影の中の花






イェレナさん物凄く好み
スラヴ系めっちゃ好きです




真っ暗な部屋に、僅かな照明が照らすのは私とイェレナだけ。
脱いだ服は丁寧に畳んであるけど、ベッドのシーツは乱れに乱れている。
愛液とその他体液でぐちゃぐちゃだから、起きたらすぐに洗濯しないと。
ベッドのに横になって裸のまま、幼子のないしょ話のように囁き合う。
お互いに汗ばんでいるけど、空気の冷たさが汗をふき取っていくような感覚が好き。
「不思議な目元ね」
イェレナの前髪に隠れがちな目元を見て、脳の奥の部分が疼く。
本能はイェレナの美しさに惹かれ、私の心も惹かれる。
どうして惹かれるのか分からないけど、女の私はイェレナの女の部分に惹かれてしまう。
綺麗な目、吸い込まれそう。
何度そう言ったか分からない。
イェレナは行為の最中も美しい目元を崩すことは殆どなく、感じているのか分からなくて顔を覗き込めばキスをされる。
そうして「なまえは可愛いね。」と言う。
指先に絡んだ透明な糸が、私達の愛の証。
爪の間に乾いた愛液がついた私の手を撫でるイェレナの顔から、目を逸らせない。
「私からすればなまえの目元、というか全体的に不思議だ。」
大きな手が、私の身体をするりと這う。
イェレナの手つきはずるい。
私のような女なら羨ましがる、長い指。
膣内でうねる指で何度気持ちよくされたか分からない。
子宮口を突く中指の先は、何よりも快感。
同性なのに、私じゃ絶対できないような手つきをして私に快感の暇を与えてくれない。
イェレナが私の肩を撫で、乳房の間をなぞった。
「まずこの胸だろう、それに脚腰と顔つき。男に困らなさそうなのに、どうして私なんだ?」
「女が絶対男としなきゃいけない理由ってなに?」
私の中の倫理観をイェレナに囁けば、ああ、と呻かれた。
そして、力なく笑う。
イェレナの目つきはその時も、吸い込まれそうなくらい美しいまま。
この世界にこれだけ惹かれるものがあるのだから、狭い壁の中で生きてきてよかったと思う。
「それも、そうだね・・・なまえの考えもまたひとつの価値観だ。」
イェレナは枕の上で髪を乱したまま、にこりと笑う。
瞼がすこしだけ降りたイェレナの目は、箱に入った宝石がすこしだけ顔を出したような美しさがある。
薄めの唇が、切なそうに動いた。
「だけど、なまえの価値観は私とのベッドの中だけにしてほしい。」

