恥ずかしい






教官誕
シリーズものの後日談です








幼子に毛布を優しくかけて、頭を撫でる。
小さな頭の中で見る夢はどんなものだろう、いい夢でありますように、と微笑みながら撫でた。
和毛のような髪、柔らかい肌、小さい手足。
寝息を立てているのを確認してから台所に立とうとすると、おもちゃを手にしたキースが音も立てずにやってきた。
おもちゃを差し出し、私を見る。
「何故か俺の部屋にあった。」
「あの子これ泣きながら探してたのよ」
小さなベッドに歩み寄り、小さな頭が乗っかる枕の側におもちゃをそっと置く。
「これで、起きたらご機嫌になるわ」
日差しが傾くには、まだ時間がある。
ご飯の匂いで目が覚める頃に、おもちゃが見つかって嬉しそうに笑う声が聞こえるはず。
小さな未来は、どんどん大きくなって一人前になっていく。
一人で歩み始めて、自分で未来を見つける。
その時に世界がどうあろうと、私とキースはこの子の親だ。
小さな寝息を耳にしたキースが、頭を支えながらぽつりと呟く。
「あの子が俺の頭にしきりに布をかけてくるのは・・・なんの気遣いなんだろうな。」
笑いそうになりながらも、声をあげるわけにはいかず息を飲んで笑いを堪えた。
頬の筋肉が引き攣る私を見て、キースが顔を顰める。
いつも顔を顰めているし私はキースの怖い顔が好きだけど、最近はこのしかめっ面に口元の笑みが足された。
鬼教官をしていても人の親になってしまえば、こうも柔らかくなる。
台所に向かいながら、頭を支えるキースに話しかけた。
「それ思ったんだけど、食べ物のせいじゃない?教官になってから鍛えるための食事に傾けてて食べるものの種類偏ってるし」
芋中心に肉を少々の食事に切り替えた頃と、団長を降りた頃は一致する。
団長時代は自宅倉庫に平均より少し上の食料が備蓄されていたこともあり、色々なものが作れた。
日焼けのしすぎで浅黒い肌になった今のほうが好きではあるけれど、本人の頭髪の問題を考えると迂闊に毛のない頭に頬ずりは出来ない。
「あとは新兵に怒鳴ることによって声の振動で毛が散っていくとか」
「あってたまるか。」
案外ある気がするんだけど、と呟いて台所に立つ。
鍋を取り出し、芋を茹でるべく汲んできた水で満たされた水甕の蓋を開けた。
「なまえ。」
後ろでする低い声。
「なに」
「なまえが俺と結婚していることがナイル・ドークの耳に入っていた。」
「そう」
「なまえが妊娠して暫く医者に通っていた時、ナイルの妻も妊娠していて同じ医者にかかっていて、偶然なまえを見かけていたそうだ。」
「偶然ね」
水甕から水を拝借し、鍋に満たす。
そうか、ナイル・ドークといえば憲兵団の師団長だ。
団長だったキースと顔見知りでもおかしくない。
ナイル・ドークの顔か思い出そうとしたけど、思い出されるのが何故かハンジなので思い出さないことにした。
水で満たされた鍋を置いて、ふと思い出す光景。
リコが芋を丁寧に調理する横でナナバとハンジが二人係で鍋の湯で加減を失敗して笑いあっている懐かしい思い出。
そういう時もあったけど、今が一番幸せ。
鍋を火にかけるべく薪を取ってこようと腰を上げれば、覚えのある大きな腕に抱きしめられる。
無防備だった体はやすやすと台所から離され、脚が浮いてキースの腕の中に収まった。
力は強くないのに、動けない。
「え、あ」
見上げると、キースが真顔で私を見下ろしていた。
この感じは知っている。
「えっと、あの、キース」
生活していると大体わかる、ごく稀にキースのほうから誘ってくることがあるのだ。
稀も稀、殆どは私が服を脱いで罵れと迫りお尻を叩いてもらいながら色々する。
キースのほうから、となると、普通なのだ。
描写することがないくらい普通で、何も言えない。
まず私がキースに迫られると恥ずかしさと嬉しさで何も出来なくなるので、最中のことを覚えていないことが多かった。
さて、この状況はどうしたものか。

