愛よりも美しい





最新話のネタバレを微妙に含んでいます





ベットに寝るイェレナに跨り、長い腕の先についている手首を臙脂色の布で縛る。
暗がりの明かりを灯す蝋燭のおかげで、イェレナの顔には陰りが出来て大変に美しい。
透けそうなほど白い肌に作られる影、愛し合うために何度も愛撫しあった唇の中にある舌がすこしだけ見える。
大きくて細い綺麗な手のすぐ側で縛られリボンの形になった布。
腕にキスをして、イェレナの髪を撫でる。
「縛るなんて、どういうつもり。」
「そういう気分なの」
「理解しにくいな、私はなまえを縛りたいと思ったことはない。」
「イェレナには何でも似合う」
上半身裸のイェレナの乳房にキスをして頬を寄せ、上目遣いで顔を見た。
揃えられた前髪の影に隠れがちな瞼の中にある吸い込まれそうな瞳が私を見ている。
独特の目つき、柔らかそうな唇。
高い背のおかげで腰から伸びる長い脚。
先日ピクシス司令に布を巻きつけて、悲壮感と怪訝の目をして喋っていたイェレナが私の目の前で動けずにいる。
イェレナの脚を撫でると、腰を僅かに動かす。
「どうして、この色なんだ。」
感覚を誤魔化すように喋るイェレナの声色は、まだ正気。
乱れてくれれば、いつもの潔癖なまでの姿はどこかへ行ってしまう。
イェレナの美しい姿は、私のものだ。
「白い肌に映えるから」
この白い肌も、深い瞳も、長い脚も、イェレナが考えていることも信奉しているものも全て、私が受け入れる。
理解しがたいことイェレナがしていても、私だけは味方。
愛する覚悟をして絡み合うほどに、私はイェレナを信奉する。
手首を拘束されたイェレナの胸に耳をあて、囁く。
「こうして結んで、血が集まって顔が赤くなるでしょう。そこがたまらない」
イェレナは顔色ひとつ変えずに、笑う。
笑うときに目がすこしだけ伏せられた時、睫毛が下瞼に陰を作る。
「なまえの考えはわからないね、普通に喘ぐだけじゃ物足りないのかい。」
「足りてはいるけど、美味しいものも沢山あったほうがいいのと同じ理論よ」
そうか、と微笑むイェレナにキスをして、空いた手をイェレナの下半身に滑り込ませる。
ベルトを外して緩くなったズボンの隙間から下着に手を入れ、性器に触れた。
指先が愛液で濡れ、指が簡単に性器に招き入れられる。
手と指先で愛撫するたびに、水音がした。
イェレナの喘ぎ声を飲み込むように、舌を絡めあうために唇を唇で覆う。
たとえイェレナが信奉するものに全てを捧げたとしても、イェレナがこうして喘ぐ姿も、快感に身を任せる姿も、私だけのもの。
愛してる、美しい、好き、イェレナには真実の言葉を捧げられる。
これがどれほど尊いことなのか、愛し合ってから分かった。
慣れた手つきで愛撫すれば、イェレナはすぐに出来上がる。
熱と快感に浮かされた顔は普段から想像もつかないほどに性的だ。
私の頬にかかるイェレナの息が荒くなり、腰が揺れ始める。
縛ってある腕が震え、吐き出される息は熱い。
右手でイェレナの性器を弄り、左手でイェレナの乳房を触る。
愛撫するたびに荒くなる呼吸と体温に溶かされ、私の指がイェレナの白い肌に飲み込まれそうだ。
ぐちぐちぐち、と音を鳴らすとイェレナが背中を反らす。
ん、ん、と喘ぐイェレナの唇を解放すると、大きく息を吸って目を蕩けさせた。
白い首と乳房にキスをしながら指を動かせば、熱い粘膜から溢れる愛液で指が沈む。
膣内を行き来する指を招く肉壷にを弄る手が熱くて仕方ない。
イェレナの熱を独り占めする私の恍惚とした顔も、イェレナのもの。
「あ、あ、なまえ、あ。」
吐息の合間に私の名前を呼ぶイェレナが愛しくて、何度も喉を愛撫する。
この喉から、イェレナの可愛らしい声が出ている。
細い喉を舐めれば、鼓動が伝わってきた。
喉の筋肉の動きに合わせて吐き出される息と喘ぎに耳を刺激されながら、イェレナを貪る。
腰を震わせ、私の手からも快感からも逃げずにいるイェレナが喘いだ。
「いく、中いく、ああっ。」
息を吸い込んで目を閉じたイェレナが腰を何度も浮かせ、手の平に愛液を溢れさせた。
指の間からどろどろの愛液が溢れ、イェレナの肌に垂れ落ちていく。
下着の中で留まった愛液が滲んで熱が篭り、何度も息を吐き出すイェレナの胸が上下した。
まどろんだ瞳が潤んで、吐息に喘ぎを混じらせながら呻く。
定まらない視線が天井を見つめ、腰を震わせる。
雄弁を振るっても、ジークを信奉していても、イェレナは女。
性欲に脳を振り回されず、イェレナの可愛らしい姿を堪能できるのも私が女だから。
何度か喘いだイェレナが目の焦点を合わせて、私を見る。
僅かに開けた唇から舌を見せて、キスを強請ってくれた。
汗の匂いがするイェレナにキスをすると、いつもの深い瞳に戻った。
「煙草が吸いたい、解いて。」
喉はまだだるいようで、声に蕩けた感じが混ざっている。
「だめ」
下着から手を引き抜くと、愛液が糸を引いた。
垂れた愛液がイェレナの臍下に落ちて、指先と腹が愛液で繋がる。

