存在が耐えられない程に軽くなる前に






最後のほうの解釈はご想像に任せます







私は、ケニーのように猟奇的な魅力は抱えていない。
トラウテのような凄みを含んだ美しさも持っていない。
仲間のような強い志も無い。
市民のように平穏を願う気持ちも無い。
大した人間ではないし、大した存在ではないのを認めるには随分と「自分がどうでもいい存在」だという証拠がなかった。
誰かに必要とされたいし、守ってもらいたいし、誰かを守って愛して生きたい。
神がいて、何かひとつだけ与えようと言われたら迷わずに「自分も神のように誰からも存在と概念を許される存在になりたい」と強請る。
自らが不安定にならない自信も、安定を永遠に得る自信もない。
私を愛してくれた誰かが、突然お前なんかいらないと言わない保障はどこにもないのは分かっていた。
こういう感情は誰しもが持っているのかどうかすら、私は知らない。
誰にも心を打ち明けてこなかったから。
打ち明ける相手を探してもこなかったから。
私以外の人が見たら、なんて哀れなんだろうと思うはず。
そんな生き方をしていても、腹は減るし眠くなるし、食べものと屋根と服と金がないと生きていけない。
憲兵団に所属して、切り裂きケニーの部下になってから「どうでもいい存在」ではないと思うことは減った。
少なくとも、私の股座に顔を突っ込んで性器を舐めてくれるケニーを見ると、心底そう思う。
ケニーが何度目かの酒を私の性器に垂らして、じゅるじゅると舐めて飲み込む。
性器の全体と隙間がケニーの薄い唇に吸い上げられ、皮膚に髭が触れて張り付く感覚がした。
気持ちよくてか弱く声をあげれば、熱を持ったケニーの薄い舌が離れてから私の臍の下を軽く叩く。
「おいなんだよ、なまえ、酒の味が殆どしねえぞ。」
ケニーの口元は愛液と酒でずぶ濡れで、目が据わっている。
ずぶ濡れの口元は、酒よりも愛液で濡れていた。
「舐めるの上手いんだもん、しょうがないわ」
「馬鹿言えよ、舐めるのならなまえのほうが得意なんじゃねえのか?俺ですら腰が砕けるようなしゃぶり方すんじゃねえか。」
「んー、ケニーの舐め方を真似してるんだけど」
「そりゃ物覚えのいいこったなあ。」
「そこらへんの犬よりは物覚えいいよ、ケニーが舐められながらおっぱい弄られるの好きなの分かってるし」
「お利口さんな雌犬だなあ、発情期もコントロールできるんじゃねえか。」
落ちていくような会話。
この瞬間がたまらなく好きで、私の喘ぎもケニーの荒い吐息も消えては増していくのが生きる証。
シーツを握り締めて、快感で浮く腰をケニーに支配されては絶頂を迎えていく。
酒瓶に口をつけて飲んだケニーが、そのまま私の性器を舐める。
ケニーの舌と口蓋と私の性器の間で酒が蠢いて、粘膜から熱を刺激した。
「ったく、酒くせえマンコしやがって、酒樽にキスしてるみてえだ。」
「それケニーの口の匂いじゃないの?」
「なまえは気づいてないだろうけどな、お前これのやりすぎで常に酒の匂いしてるぜ。」
「ケニーも常に下半身から酒の匂いしてるけど、そういうことね」
「ふざけてんのか、噛み千切るぞ。」
そう言いながらケニーは私の臍舌をべろりと舐めて、にやりと笑う。
幾人もの無残な者が死に際に見た笑顔。
こんなにも性的な笑顔なのに、死んでいった人に申し訳もないほどに感じてしまう。
身を乗り出して私の腹を舐めるケニーのシャツには返り血がいくつもついていて、汚かった。
「俺の匂いはテッペンから先まで血の匂いだっつってんだよ。」
私の胸を寄せて揉んで、わざとらしく吸って音を出して遊ぶケニーに今日の成果を聞く。
「何人殺したの」
「嗅ぎまわってたのを八人。」
切り裂きケニーが今じゃ憲兵団に、なんてどこから漏れるんだろう。
漏らした奴も含めて八人の成果なのかと聞く前に、ケニーがズボンを脱いだ。
ベルトがズボンと共に床に落ちる鈍い音がして、下半身の力を無意識に抜く。
「変な趣味ね」
返り血を浴びたシャツを脱いで、筋肉で出来た上半身が暗がりにぼうっと浮かぶ。
「なまえの趣味も変わってるぜ?酒ぶちまけられて舐められたいなんて女、なまえが初めてだ。」
「だってえ、それするとケニーが凄く上手く舐めてくれるから」
ケニーの節くれだった太い指が、愛撫と酒と唾液でぬるぬるになった性器の中を行き来する。
ふとももにケニーの硬くなった逸物が擦りつけられて、期待で腰が震えた。
筋肉で出来ている腰が欲情して世話しなく動くのを見るのは、とても面白い。
「たしかにな、酒の匂いがして堪らねえ。それから雌犬の匂いもプンプンしやがる。」
割れた腹筋、筋肉で覆われた太すぎる太もも、がっしりした二の腕に骨格をしたケニーでも、性欲には勝てない。
目の奥に光るものは、狂気ともいえない暴力性。
持って生まれた力は決して抑えられない。
私が「どうでもいい存在であることを受け入れるための証拠を探す」ために生きているのと同じ。
ケニーは殺しも血を見るのも、やめられない。
やろうと思えば私を簡単に殺せそうな腕力をしているのに、私の身体で快感を貪る。
何人殺しても、人は人であり続けるとケニーが教えてくれた。
私のケニー、私のものにならないケニー、誰のものにもならないケニー。
理不尽な世界でも我が侭に生きているケニーが羨ましい。
ケニーが熱で緩くなった私の膣内に入ってくるときも、じっと見つめ合っている。
老いているけど、老いは感じさせない雰囲気と物言いと仕草が好きで、自然とケニーをじっと見つめてしまっていた。
それが始まりだったけど、いつの間にか頻繁に身体を重ね、身の上を話し合い、そんな仲になっている。
ケニーが私に明かしてくれるのは、私を信頼しているからだろうか。
それとも、こいつなら大丈夫だろうと軽く見られているからだろうか。
私の腰にケニーの腰が打ち付けられ、膣内を性器で擦られているときも、そんなことばかり考える。
行為の最中、私は感じていればいい。
下半身の隙間という隙間に汗が垂れていく感覚、身体が揺さぶられて内臓が震える感覚と快感。
ケニーの性欲の捌け口になって、粘液と汗にまみれて声をあげていればいい。
でも、考えてしまう。
膣内を行き来してキスをされる意味と、その先を。
強く揺さぶられ、ベットが不穏な悲鳴をあげ始めるとケニーに簡単に抱えられた。
しゃがみこむような体勢のまま抱えられ挿入されて腰を振られ、血の気が一気に下半身に集まる。

