影浦が出前を取る






はあ、と息を吸い込んでも身体から湧き出す熱は治まる気配はない。
触れられれば感じそうで、喘ぎそうで、頭が真っ白になりそう。
疲れてもなお、身体のどこかが求めている。
なまえ、と聞きなれた声がして、顔をあげた。
私の全身を弄んでも足りないほど、肉に埋め込んできた手が目の前に伸びる。
「でっけー声だしたろ、なまえ、ホラよ。」
全裸のままシーツの上で余裕を見せる雅人くんが、水の入ったペットボトルを差し出してくれた。
湿っぽいシーツの上に雅人くんのパンツとシャツが散らばっていて、足のあたりに私のキャミソールが転がってる。
片付けるのは後でいい。
それが伝わっているのか、雅人くんは何もしなかった。
頭が真っ白になって、それが少しずつ戻ってきて私が私であることを確実に自覚するまでの時間が必要。
うつぶせになってから顔だけ上げて、ペットボトルの水を飲む。
熱い喉を通っていく極上の水の冷たさ。
口の中にあった雅人くんの唾液とか汗とか、フェラチオしたときに出た汁とか、よくわかんないけどセックスの味を水で流し込む。
舌の上にあった味は消えて、水が流れ味覚がリセットされる。
水のおかげで、お腹がすっと冷えてから心地いい体温になって、気持ちがいい。
だからといって身体までリセットされるわけもなく、まだ腰のあたりに余韻が残っている。
子宮とその周辺の筋肉が、戻り切っていない。
ペットボトルの水を半分ほど飲んでキャップを閉めると、雅人くんは私に寄り添った。
熱い身体も少し冷めてきて、良い頃合い。
目を見つめなくても言いたいことがわかる。
それが、雅人くんとのセックスのいいところ。
だから余計なことは言わなくていいし、しなくていい。
そのかわり産まれるのは喘ぎと性欲の愛撫。
愛と性欲と、だいすきって気持ちと一緒にいたいって気持ちと、気持ちいいことと身体の奥底で生まれる快感。
それだけが世界の全てになる瞬間が、私も雅人くんも好き。
でも、何度かセックスしてるとわかることもある。
前戯でのフェラチオは嫌いじゃないとか、首筋と手首が好きとか。
私が雅人くんの舌を掴むようにしゃぶると、すぐに唇ごと覆うようなキスをしてくるとか。
射精しそうになると、雅人くんは私を抱きしめてなまえ、なまえ、って呼びながら腰を早く振り始めることとか。
気持ちいいところを探り合っていく先に、何があるのか知らない。
まだ知らないことがたくさんある。
だから、愛し合うのは気持ちがいいし止められない。
「なまえ。」
「なに?」
「腹減ったろ、ピザ食おうぜ。」
雅人くんがピザのデリバリーのチラシを見て、にやっと笑う。
割引券のついたチラシで、今ならチーズコーンバジルベーコンピザが半額。
いっぱい動いて疲れたし、お腹も空いている。
「食べる!」
「こーいう時、出前っていいよな。楽だ。」
「お好み焼き屋さんだと、出前って取らないもんね」
おう、と言った雅人くんがスマートフォンを手に取る。
ピザ屋の電話番号を探しているようで、指の動きが早い。
あの指でさっきまで弄られていたのだと思うと、すぐに腰の中身にある臓器が疼きだす。
まだ、したい。
でもピザを食べたあとのキスは、雅人くんの唾液の味がしなさそう。
「ん、おい。なまえ。」
「なあに」
雅人くんが怠そうな瞼の中にある鋭い目で私を見てから、微笑む。
「ピザ食ったらまたやるか?」
ええ、と呟いてタオルケットに包まって、さっきのことを思い出す。
気持ちよくて、底が知れない行為。
触れ合おうという雰囲気になってから手を触る感覚、見慣れた顔が性欲で変わる瞬間。
私に溺れる雅人くんと、雅人くんに溺れる私。
呼吸はできるのに、まるで海の底にいるくらいセックスの最中は深くて深くて届かない場所にいる錯覚を覚える。
あの感覚は雅人くんに気持ちよく「刺さる」らしく、私以上に感じていることがあった。
シーツの上で、汗が引いた身体のまま再びするのも悪くない。
「ピザ、美味しかったらまたする!」
「じゃあ一番たけーやつ頼もうぜ、トッピングも美味そうだしよ。」
疲れた足の裏側の筋肉を無視して張っていくと、雅人くんに背中を優しく撫でられた。
マッサージするような撫で方で、心地いい。
なんで?と感情を投げかける。
雅人くんはにこっと笑って、私の頬を撫でた。
「なまえ、頑張ったな。ありがとう、すげー気持ちよかった。」
咄嗟に赤面して、思う。
凄く気持ちよかったのは一緒で、これだけ気持ちよくなれるのだから感謝もしたくなる。
一緒のことを、考えている。
うれしい。
気持ちが通じ合ってるとはっきり分かると、心が晴れる。
「ところでよ、トッピングにジャンボフランクフルトとホワイトチーズは乗せるか?」
がはは、と笑う雅人くん。
ムードのない冗談を言って私を現実に引き戻す。
「のっけちゃえ」
笑ってから、寝転がってペットボトルを手に取る。
額に当てて、至近距離から水が揺れるのを観察した。
海の中は、こんな感じなんだろうか。
愛の海があるのなら、透明で、匂いは好きな人の匂いで、味は脳の奥底が甘くなる味で。
溺れていたい、ずっと。
「ピザ、大きいの頼んではんぶんこしようよ」
「なまえに全部食われねーよう、気をつけねえといけねえじゃねえか。」
「ちゃんとはんぶんこだよ、雅人くんも私の分まで考えて食べてね」
おう、と答えた雅人くんがデリバリーに電話をかける。
ピザが美味しければ、またセックスしよう。





2019.09.21







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