愛も従順






ある時、ゲルガーさんが酔っ払って、私も酔って、べろべろになりながら帰ったことがあった。
ゲルガーさんはお酒が好きで、よく飲んでいる。
私もついでにと飲んだら、進んでしまって二人とも酔いつぶれた。
仕方なくナナバさんのところに押しかけ、朦朧とした私とゲルガーさんを置いてくれた。
非情に、馬鹿だ。
主に私が馬鹿である。
本当のところはゲルガーさんも馬鹿だと言いたいところだが、ここまで呑むまで話しこんだ私が悪い。
幸い、嘔吐することなく酔いを落ち着かせることができた。
たまにえづくゲルガーさんを見て、ナナバさんは笑い転げる。
人が酔って潰れている姿ほど面白いものは、確かにない。
それでも、ナナバさんがここまで笑うなんて珍しいと思いながら、横になっていた。
ナナバさんは笑いながらも、文句ひとつ言わず二日酔いの私を介抱してくれた。
ゲルガーさんは目が覚めると同時に、ふらふらと出て行った。
あの千鳥足じゃ、どこかで転んでまた意識を失っていそうだ。
まだ夜中だというのに、そう言うと、ナナバさんが棚からお酒を出し、笑った。
「朝まであと数時間だ。呑んで起きていようか?」
そう言ってけらけら笑うナナバさんに同意し、またしても呑み始める。
ナナバさんと二人でお酒を飲んで、床で雑魚寝してしまった。
話していた内容は、よく覚えていない。
でも、面白おかしい話とか、そんなことを話した記憶がある。
もうすこし丈夫な脳みそが欲しかった。
雑魚寝の最中だったが、瞼の奥に光を感じて、視界を張り巡らせる。
まだナナバさんは寝ていた。
床で寝るナナバさんの、首筋に目がいった。
綺麗な首をしている。
起き上がる気にもなれず、寝転がって、ずっとナナバさんを見つめていた。
この人は、そういえば、女性なのか男性なのか、知らない。
見た目から性別がはっきりしない、記号があまり大きく出ていない人だ。
お酒で頭の中と体の中が、ぐるぐると回る。
ふわりと後ろ頭の中が、最後の酔いを壊しにかかってきた。
その感覚を感じて、目を閉じた。
寝た時間はそれほどでもなかったが、朝、ナナバさんの酔いも覚めたころ、床で雑魚寝したせいで体が痛そうなナナバさんにキスをした。
お互い酒臭かったが、まあいい。
ナナバさんは、男なのか女なのか知らなかった。
性別を匂わせない姿が、私は好きだった。
だからキスをした。
軽蔑される、そう思ったけれど、予想からされる最終的な結果というものは予想されず、常に予想を裏切るのが、真実だ。
私は、真実に跪いた。