「ケニー」
髪が乱れ、身体をオモチャのように揺さぶられ、ケニーと呼ぶ声すら喘ぎになる。
「おう、なんだ。」
掠れた声、乾ききらない舌で返事をした喉と濡れた口元の皺と髭。
息を切らしたケニーの返事に、どきどきした。
「ケニーって何で私とするの?」
こういう時は射精しないように別のことを考えていることが殆どらしくて、つまらない質問でも一応答えてくれる。
「そりゃあなまえで勃つからな。」
「私以外は?」
煽るようなことを言えば、ふと手を離され上半身だけがベットに落ちる。
腰はくっついたままで、ケニーの大きな手は私の背中から腰に移動していた。
血の気が身体を順に這い始める前に、ケニーが口の端を歪める。
「俺のチンポ事情にお熱ってか?」
そうだよ、という声も喘ぎに掻き消されそうになって、歯を食いしばる。
何度も気持ちいいところを突かれ、そろそろ脳みそが快感しか感じなくなりそうだ。
意識を保とうと必死な私を見て欲情したのか、ケニーが乱暴に腰を打ちつけた。
慣れてしまって、痛みは感じない。
私の中をかき回すケニーのモノは太いし長いし、意識していないと気を失いかける。
だからお互いくだらない質問をしあって意識を保つ、なんてよくあることだ。
「そうだなあ、若い頃は手に入りやすい安い酒を飲むみてえに女のケツにしこたまブチ撒けてたよ。」
揺さぶられて胸が揺れる私を見て、悪そうにニッコリとわざとらしく笑ったケニーが私のお尻を叩く。
べちんとマヌケな音がしても、ケニーは満足そうだ。
本当にお尻が好きなのか、汗ばんだ私のお尻の上を指で嬲る。
尾てい骨が割れそうになりながら、ケニーが性欲の思い出話をした。
「いいクソしそうなでっけえケツした女にブチ込む時の肉の揺れ具合も好きだ、地下街に山ほどいる売春婦の貧相なケツも好きだけどな、この歳になっちまうと女の好みが変わる。」
腰だけ抱えていたケニーが、またベットに戻る。
二人だけで雑に寝転んだベットが、二人だけの世界。
「なまえみたいな女が一番そそるんだよ。」
下半身のほうから水音が聞こえて、恥ずかしさで急に意識が戻る。
「私、お尻の趣味はないけど」
お尻なんてぞっとする、と最初のほうに言ったおかげか、一度もお尻でしたことはない。
ケニーの頼みならお尻に挑戦してみても、と思う。
「まあそこは愛嬌じゃねえか?俺の知ったこっちゃねえが。」
「あのねえ、トラウテがケニーのこと尊敬してるって言ってたよ、あの美人が言ってた。」
「嬉しいこったなあ、だけどよお、尊敬で飯が食えるんなら、俺はとっくに教祖様にでもなってるってんだ。」
「私も、教祖様になれるかなあ」
ケニーの腰を、両足で抱え込む。
引き抜かないように腰を押さえ込めば、ケニーが胡散臭そうに笑ってくれた。
「んだっこの、老い先短いジジイから搾り取ろうって魂胆かあ?なまえ、よくやるぜ。」
そう、搾り取りたいの。
「いっぱい出してね」
「お望みなら小便も出してやろうかあ?一緒にビチャビチャになろうか。」
「溜めてた精子が空になるまで、ね」
ケニーの全部、なにもかも、身体も心も全部私の中に入ってしまえば、私のものになる。
ケニーが残す全てを私のものにすれば、ケニーが生きた証も、ケニーが殺した人も生きた証になる。
