隠れ蓑


ごはんさんリクエスト
ケニーの幼妻主で妻を溺愛するケニーさんお願いします!(*・ω・*)
とのことでケニー夢







静かに扉が開かれるのを肌で感じる。
おかえり、とは言わずに何も知らないふりをして、手元にある毛糸を編む。
「おかえりくらい言え、クソアマ」と言われたことは一度も無い。
ケニーの帰る場所に他の人間がいると何かの拍子にバレるのを恐れるため、私は迎えの声をあげずにいる。
大体はケニーが帰るまで、家事をするか毛糸で何かを編むか。
編んで編んで、完成するころには次の棲家に移るだろう。
ここに来てどれくらいだろうか。
少なくとも、これが編み終わるのはケニーの家を狙って襲撃してくる馬鹿共にケニーと私が引き金を引く頃だ。
目立たない黒と灰色の毛糸で編んでいれば、太くがっしりした腕が私の体にそっと巻きつく。
耳元で響く低い声は聞き慣れて、僅かに香る血の匂いだけは今でも嗅ぎ逃すことはない。
「なぁにやってんだオメー。」
私の髪越しに首にキスしたケニーが、私のお腹を撫でる。
「編み物」
黒と灰色の長い布になりかけているものを見て、ケニーが胡散臭そうな声をあげた。
「まさか俺にやるってんじゃねえだろうな。」
そうだよ、と言う前に手を止める。
コートから漂う外の匂いが、鼻腔を刺激した。
一体今日はどのくらい外にいたのだろうか、何をしていたのだろうか。
余程のことがない限り聞かないことにはしているけど、血の香りを漂わせているということは、そういうこと。
ケニーの「そういうこと」に口を出そうものなら、私の首は吹っ飛ぶはず。
元々モノをはっきり言う私は、何度も誰かの逆鱗に触れ怒られ逃げて生きてきた。
でも、どういうわけは私はケニーに選ばれ、一緒に暮らしてる。
「自分用だよ」
「おお?それにしちゃあ色が地味だな。」
「もう、わかってるのに聞かないで」
潜んだ笑い声が耳を掠る。
ケニーは私を可愛がるのが好き。
可愛がられる私は、まあ、悪い気はしない。
私の手よりも大きいケニーの手が、私の手首を擦る。
軽く振り返ると、シャツに返り血をつけた普段のケニーが私を見下ろしていた。
「ケニーにあげるつもりだけど」
「なんになるんだコレ。」
「枕カバー」
はは、と笑ったケニーが、近くの椅子にどっかりと座る。
長い足の下にある筋肉はスーツで隠されていて、靴は薄明かりの下で汚れを曝け出す。
皺の多い顔で光る目だけ、衰えを見せない。
出会った時からこんな感じで、今もこんな感じ。
可愛がられる女として生きてきたつもりがないところが、ケニーには可愛く見えるらしい。
「ほーんとやること全部女の子のまんまだよなあ、なまえ。」
「そうかな、でも編み物とか得意な子はあんまりいなかったかも」
「そりゃそんだけチマチマと指を動かすのを好きでやる奴ぁいねえよ。」
そうかな、と言えば顰めた声でなまえ。と呼ばれる。
「随分器用な手先だな、ちっこい指でまあよくやるもんだ」
指で卑猥なジェスチャーをしてから、ケニーが自分の指を口元に持っていく。
今夜しよう、そういう合図だ。
微笑むと、ケニーが待ってましたとばかりに立ち上がりコート脱いで玄関近くの棚に掛ける。
血の匂いのする男とするのは、嫌いではない。
生い立ちも大体は聞いて、今まで何をしてきたか、今は憲兵団にいるとか。
全て含めた上でケニーに愛されているんだから、私は幸せ者だと思う。
普通の人が想像する幸せの中に、愚鈍なる来訪者を撃ち殺し切り裂くというのは存在していない。
ケニーとの生活は血と悲鳴が切って切り離せないとしても、私はケニーと共に生きる。
「なまえの手で色々作ってあるもんだな。」
「そう?」
「ああ、今のコート、穴だらけになってもなまえが直すから一番長持ちしてんだよ。」
コートを脱いで身軽になったケニーが、私を抱きしめる。
大きな手が、私の体に食い込みそう。
力が強い、でも強いくらいが心地いい。
筋肉質な体に抱きしめられるたび、私がいかに小さい存在か思い知る。
「手先が器用な奴はアソコも起用なんだってよ。」
「いつ頃の都市伝説よ」
長持ちしてるのなら、コートもシャツもズボンもベルトも、大体私が直してる。
こっちを向けと手で腰を捕まれ、軽々とケニーと向き合う。
ケニーにしてみれば私は人形のように軽く持ち運びやすいのに、無理矢理扱うようなことは決してしない。
その間も手元では編み続けている。
「なんでいちいちモノ編んでるんだ?」
「引っ越すことが多いと、かさばるものをいちいち保管するの大変じゃない」
「俺の癖が移ったか。」
額にキスされ、唇を開けるとすかさず舌が入り込んできた。
髭がちくちくして、くすぐったい。
ケニーの唇は上唇がつんとしてて、下唇が厚い。
私の舌を噛み千切りそうな歯の中には、常時酒臭くて薄い舌がある。
舌を食べてしまおうとしても、先に私が飲み込まれてしまう。
キスの合間に呼吸をすれば、酒の匂いとケニーの匂いと血の匂いが混ざってくる。
「帽子、穴開けてないでしょうね」
頭を撫で、帽子を取り払った。
ボサボサの毛に指を忍ばせて、頭に穴が空いてないか確認する振りをしてみると、服の上から下着を脱がされる。
脱いでしまえば、色々丸見えだ。
「これに穴空いてたら俺死んでるんじゃねえのか、悪い冗談はよしてくれ。」

