ユミルと水を浴びる




夜更けに、こっそりと水を浴びる。
皆が寝静まり、夢の中で遊んでいる時間。
外で水を浴びても非難されない時間でもある。
冷たくて体の芯まで凍らせるには十分な行為だけど、今はこれがちょうどいい。
ユミルが私につけた赤い痕、身体の熱、全身から漂う性的な匂い。
おまけに全身の水分がどこかに行くのではないかというほどの、激しい性行為。
髪もぼさぼさ、全身に気だるく甘い雰囲気が沁み込んでいる。
冷ますにはちょうどいいだろう。
ユミルが全裸になり、頭から水をかぶる。
見慣れた身体。
細くとも筋肉のついた足に、柔らかい胸と唇。
私を射止めては、何度も痴態を逃がさない座った目。
ユミルの身体は私のすべて、私のすべてはユミルに許されている。
この関係が始まった理由も説明するまでもない。
ユミルが他の女性を好きになることも、周知の事実。
私はユミルが好き、ユミルは私に生きた証を刻み付けたい。
地面に水が広がってから、冷気を感じた。
「なまえ、水被っておけ。」
「うん」
「エロい匂い、すげーしてっから。」
バケツを私に寄越し、ユミルは濡れた髪を絞る。
真似をするように水を被れば、熱い身体を冷たい水が撫でた。
皮膚の上を冷たい感覚が伝っていく、骨を凍てつかせるように水が体温を流す。
「股よく洗っておけよ、さっきは噴水みてーに噴いてたしよ。」
意地悪く笑うユミル。
私を何度も気持ちよくさせ、気絶まで導き、身体と頭の限界まで絶頂へと引きずっていくユミルの指と舌。
細くて長い指は自らの髪を絞り、身体のあちこちの水滴を払う。
柔らかい唇の中にある舌は見えなくても、わかる。
「あんまりしすぎないで、って言ったじゃない」
「んん?きもちいーユミルーもっとーって言ってるなまえに言われたかねえなあ。」
「それは」
「気持ちいいこと大好きだもんな、なまえ。」
髪についた水滴が、私の胸に落ちる。
ユミルは、いつもこう。
私を女同士の快感には目がない女のように扱っては、ベッドの上では真逆。
何も知らない無垢なお姫様を犯すように、私を抱く。
こういうことに、ユミルは慣れている。
私は慣れていない。
身体を重ねる意味を、どうしても探す。
バケツを置いてから、股の間から垂れていく冷たい水滴が足元の水たまりに落ちていく。
「ユミル」
「なんだ?」
「嫌いな人とも、できる?」
いつもの、すべてを、凡てを、全てを見据えたような目。
この瞳に見つめられるだけで苦しいのに、やめられない。
ユミルの長い脚が私に近づき、濡れた頬を手で覆われてからキスをされる。
冷えたばかりの皮膚、その中にある舌。
歯列をなぞられ、自然と開いた口蓋の中をぐるりと舌で舐めまわされる。
吐息を漏らす間もなく、ユミルに腰を抱かれた。
濡れたばかりの身体の底から、また熱が湧き出す。

ああ、もう、これだから好きなの。
あなたとのセックスは。
ユミルの手にかかれば、全身が性器のようになってしまう。
「水浴びて頭冷やしたろ、イキ足りなかったなら素直にそう言えよ。何度でもイカせてやる。」
「だって、ユミル上手だから、私なんて」
「おいおい、誰でもいいってなまえとのセックスみてーなこと毎回してたら指がへし折れて舌が千切れちまう。」
「だって、ユミルは」
「言い訳はもういいよ、私からの愛撫じゃ足りなかったんだろ。」
愛しい指が、私の胸を撫でる。
赤い痕の浮かぶ胸と、胴体。
脚の間のあちこちに浮かぶ赤い痕は、いつ消えるだろうか。
誰にも見せられない裸体。
ユミルにだけ見せる身体は、ユミルのもの。
私はユミルのもの。
心の底で本能がそう叫ぶ。
私が少しでも試せば、ユミルは誘いに乗る。
ぶっきらぼうで雑に見えて、情熱的。
指で弄べる獲物は捕らえれば逃がさず、愛で続ける。
吐息も、指使いも、舌使いも、唾液も、皮膚の触れ合う感覚も、私の一部になってしまうのではないかと思うくらいに。
濡れた髪を耳にかけたユミルが私の唇に触れた。
いたずらっぽく笑うユミルが愛しい。
「ったく、今日はこれで終わりにしてやるかって流れだったのに。」
「ユミル、私ね」
「不安なんだろ?私がどっか行っちまわないか。」
存在そのものが好きなの。
ユミルは分かってるのかな、私がこんなにも貴女に溺れていること。
大好きでたまらない。
愛していて狂いそう、それ以上にユミルの幸せが私の幸せになってほしいことも。
エゴイズムが心の中で覆いつくすくらい好きなこと。
「うん」
「そんなこと考える暇もなくなるくらい、イカせまくってやるよ。」
水を浴びた身体が、熱を取り戻す。
この熱が愛しい、ユミルが与えてくれる愛の体温が。
足元の水たまりを足の裏で感じながら、人気のない水場で幾度目かのキスをした。




2019.10.05








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