ナナバさんと、互いの舌を舐め合うようにキスをする。
舌に味でもついていれば、延々ナナバさんの舌をしゃぶっていられるだろう。
顔から胸までするりと撫でると、ナナバさんに手を取られ、唇を離され、囁かれた。
「なまえは手癖の悪い子だ。」
乱暴に服を脱がされ、ベッドの外に放りなげられる。
脱がされた際になんとなくボタンが千切れたような気がするが、それは気のせいということにした。
ナナバさんの黒タンクトップを脱がして、腕を舐める。
鎖骨のあたりを舐めたりキスしたりして、反応を待った。
私のズボンに手がかけられ、降ろされる。
ズボンが降ろしやすいように腰を浮かせると、ナナバさんが好奇の視線でも投げかけるかのように微笑んだ。
あっさりとズボンが取り払われ、パンツも脱がされる。
太ももにパンツがひっかかったので、自分で降ろそうとしたら、ナナバさんは挑発的に囁いた。
「随分と簡単に腰を動かすね、本当は淫乱なんじゃない?」
淫乱、と言われて、全身が熱くなる。
ナナバさんには、もう知り尽くされてしまった。
正確には、私もナナバさんを知り尽くしてしまった。
私の口から、服従のように言葉が飛び出す。
「私は、なまえは、淫乱です。」
パンツを自ら下げ、全裸になった。
ナナバさんは、こういう時は不敵に笑う。
「いい子だ。」
ゆっくりと押され、私はベッドに寝かされた。
覆いかぶさる、ナナバさん。
露わになった小ぶりの白い胸。
揉むと、また不適に笑われ、私の股に手が伸びてきた。
「あっ」
「どうしたんだい、したいんでしょう、触ってほしいんでしょう?」
ナナバさんの細くて綺麗な長い指で、性器を弄りまわされる。
その指使いがとても上手なので、きっとこの人は手馴れているんだと思う。
「触って、触ってほしいです、ナナバさんに弄ってもらいたいです」
「なまえは恥ずかしげもなく喋るね。そういう頭のないことを言えば気持ちいいことしてもらえると思ってる?」
「うう・・・」
私は自分の手を股に伸ばし、ナナバさんの見てる前で自慰をし始めた。
黙って私を見つめるナナバさんと目が合い、恥ずかしくて目を閉じてしまった。
自慰だから、粘着質な淫猥な音はしない。
ただ、私の吐息が、ずっとずっと狭いベッドの中で響く。
目を閉じている私に、ナナバさんが突然囁きだした。
「何を想像して慰めてるの?私に甘やかされて気持ちよくなってるところ?はしたないね。」
「あ、はああ、う」
「喘ぎでしか返事できないの?淫乱じゃないか。」
「わ、たしは」
「自分勝手に気持ちよくなってるなんて、許さないよ。」
その次の瞬間、股間に違和感を感じて、私は目を開けて上半身を起こした。
ナナバさんの足が、足先が、私の太ももにあった。
開脚したナナバさんが、目の前にいた。
自慰をしていた手は、上半身を起こす際に両脇についてしまった。
すぐにナナバさんの足先が、私の性器に触れる。
右足の親指が、私のクリトリスを緩く詰った。
「ほら、すごい濡れてる。一人でオナニーして興奮してたんだ。」
「はい、そうです、ナナバさ、ん」
「息切れしてる!そう、これ気持ちいいんだ?」
右足の親指が、執拗にクリトリスを扱いた。
足だから、もう踏みつけられてる、とでも言っていいかもしれない。
私の股間を、ナナバさんが踏みつけている。
そして弄って遊んでいる。
私は感じっぱなしで、今にも達してしまいそうだ。
すぐ達するのは嫌で、感じるところをもっと踏みつけてほしくて、耐えていた。
ぐりぐりと蹂躙されるクリトリスに腰と全身を震わせる。
「あああっああああああ、や、ああああああああっ、ナナバさん、足、きもち、いいっ、ああうっ」
ナナバさんの顔も霞むくらい、目に涙が浮かんできた。
気持ちいいから涙がでました、なんて、また不敵な笑みをされる。
そう思いながら、快感に飲み込まれていった。
「すごい喘ぎ声だよ。」
「うううっううう、あ、気持ちいいです、ナナバさん」
「気持ちいいかどうかなんて聞いてないよ。その口、なんか詰めちゃおうか?」
「いやです、いや」
「嫌かどうかも聞いてないでしょう、なまえは頭が悪いね。」
「ごめ、ごめんなさい」
「謝るくらいなら股を開くんじゃないよ。」
「ああ、う」
「なまえは、可愛いね。」
相変わらず足で私の性器を嬲るナナバさんに興奮しきった私は、自ら腰を押し付けてしまった。
だらしない姿勢に、体が熱くなる。
ナナバさんの足の動きと自分の腰の動きを合わせるように、私は腰を上下しはじめた。
ぬちぬちと愛液が擦れる音がする。
「きもちいい、気持ちいいんです、ナナバさんっ」
「そっか。」
ナナバさんが急に足を離したと思ったら、ぬるりと体勢を変えて、私の股の間に来た。
「もうイっていいよ。」
熱くて柔らかいナナバさんの舌が、性器を這った。
その刺激に腰を浮かせると、すぐさま押さえつけられる。
細い腕と手に、腰を押さえつけられる。
女性にしては大柄なほうではあるものの、ナナバさん独特の細さは魅力的だ。
逃げられない快感という状態に、嬌声が歯止めもなく出てしまう。
ナナバさんの舌がクリトリスと膣の間を行き来する間、ずっと腰が痙攣していた。
舌から与えられる快感に、脳と感覚が翻弄される。
叫ぶような喘ぎ声、反応してしまう体の節々。
それでも離してくれず、舌は楽しむかのように動いていた。
ちゅ、とクリトリスを吸われ、視界が霞むほどの快感が襲ってきた。
耐え切れなさそうな私を見て、ナナバさんがクリトリスを軽く噛んだまま舐めた。
全身に、開放感と共に痺れを沿わせた感覚が走る。
歯を食いしばり、体をしならせ、達した。
まっすぐ、ぴんと伸びた足を撫でる感覚にも震えながら、何度も何度も余韻に浸った。
「なまえ。」
ナナバさんが、ぐったりとした私の横に寝転がった。
いつ見ても綺麗な顔に、うっとりとしてしまう。
「可愛かったよ、なまえの素直なところ、私は好きだ。」
頭を撫でられ、ナナバさんに向かって微笑んだ。

ナナバさんの隣に寄り添い、綺麗な顔を見つめた。
セックス自体は、女同士。
だけど、精神的には男女でセックスしているような気分になる。
大体はナナバさんが男役、もとい、サド役。
女性を責めるのが好き、と聞かれて「それでもいいのか」と言われた際、すぐに了承した。
結果とてつもなく責められている。
気持ちいいので問題はない。
これだけ綺麗な人に罵られるのは、快感にしか繋がらない。
「ナナバさん、綺麗」
思った正直なことを口にすると、ナナバさんは笑った。
「綺麗なんて、言われ慣れてないなあ。」
「どうして」
「みんな、ぱっと見どっちかわからないだろう。だからいつも敬語なんだよ。」
「そっか」
ナナバさんは私の背中を撫でると、セックスの時とは違う柔らかい微笑みを見せた。
「なまえは可愛いし、私の前では従順だ。こうも嗜好が合うとはね、可愛いよ。」
照れていると、ナナバさんの手が私の腰に伸びて来た。
手の隙間から、手を伸ばし、ナナバさんの腰に触れる。
触れたまま手を移動し、ナナバさんの股間に滑らせた。
指を潜らせると、濡れていた。
それも、かなり。
「こんなに濡らしてたの?」
私が聞くと、ナナバさんは困った顔をした。
その顔に、私の中の何かが刺激される。
「だって、そりゃあ、興奮したら・・・」
誰でもそうなる、と言いたいのだろう。
「ね、次は私にさせて」
「・・・いいよ。」
ナナバさんの足を大きく開かせ、性器同士をくっつける形で跨った。
私は背が低いから、問題なくこの体位で楽しめる。
ナナバさんも、この体位は嫌いじゃなさそうだ。
だって、もう顔が赤いもの。
夜も更けて、音は私達の音しか聞こえない。
女同士だと、なにもかもが自由だ。
どちらがか決まることが、ないのだから。
でも、明日はミケさんに匂いでばれてしまいそうだ。






2013.07.18

[ 2/351 ]

[*prev] [next#]



第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
×
- ナノ -