キースと風呂に入る



「なまえ、これはいつの傷だ。」
私の背中を見るキースの目に、僅かな光が灯る。
風呂場の窓から差し込む淡い月の光が、私とキースを照らす。
光は少ししかなくても、お互いの体温で全てを分かり合う。
キースは閨事が終わると、こうして身体を綺麗にしてくれる。
丁寧にしても乱暴にしても、行為のあとはいつもこう。
私の身体を宝物の手入れのように、優しく洗う。
普段は、バスタブを使わない。
こういう時だけ、お湯をたっぷり張ってから二人で入る。
身体を温めながら、愛を煮るように確かめ合う。
愛に言葉はいらないこと、一緒にいるだけで温まるということ。
無骨な指で何度も達し、厳めしい口元で何度も愛撫され、逞しい腕で何度も抱かれる。
濡れた髪が背中に張り付いて、お湯に毛先が入りそうになった。
軽くまとめてから、身を任せる。
キースに後ろから抱かれながらタオルで洗われた。
濡れたタオルは水を吸って重くなっては私の肌を撫で、潤す。
「さっきじゃない?」
さっきまで、してたこと。
私とキースがする愛情表現。
溺れては呼吸して、また溺れるような行為に内臓は快感に震えていく。
終わった後は静かに私の身体を洗ってくれるのが、いつものキース。
先ほどまでキースの腰使いに喘ぎ汗を流していた身体は、熱が引いている。
「たまーに強い力で肩掴んで腰振るでしょ、強い力が特に入るあの時じゃない?」
あの時、とはもちろん私の体内で熱が溢れ出すあの瞬間。
キースは、身体が大きい。
元団長になるまで歴戦の兵士であったことも関係し、筋骨隆々な上に身長も高い。
そんなキースと共にすれば、女の私は簡単に組み敷かれる。
性欲が溢れる私に蓋をするように突き刺される性器。
股の間にキースのもの、私の両肩を掴んで腰を振るキース。
感じ慣れた体勢、でもその体勢が一番感じる。
すこしだけ目尻を下げたキースが、私の肌を撫でた。
「すまない。」
「暗いとこでしてると細かい傷はよく見えないものね」
腕の中で体勢を変えて、キースに向き合う。
首元にある筋肉や浅い傷は、彼が歴戦の戦士だった証。
火照りかけたキースが、お湯の中に浸していた私の腕を手に取り、洗い立てで柔らかくなった手にキスをした。
「傷をつけたお詫びだ。」
「紳士ね」
「どうにも抑えがきかなかったようだ、すまない。」
微笑みながら、腕の中から逃げる。
バスタブの逆側の背もたれに逃げてから、脚を伸ばし爪先でキースの髭に触る。
「お詫び、して」
「ふざけるのも大概にしろ。」
ねえ、愛してるわ。
目で訴えて、爪先でキースの鎖骨に触れる。
お湯で濡れて生々しく光る脚が、キースの胴体を挟み込む。
暗い部屋、バスタブ、静かな夜。
荒々しい動きと吐息は闇に飲まれて消えた。
残ったのは、私たちだけ。
キースの唇が、私の足に触れる。
足の甲を舐められ、臍の下が疼いた。
いつもと違う光景に、お湯の中にある下半身が熱くなる。
くすぐったくて笑えば、キースは唇で足の甲を何度も撫でた。
脚から食べられてしまうような光景でも、安心できる。
「キースの唇、乾いてる」
「俺になまえの唇のような柔らかさがあったら変だろう。」
「私の唇、移そうか?」
キースの腕の中に移動し、乾いた唇にキスをする。
ついさっきまで私の足を舐めていた唇は、温かった。
お湯で温まった身体が癒されても、この熱だけは取り去ることができない。





2019.12.12








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