イェレナの言葉に優しさを汲み取り、私まで力なく笑う。
同じように笑っても、イェレナのように美しくはならない。
「立って話すと少し見上げるから、気づかなかった。イェレナの目、まぶたが大きくて、こう目を伏せるでしょ、そうすると睫毛がぶわっと降りるみたい」
劇場のカーテンみたい、と付け加えるとイェレナは一息置いてから続けた。
「私の故郷の人間は大体こういう目つきをしているよ。」
声を出さずに、驚く。
イェレナがどういう出身なのかは大体聞いているけど、そこまでは聞いていなかった。
特徴的な目元をした人たちが、沢山いるのだろうか。
もし、イェレナのような目をした他の女性がいたら。
イェレナのような目をした男性がいたら。
「みんな、こんなに吸い込まれそうな目をしてるの?」
それでも、イェレナにしか目がいかない。
私は恋で脳が浸かってしまった。
愚直な質問をすれば、イェレナが私に覆いかぶさり何度もキスをしてきた。
イタズラするようなキスで、笑ってしまう。
ちゅ、ちゅ、と皮膚を柔らかく刺激するようにイェレナの唇が皮膚から離れたりくっついたりするたび、笑いが出る。
快感ではない。
こういう使い分けが出来ているから、イェレナとの行為はやめられない。
「くすぐったい」
かろうじて言った私を塞ぐように、イェレナにキスをされる。
薄い舌が私の口腔内を満たし、口蓋を舌先で舐められ頭蓋の中身が震えた。
気持ちいい、もっとして。
イェレナを抱きしめて、声にならない声で名前を呼ぶ。
すき、イェレナ、きれい、だいすき、イェレナ、愛してる。
舌が絡まりあう口腔できちんと発音出来ていたかは分からないけど、イェレナは何度も私の頭を撫でてくれた。
組み敷かれ、抱きしめられキスをされ頭を撫でられる。
これだけで私の下半身は出来上がってしまう。
浅ましい身体は愛のためなのか、と自ら性器を触る。
すぐに気づかれ、イェレナの長い指が性器を這った。
喘げば、指はゆっくりと性器を行き来する。
敏感なそこは愛液が止まらず、指を滑らかにしていく。
気持ちいいのを隠さずにいると、ふと指が離れた。
イェレナは私を見て、当たり前のように言葉を突きつけてくる。
生きる世界が違うものでも、交われば分かり合えるはず。
私はそう思っているし、イェレナもそう思っていると思いたい。
「容姿というのは不思議だね、人を惹きつけ魅せることも出来るのに、最も簡単な理由で迫害できる。」
その言葉ひとつに込められた意味を悟る。
パラディ島に来るまでのことは、殆ど聞いていない。
恋をした今、聞くべきなのか。
どんな人生だったか、どんな生き方をしてきたか。
でも、私が好きなイェレナは過去ではなく今を生きている。
イェレナの顔に手を当て、そっと撫でた。
「こっちには私のような容姿の人はいなかったの。」
単純明快な質問。
誰でもいいわけじゃないのになあ、と思う気持ちはしまっておいて、イェレナの質問に答える。
「長い脚、背が高くて、顔が綺麗で、美しい瞳に聡明な頭脳と、気取らない雰囲気」
事実だけを口にする。
「イェレナは私の理想の女性」
うふふと笑ってイェレナにキスをすれば、抱きしめられて起こされた。
裸のまま向き合って、恥ずかしくなる。
何度も見ている身体なのに、イェレナの裸は何度見ても見慣れない。
長い脚は、何度舐めても飽きない。
大きな背に女性らしい体、愛撫するたびに興奮する身体。
見るたびに目の奥がぞくぞくして、身体がぞくぞくする。
私の笑みの裏にはなにもないのに、イェレナは私の顔をよく見る。
そして愛撫するかのように、囁く。
「外でも、口にしたら変な目で見られる言葉だ。」
「そうだね・・・」
大体の人類は男性と女性でこういうことをするのだから。
他なんてどうでもいい、私はイェレナが好き。
それだけで罪なるというのなら、喜んで罰を受けよう。
死に値するのなら、喜んで死のう。
そんな罪も罰もないと知っていても、美しいイェレナを自分のものにしている事実を誰かに知られたら、何かしらは起きる。
何を言われてもいい、でも、イェレナと過ごせなくなるのだけは嫌。
だからこの恋は誰にも言えない、私とイェレナだけの秘密。
イェレナが私を抱きしめて、頬ずりする。
心臓が鳴って、息が詰まりかけた。
「エルディア人とマーレ人がこうしているだけでも、十分禁忌なのだけど・・・どうしてだろうね、なまえといても禁忌という感じはしない。」
それに、とイェレナが付け加える。
「私を抱きたいと言った女性はなまえが初めてだからね。」
とんでもない一言に、優越感が湧き上がる。
「もっと言って」
イェレナは私を抱きしめ、顔を見せようとしてくれない。
鎖骨のあたりに顔を埋めてから、大好きよと呟く。
私もだ、とイェレナが返す。
真っ暗な部屋、照明が私達の影を部屋の壁に作る。
影は部屋に留まり、私達の恋は暗闇だけで咲く花のように密かに讃えられるような私たちふたりが抱きしめあう影を見て、イェレナを抱きしめた。





2018.08.25






[ 74/351 ]

[*prev] [next#]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
×
- ナノ -