ミケに匂いを嗅がれる






熱い身体をシーツの上で沈めていても、ミケの鼻は私の身体の上を這う。
私の皮膚で呼吸するように、ミケは汗もにおいも飛び散った体液も気にせず嗅ぐ。
何度も絶頂を迎え、身動きひとつとれず子宮の疼きと痙攣し疲れ切った腰の中を労わるように寝ていても、ミケは嗅いでいる。
悪い気分はしない。
空いた手は私の頭を優しく撫で、赤い痕をつけた場所を指で撫でてから温めるように手で覆う。
体温が心地よく伝わり、休まる身体にミケの優しい気持ちが伝わる。
ミケは鼻がいい。
調査兵団にいれば、誰でも一度はミケに匂いを嗅がれる。
私もその一人で、初対面時に匂いを嗅がれたものの、特に良い匂いはしなかったようで鼻で笑われただけだった。
後々になりミケの鼻が生かされ、関係を保つための要素のひとつになっている。
体調や気分に、匂いで気づいてくれる。
私が興奮しようものなら、匂いでいち早く気づく。
合図をしなくてもいい、それがいいところでもあり悪いところでもある。
気持ちいいと感じた瞬間に匂いでバレ、責め立てられていく。
私はミケから与えられる肉感の快楽で興奮し、ミケは私から発せられる快感の手触りの香りを色濃さに興奮する。
何度気持ちよくなっても、どちらかの欲望が尽きるまで終わらない。
終わりのないセックスが終わるのは、どちらかの体力が尽きた時。
今日は私の体力が尽きて、背中に張り付いた髪の毛も払う気になれない。
言葉を投げかけても返事をすることすら難しい私から発せられる匂いを、ミケは残すまいと嗅ぐ。
本人曰く「絶頂を迎えたあとの香りは頭の中に響くくらい良い香りだ。」とのこと。
股の間から溢れる体液の残骸、互いの唾液で濡れた唇、汗まみれの額。
首筋、膝の裏、腰、足の付け根、脇、二の腕、脹脛、全身をゆっくりと味わうように嗅がれ、ミケの鼻が触れる場所が熱を持っていく。
「なまえ。」
「なに」
辛うじて出た声は、掠れ切っていた。
喉の奥で絡まる体液を飲み込んで、溜息をつく。
「髪と子宮から臭う、明後日あたりに月のものが来るはずだ。」
「なんでそういうことまで分かるの」
「俺の鼻でなまえの分からないところは無い。」
すっ、と膝の裏を嗅がれ、子猫が水を飲むような舌使いで舐められる。
「やめて、くすぐったい」
「食べたい。」
「巨人じゃないんだから」
くすぐったくて脚をずらせば、ミケがゆっくり覆いかぶさり抱きしめてきた。
逞しい腕と腹筋、鍛え上げられた脚。
どれも私より強い外見的記号だというのに、子供のように思える。
私に抱き着き、精を吐き出し、柔らかい肉の塊と化した私を愛でる手つきに毎夜癒され蕩けていく。
ミケが私を優しく撫で、不満そうな声を出す。
「あまり他の男に寄るな、香りが台無しになる。」
他の男、という嫉妬にも似た独占欲に胸を寄せる。
腕の中でミケに向き合い、鼻をつっつく。
大きめの鼻は、なんでも見通す。
「仕事中に関わる男性は許してほしいんだけど」
「それも嫌だ、ずっと俺だけ見てろ。」
「わがままね」
ミケの髭を指で触ると、やめろ!と言われんばかりに指先を咥えられた。
私を気持ちよくする唇と舌。
舌先で指をそっと舐められ、つい微笑む。
子供のような優しい目つきは変わることなく、大きな身体で私に甘えるミケ。
喘ぎ、何度も頭を真っ白にして、理性のない獣のように本能に従った愚かな私に縋るように甘えるミケを愛しいと思う。
ミケの唇から指を引き抜き、そっとキスをする。
汗が乾いてきた身体。
大きな手が私の背中に伸びてきて、張り付いていた髪を払う。
シーツの上に広がった髪、汗が引いてきた身体。
見つめ合う視線だけが熱い私たち。
「なまえ、俺を可愛いと思わないでくれ。」
「ばれた?」
「匂いで分かる。」
僅かに眉を顰める顔が、愛しくて、可愛くて。
首元に顔を寄せてみれば、抱きしめられてそっと嗅がれた。






2019.11.04








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