愛液まみれの指を舐め、独特の味を口腔で混じらせてからベットを離れる。
上げた腰の中にある子宮が疼き、じわりと快感の手触りが性器へと降りるのを感じて、女の体であることを実感した。
煙草を手に取り、蝋燭を灯す燭台を手にしてイェレナの元へと戻る。
ベットに座って蝋燭の明かりにより至近距離で照らされたイェレナは、顔を赤くさせていた。
汗ばんだ胸が光り、色を感じさせる。
イェレナの唇に煙草を咥えさせ、燭台の上にある蝋燭の炎で火をつけさせた。
露になった胸の上に燭台が影を作り、汗ばんだ体の上が暗くなる。
私の指とイェレナの唇が触れ、煙草の熱が指先に伝わった。
煙草の煙と味を吸い込んだイェレナの呼吸で、煙草の火が赤く燃える。
暗がりで宝石のように輝いたと思えば、息遣いひとつで輝きは失せてしまう。
火が落ち着いた瞬間に煙草を唇からゆっくりと引き離せば、イェレナの口から出された煙が私の顔を覆ってから消える。
「煙たいわ」
「煙草だからね、煙たいに決まってる。」
私の髪の中に潜り込んでいくような煙を吸い込んで、煙草を咥えるイェレナを見つめる。
唇に咥えられる煙草の先は燃えては火を縮ませ、イェレナの肺の中へと取り込まれていく。
「キスしたら煙の味がしそう」
「なまえの唾液で消してほしいよ。」
煙草を咥えたまま器用に喋るイェレナのために、燭台を枕元にある棚に置き寝転がる。
空いた手で煙草を挟んで、吸わせた。
ふしめがちに煙草を吸うイェレナの顔に、見ていて気持ちがいいくらいの影が出来る。
美しさに凄みを増しながら、煙草を吸ってから煙を吐き出す。
私とイェレナの顔の間は口から吐き出した煙で覆われ、消える。
「こっちに来てから、どうにも吸うのがやめられなくなった。」
「マーレの煙草は美味しくないの?」
そんなことない、と煙を吐き出すイェレナの目に、ようやく正気が戻る。
普段の吸い込まれそうな瞳を見つめながら、余韻に浸った。
「マーレの煙草は絶品だ。」
「なら、どうして頻繁に吸ってないの?」
「美味しいとかの話ではなくて、マーレにいるうちは嗜好品に手を出す時間すら無いと言ったほうがいいか、とにかく余裕がなかったんだよ。」
顔の影と伏せた目から覗く瞳。
前髪から垂れる汗。
煙草のおかげで落ち着いたのか、いつものイェレナの顔に戻った。
「こうしていると、なまえの一生の捕虜として生きるのも悪くないと思う。良い匂いのするなまえに気持ちよくさせられて、煙草を吸わせてもらって贅沢だ。」
「手を縛っていて正解ね、色んな人に手を出しそうな言い草だもの」
「私にはなまえだけだよ。」
煙草を吸わせながら、面白くなって不貞腐れてみた。
「イェレナは自分の魅力を分かっているようで分かってないわ、この綺麗な脚を食みたいって人はたくさんいるのに、いつイェレナを取られるか不安になることだってあるのよ」
長い脚に惹かれて近寄る人間は、たくさんいただろう。
完璧なまでに美しい顔と肉体と添う私を見れば、嫉妬する人間はたくさんいる。
優越に浸り煙草を吸わせれば、イェレナは静かに笑う。
「自分の魅力なら分かっている、なまえが私に今覆いかぶさっているのは私のおかげだろう。そうじゃなきゃ縛られたまま煙草を吸わせてもらえない。」
「よくお分かりで」
イェレナの語り口に負け、リボン状に結んだ布を解く。
臙脂色の布をイェレナの胸に落とすと、解放された手で煙草を挟んでから私を抱き寄せた。
長い脚の間に脚を挟まれ、ふとももにイェレナの股座が当たる。
熱を持ったそこが触れると、私の腰の中が疼いた。
どうしようもなく女である部分を、イェレナは無理に探ってこない。
私を抱き寄せて、それから無理矢理してしまえばいいのに。
すぐ側で、イェレナの声がする。
「ジークに心を捧げたつもりだったけど、なまえといると捧げる心がいくつもあると思わされるよ。」
殆ど裸のまま悠然と煙草を吸うイェレナに、先日の面影がある。
ワインを飲ませ、服従させるため周到に動く姿を見ても恐れを抱くことはなかった。
「人って、なんなんだろうね。」
そのイェレナが疑問を抱く。
素性を私に曝け出すのが嬉しくて、イェレナの首元に顔を寄せた。
「愛でも憎しみでも、感情さえあれば生きれる生き物よ」
咥えられた煙草の灰がシーツに落ちて、灰色に汚れる。
口から離した煙草を壁に押し付け火を消したのを見て、イェレナの肩に寄りかかった。
「もう一本吸う?」
「もういいよ。同じ煙の匂いが私となまえからしたら、他から何て思われるか。」
「そんなこと気にするの?同じ礼拝堂にいた、とでも言えばいいじゃない」
礼拝堂、と耳にしたイェレナが、不思議そうな顔で私を見る。
目が蝋燭の明かりで輝き、愛しい顔が私を捉えた。
イェレナの目に、私が映っている。
「こっちでは頻繁に神を崇めているの?」
神はいらない。
崇めることが必要なもの、心は空っぽではないの、だって私にはイェレナがいるから。
言葉を飲み込んで、それとなく吐き出す。
「言い訳に詮索するほどエルディア人はアホじゃないわ」
イェレナの唇にキスをすると、煙の味がした。
同じ匂いを纏う私達に、宵闇だけが耳を傾ける。
太陽が顔を出せば、この逢瀬も潜り込む。
マーレ人も、エルディア人も、神も、私達の愛は暴けない。







2019.03.12








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