ケニーが私の首筋に吸い付いて、大きな手で私の体をまさぐる。
抱きしめられすぎて、背骨をへし折られてもおかしくない。
「ねえ、ご飯いいの」
「なまえを食うほうが優先されるだろ。」
私の胸も、腰も、脚も、ケニーに舐めつくされてきた。
もう揉み慣れて触り飽きただろうに、ケニーは私の体の奥底を目指しているかのように貪ってくることがある。
女の体なんて分かりきってるだろう、人間の体の構造も分かりきってるだろう。
貪られても求められても、私は尽きない。
「どこにも穴空いてねえだろうな。」
「ケニーが開けた穴なら」
「おいおい、俺のクソみてえな口の悪さは移らなくていい。」
死への恐怖がないケニーが、唯一生を求めてくる瞬間。
妹さんのことがあるから、売春婦や性を玩具にすることは相当嫌うけれど、私とするとそれらは全て嘘なのではないかと思うくらい求めてくる。
殺気で性欲を押さえつけていたかのように、私との愛を確かめ合う。
愛してるとか口にするのも、こういう時だけ。
編み物を机に置いて、胸の谷間を舐め回すケニーの肩を抱いた。
欲情した匂いを煮詰めたような胸が熱くて、自ら服を脱ぐ。
床に落ちた肌着を見たケニーが、瞳に性欲を浮かべたまま私に問いかけた。
「なまえ、これボロボロじゃねえか、捨てろ。」
「ケニーが私にくれたものでしょ、捨てられない」
「新しいもんやるよ、今度はここに穴ボコ開いてるの着せてやる。」
胸の淡い先端を節くれだった指でつついてニヤりと笑うケニーを見て、からかいたくなる。
「やだ」
「ケツの部分に穴が空いてるほうが良かったか?」
「面白いから、それはケニーが履いてよ」
ケニーのシャツの上から胸板をまさぐれば、今度こそ人形のように持ち運ばれベットへ落とされた。
シーツは私とケニーの匂いしかない。
ここに他の匂いを混ぜたくないのか、血のついたシャツはケニー自ら床に放り投げた。
私に覆いかぶさり、甘やかすように何度もキスをしてくる。
延々と貪られるのなら、そのうち。
「そのうち食べられそう」
「ああ?なんだ今から死体の話か?萎えちまうぜ。」
足先で股間をまさぐると、大きくなったものに触れた。
萎える気配なんて、無い。
「ね、なんで舐めるの?」
「可愛いもんは、噛み付くより先に味を確かめねえとな。」
舌、髭が触る感覚、ケニーの目つき。
どれもが興奮材料。
唾液まみれになるけど、嫌じゃない。
「次行くのはどこ?」
聞いて、すぐに答えは返らない。
天井を見つめている間、ズボンを脱ぐ音が下のほうからする。
骨盤を緩めれば、ゆっくりと下着を脱がされた。
「幽霊屋敷みてえなとこに一時的に身を寄せて、そっからなまえだけ王都へ移れ。」
「は?」
ベットから飛び起きて、足でケニーを捕まえる。
ちょうど股ぐらにケニーの顔がある状態だけど、舐めてはくれない。
暫し見詰め合って、本気で言ってるのかそうじゃないのか疑っていると、いやらしい笑みを浮かべられた。
よかった、また冗談だ。
ふっと息を吐いてベットに寝ると、ケニーの笑い声がした。
「嘘に決まってんだろ、ったく簡単に信じやがって。」
「ケニーの言うこと、基本的に疑わないの知ってるでしょ、いじわる」
太ももを舐められ、軽く齧られる。
歯型のついたところを舌で沿って舐めるケニーの頭を撫でれば、ケニーに頬を撫でられた。
「可愛い可愛いなまえちゃん。」
「ケニーらしくない」
「おうなんだ、本心だぞ。」
移り住む場所が毎回変わっても、ケニーだけは変わらない。
次の家でも、おかえりと言うことはないんだろう。
でも、愛してるって言い合うのは、ずっと変わらないんだろう。




2019.01.29






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