く。
ぼうっとする頭の上で、バッカニアが近くにあった水を一口飲んだ。
コップの水、ああそうだ。
お風呂に入る前に水を用意しておいたんだった。
唇が濡れたバッカニアが、赤い顔をして座った目のまま私に覆いかぶさる。
あの厳めしい顔が性欲に塗れているのを見て、疼く。
「お腹苦しい、このへん」
臍の下を撫でて、バッカニアを誘う。
「なまえ…するぞ。」
「うん」
「愛している。」
「私も」
みつあみを掴んで引き寄せて、またキスをした。
水のおかげでバッカニアの口腔内は冷たいけど、私の舌は熱い。
ぬちゅ、ぶちゅ、と音が鳴る中、両手で腰と足を持ち上げられた。
バッカニアの膝の上に、私の太ももの裏が当たる。
「いいか。」
「うん」
肩をがっしり掴まれ、覆いかぶさられた。
不思議と私の身体に体重はかからず、心地が良い。
シーツから腰が浮いて、軽々と持ち上げられたお尻がバッカニアの腰に近づく。
膣口にペニスが当てられた、そこまではいい。
先のほうが身体の中に入り込んだ途端、使ったことのない筋肉が動いた。
「うぇっ」
情けない声が出た私を伺って、すぐに腰が止まる。
「やめるか?」
「まだ、まだいける」
上半身を起こして、挿入される自分の下半身を見た。
鍛え上げられた肉体、右腕の大きな機械鎧。
私よりもずっと大きな肉体が、私を求めて迫ってくる。
原始的でもある光景に、一種の優越が生まれた。
膣内に挿入されるペニスの大きさに汗をかき、膝裏と額から汗が垂れる。
「っふー、ふー…」
「なまえ、大丈夫か。辛いならやめるぞ。」
「やめないで、ゆっくり、ゆっくりやって、お願い」
「嫌になったら、すぐ言え。」
腰をしっかり掴んだバッカニアの顔は、赤くて、見たことないくらい座った目をしているのに険しさが途端に感じられなくなっている。
浮かされた性欲に駆り立てられたバッカニアと、私。
腰が進められ、膣の中の圧迫感と違和感と戦う。
ゆっくりと私に覆いかぶさったバッカニアの顔を、頭を抱える勢いで掴む。
喘ぎ声を漏らしたくなくて、覚えて間もないキスで口を塞ぐ。
バッカニアの身体にすっぽりと収まり、熱い呼吸しか聞こえなくなる。
私の呼吸、私の喘ぎ、私の喉から漏れる声、バッカニアの呼吸、稀に聞こえるバッカニアの喘ぎ。
ゆっくりと挿入されていく間、バッカニアの両手は私の頭と頬と撫でている。
両手が私の肩を掴んでから、腰がぐっと進められた。
ぐぐ、と膣内がペニスによって広がり、一瞬だけ酷く痛む。
痛みと同時に、膣がペニスを奥へと受け入れるように開く。
破瓜の痛みに脚が跳ね、私の踵がバッカニアの背中を叩いた。
子宮へと続く膣内にペニスが入り込み、腰の奥底の筋肉が開いていく。
バッカニアの背中に爪を立てながら、受け入れる。
私の様子に気づいて、唇を離して伺う。
「痛くないか。」
「平気…ゆっくり動いて」
腰が、動かされるか動かされてないのか分からないくらいの律動で膣内を刺激する。
痛みと、たまに感じたことのない感覚。
手探りで引き寄せて快感にすることは、今はできないだろう。
「ふ、ううっ、う、バッカニ、アぁ」
私が情けない喘ぎをあげるたび、バッカニアはキスをする。
両肩を掴まれたまま膣内の律動を起こされ、腰の力が私の身体の中だけに響く。
何度もなまえ、なまえと呼ばれるけど、返事をしている余裕が生まれない。
膣内を行き来するペニスの感覚と、密着する身体の心地よさから快感を手繰り寄せる。
「あ、ああ、これっ」
私の頬にあったバッカニアの手を掴んで、下腹部に誘導した。
「う、うごくの、やめて」
「苦しいなら、やめるぞ。」
「このまま、これ…」
手を秘部に押し付け、みつあみを引っ張ってバッカニアの顔を引き寄せる。
「触って、ここっ、触ってっ」
バッカニアの大きな指をクリトリスに押し付けた。
おねがい、と目で訴えれば指の腹で刺激され、覚えのある感覚が私を襲う。
「あああぁぁ、ああぁっ」
ようやく漏れた甘い声。
「ああ、ああっ、バッ、カニアァ、あっ!」
苦しさが紛れ、呼吸が整う。