たとえ世界から切り裂きケニーが呪われても嫌われても恐れられても、私のものになればいい。
幾千の傷痕も、無残に流された血も、全部私のものになればいいのに、永遠に、永遠にケニーを許すのは私。
たぶん、ケニーは誰かの許しや力も思いも必要としていない。
でも、私は既にケニーのものだ。
初めてこうなる前にしていたように、じっとケニーを見つめる。
ねえ、私に存在価値をつけてよ。
あなた、切り裂きケニーなんでしょ?何人の命を背負っているの?
私からの命も背負ってよ。
目で訴えているのに気づいたのか、ケニーは私に軽く微笑む。
にっこりと笑うよりもずっと性的な笑顔。
「なんだなまえ、俺がそんなに良い顔してるってか!褒めてもいいんだぞ。」
「赤ちゃん出来ちゃった」
そう言うと、ケニーは私を見つめてキスをした。
ちゅ、と唇と唇が触れて、離れる。
「ガキの名前決めとけ。」
そう呟いて私の顔を撫でた太い指が鎖骨を撫でてから、お腹を撫でた。
私の中を行き来する、破裂しそうなくらい膨らんだもの。
そこから性欲の端くれを出そうと必死に腰を振る切り裂きケニー、もとい隊長。
なにもかも、心も頭の中も、存在も全て、私の中で認めてほしい。
ぼろり、ぼろりと零れた涙が立て続けに零れればケニーが私の頬を撫でる。
「はあ?なまえ何泣いてんだ?」
胡散臭そうに笑うケニーの額に、うっすら浮かぶ汗。
射精しそうにない逸物を咥え込んだ私の身体が、感傷に満ちる。
「お腹・・・殴られるかと・・・」
「いくらなんでも、んなことしねえよ。そりゃ俺が一番笑えないタイプの暴力だ。」
涙を流す私に何度もキスするケニーが、なあなまえ、おい、と呼ぶ。
どうすれば笑顔になるか模索してくれてるのか、私がヒステリックになるのを待っているのか、察しがつかない。
殺しまくっているせいか、泣く人間の相手をしたことが少ないのだろうか。
私の身体を撫でながら、なまえ、おいなまえ、と呼んでくれる。
その間も体内にあるケニーは萎える気配がなく、絡めた足を取る気にはなれない。
目の前にいる暴力性の塊のような男を宥めるには、どうしたらいいか分かっている。
それでも、涙する私を慰めようと抱きしめたりキスをするケニーが愛しくて堪らない。
感傷に浸る身体を癒して焦がすのは、愛か焦燥か。
喘ぐ唇は、愛も紡げる。
「中に出して」
それだけ囁くと、ケニーは私の顔を掴んで噛み付くようなキスをした。
歯と歯がぶつかり鈍い音がする前に、腰が深く打ちつけられる。
「なまえ、お前やっぱ最高にそそるよ。」
酒の匂いがする舌が絡まって、喘ぎが唾液に流れて、ベットが軋むたび現実が遠ざかっていく。
この瞬間のために生きているわけではないにしろ、ケニーを抱きしめられるのは今しかない。
逞しい背中、太い腕、筋肉で覆われた厚い身体。
女の私を簡単に組み敷いて盛るケニーの腰の動きが早くなって、世話しなく息を継ぐ。
ケニーの必死そうな顔を見て、一瞬だけ考えを別に飛ばす。
ガキの名前、って言ったってなあ、すぐには決まらないよ。






2018.09.11









[ 75/351 ]

[*prev] [next#]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
×
- ナノ -