エルヴィンに抱きしめられる





愚かしさの底にあるような行為で、ひとしきり気持ちよくなったあとの時間。
エルヴィンは横になる私に寄り添い、私を労わる。
さっきまで激しく腰を振り、一心不乱に私の身体にキスをしていた男と同一人物だとは思えない。
「なまえは…声がいい。」
「そうなの?」
「ああ。私を何度も呼ぶ声がとても良いんだ。」
エルヴィンが私の髪を撫で、キスをする。
何度もキスした唇。
綺麗な瞳、精悍な顔立ち。
そばにいるだけで、エルヴィンを感じてしまう。
ひとしきり絡み合ったあと体を休ませる時は、必ず薄いタオルケットを二人の体にかける。
「甲高く上り詰めるような喘ぎだ、腰にくる。」
私の喉を、エルヴィンが撫でた。
汗がひいた喉は冷たくて、エルヴィンの指先から熱が伝わる。
「体は痛くないか。」
「平気」
「足は痛くないのか。」
「大丈夫」
「無理をさせていないのなら、安心した。」
私を労わるエルヴィンの声。
気に留めて聞いてみれば、エルヴィンだって良い声をしている。
低く、頭の奥に届くような声。
今度するときは気にして聞いてみれば、もっと感じるかもしれない。
背中を反らすつもりで動いてみれば、エルヴィンが「横顔。」と呟く。
私の顔をしっかり見て、微笑む。
「綺麗だ。」
突然、褒められる。
脈絡もなく言うことがあるから、エルヴィンから離れられない。
背を向けて顔を覆うと、大きな手が私の肩を掴む。
「恥ずかしいのか?」
そうだよ、とも言えずにいると背後から優しく抱きしめられる。
溜息のようなエルヴィンの呼吸が首筋にかかり、ぞくりとした。
薄い唇から漏れるのは、声だけじゃない。
喘ぎ、唾液、吐息。
エルヴィンの
「なまえらしくない…ほら、私に顔を見せてくれ。」
そっと顔をあげると、エルヴィンが壊れ物を扱うような指先で額を触った。
「額が汗ばんでる。」
エルヴィンの優しい顔。
黙っていれば、この顔を見つめていても許される。
それならば、黙っていよう。
この瞬間だけ女でいればいい。
「なまえが欲しい。」
額にキスをされ、抱きしめなおされる。
胸に耳を当ててみれば、エルヴィンの鼓動が聞こえた。
「出来るのなら、何もかも捨ててなまえだけを連れて別の場所で暮らしたい。」
「え」
「駄目か?二人だけで暮らすんだ。」
私の目を捉えたエルヴィンは、決して離さない。
仕事中も、プライベートでも、ちょっとした休み時間でも、閨事でも。
エルヴィンの視線は私だけにあると思うと、一種の征服感が沸く。
団長のエルヴィンに、こうも言わせてしまう状況。
「二人で暮らす、いいと思わないか?」
心地が良い。
ずっと、ずっと浸りたい感情に身を任せるように、エルヴィンに抱きしめられたまま眠った。




2019.10.13







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