膣内の動き、指の刺激、覆いかぶさられる快感。
脳みそがじわじわと快感を処理してきて、心地よく感じた。
真横にある機械鎧の腕の冷たさを感じる。
額を機械鎧にくっつけて喘げば、首筋に痕をつけられた。
何度も何度も落とされる痕は、なかなか消えないことくらいは知っている。
「そのまま、それして、おねがいっ」
頭の中が滅茶苦茶になりかけの私の懇願どおり、ゆっくりと優しくペニスが動く。
脚がぴんと伸びて、汗まみれの膝裏がバッカニアの腰の横を濡らす。
刺激を引き寄せ、手触りだけの絶頂が私を包んだ。
「ひぁ」
甲高い嬌声と、何度も揺れる腰。
快感と、痛みが奥底ある感覚。
できればこの痛みはこれきりにしてほしい、震える腰でペニスを咥え込んだまま、瞳からぽろりと涙が零れた。
痛がっていると思われたのか、バッカニアが腰を引こうとするのを止める。
「やだ、抜かないで、きて」
息を荒げてみつあみを掴んで引き寄せると、真っ赤な顔をしたバッカニアが私を抱きしめる。
ゆっくりと起こされ、脚を開いたまま膝の上に乗る体勢になった。
「さっきから…なまえにっ、翻弄されっぱなしだっ…。」
「そんな、ことっ」
「なまえに、言われるたびに、どうにかなりそうだっ…。」
挿入された部分が、痛い。
その奥にある子宮口は、違う疼きをしている。
この疼きを引き出せば快感になるんだろう。
バッカニアの肩に寄りかかって、抱きしめられたまま息をしていると大きな手に撫でられた。
「なまえ、目を開けてくれ。」
目を開けてから、私を抱きしめる大男を見つめる。
涙で濡れている目を見ながら、何度も私にキスをしてきた。
「愛してるぞ。」
かわいい、そう言われるたびにドキドキする。
なんてことない言葉なのに、バッカニアに言われるだけで特別に聞こえてしまう。
バッカニアの肩に両手をついて、自分から軽く腰を動かす。
膣口も腰にも鈍い痛みが走り、上手く動けない。
ペニスが大きいのも関係しているのだろうけど、今は無理だ。
身を任せれば、膝立ちになったバッカニアに優しく抱きしめられた。
腰が何度もゆっくり動き始め、持ち上げられた身体から体液が零れるのが分かる。
お尻のあたりから、ぽたぽたとシーツに何か落ちていた。
ぬるぬるする、そう感じて来たところでバッカニアの腰が震えるのが分かって、みつあみを掴んで引き寄せる。
バッカニアが私の腰を強めに掴んで、息を荒げた。
あの怖い顔に性欲が浮かんでいるのを見て、私まで興奮する。
腰が何度か早く行き来し、奥のほうで脈打つような妙な感覚がした。
びくびく、と膣内で動く様子に射精を感じ取る。
息を切らすバッカニアが私の肩に口づけし、荒い息を整えた。
少しばかり性欲が発散されたのか、バッカニアが私を見る。
「…むう、なまえ、痛くないか。」
「微妙に痛い」
腰を引こうとしたバッカニアを止め、やめてと首を振った。
「待って、抜かないで、動かないで」
「待とう。」
大きな手が何度も私の頭と頬を撫でる。
繋がったまま寝転がって、厚い胸板に耳を当てた。
心臓の音は聞こえないけど、どくどくと胸が脈打つのは肌で感じる。
私もバッカニアも、どうしようもないくらい興奮しているのだ。
撫でてくれる指を咥えてあげた。
ふっと笑った顔を見て、こちらも嬉しくなる。
「うれしー…」
ぼけっとした頭でそう言えば、バッカニアが何故か真っ赤な顔をした。
会ったばかりのころ、タルトの話をしたときみたいな顔。
「ハニー、疲れてるの?」
いたずらっぽく言うと、私の気持ちを感じ取ったバッカニアが悪そうに微笑む。
「いいや、まだまだ。」
「痛いのなくなるまで、しましょ」
みつあみを掴んで、バッカニアの頬を掴む。
そっとキスをするたび、呼吸が混ざり合う。
私の呼吸も、バッカニアの呼吸も、全部ひとつになるように。
汗まみれの身体を任せ、また舌を絡め合った。




2020.02.02










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