キースが私のつむじのあたりに頬を寄せて、囁く。
「寝息を立てていた。」
「その、あのあのあの、あのね、お腹が・・・ほら」
産んでからスカートがなんとなくきつい、と何度か言ったことはあっても鼻で笑われて終わり。
そのはずだったのに、大きな腕がスカートの上から臍下を撫でる。
「関係ないと何度言えばいいんだ。」
そんなに何回も言ってたっけ、と言おうとしたけど声が詰まった。
抱えられたまま移動させられ、もはやそんな目的では何世紀も使ってないような気がするキースの部屋に着く。
降ろされ、扉の前で呆然とする私の足元にしゃがみこんだキースが毛のない頭をスカートの中に突っ込んだ。
太ももがキースの首元に触れて、顔が熱くなる。
「珍しいね、キースから来るなんて、あっ、ああああやめっ、自分でやるから」
腰を引いてから、自分で下着を脱ぐ。
スカートを引っ張って潜り込んだキースを出すと、欲情した目を向けられた。
「させろ。」
直球。
キースのほうから誘ってきたことは何回かあるけど、こんなに恥ずかしかったっけ。
私が誘うからキースはよく蹴り飛ばしてくれたし、でもキースは私が言わなきゃ叩くこともしない。
ああ、じゃあ、痛いのは今日はないんだ。
「なんで顔を赤くしているんだ。」
「だって・・・」
スカートを押さえれば、キースが手を突っ込んで太ももとお尻を何度も撫でる。
どかして、と言うかのようにスカートを押さえる手をぺろりと舐められ上目遣いで見られ、物凄く恥ずかしくなった。
優しい手つきと大きな手が何度も皮膚を行き来する感覚にぞくぞくして、すぐに下腹部が濡れる。
「ケツを叩かれて潮を噴き喘ぎ叫ぶ威勢はどうした?」
「威勢ってなによ!」
大きな声を出したはずなのに、嬌声交じりの声が出る。
まだ指も愛液溢れるそこに触れてないのに、こんな声が出るなんて。
欲求不満に思われたくない私をよそに、キースがスカートを捲る。
覚えのある舌が太ももを舐めて、背筋が凍りつくようにぞわぞわと這ってから快感に変わっていく。
大きな手が胸に伸びてきて、指が下着をずらして勃起した乳頭を撫でる。
キースの太い指が簡単に埋もれる自らの胸を目にして、目をきつく閉じた。
「ねえもう恥ずかしいから、ね?」
空いてた両手でキースの顔に触れれば、腰に軽く歯を立てながら舐めていたキースが胡散臭そうに笑う。
「どうしたなまえ、振る舞いも顔つきも・・・出会った頃のなまえに戻っているぞ。」
「そんなことないって!」
思わずキースの両目を塞ぎ、息を整える。
恥ずかしさの理由は、一体なんだ。
久しぶり、すぐ近くで幼子が寝ている、というのが一番の理由になるかもしれない。
目を塞がれたキースが、皺のある口元を動かす。
「性欲まで消えうせたわけではあるまい、夜中に自慰してるのは聞こえてる。」
性行為と自慰は別だ、と言いたい。
「嫌ならやめる。」
「したいけど・・・でも・・・」
恥ずかしい。
ただそれだけ。
「いざ迫られるとこのザマか、俺の知ってる淫乱馬鹿のなまえに戻れとは言わないが・・・顔くらい見せてくれ。」
キースが私の手をそっと取り払い、見知った笑顔を見せてきた。
「可愛い。」
「可愛くなんかない」
顔に集まる熱は増して増して、もうどうにもならない。
「俺から見れば、可愛い。」
「もおおおおほんとに、やめて、恥ずかしい」
ついに本音が漏れる。
限界突破目前の私を抱え、ベッドまで連れて行く。
キースの匂いしかしないベッドで寝そべれば、シーツと毛布の冷たさを皮膚で感じ取り、熱が全身に行き渡っているのを確認する。
ズボンを脱いだキースが、もう見慣れたそれを露出させた。
おかしいな、もう何度も見ているのに、ものすごいものを見せられた気がしてならない。
目を伏せていると、私の下半身にキースの腰が近づく。
何度も受け入れているそこに、ゆっくり挿入される。
気づけば、私の顔を見つめるキースが視界を占領していた。
日に焼けた肌、僅かに濡れた唇、窪んだ目に寄る皺、鋭い眼球の中にある虹彩が目立つ。
前なら涎を垂らし雄叫びに近い喘ぎをあげていたのに、今じゃ声も出ない。
膣内で動くキースの一部がどうなってるかなんて、分かっている。
恥ずかしさでどうしたらいいか分からない私を抱きしめたキースが、優しく囁いてくれた。
「抱き心地は良くなっているぞ。」
「太ったってこと!?」
私の中で膨らんでいるキースが、腰を打ち付けて気持ち良さそうにした。
「産んで太らないほうが、おかし、いっ。」
腰が打ち付けられるたびに、脚は揺れるしお腹の奥が締まる。
どう足掻いたって、気持ちいいものは気持ちいい。
どうかお腹は見ないで、と服で隠していると子宮が降りる感覚がした。
子宮口を押されるたびに、息が漏れる。
声をあげるふりをして、キースの腰を脚で押さえる。
ようやくその気になったのか、という顔をしたキースに問いかけた。
「ねえ、ほんとにどうしたの、キースから来るなんて何年ぶり?」
「ふとしただけだ・・・。」
男性の性欲はふとした時に沸く、と聞いたこともないが挿入して腰を動かすキースを見て、だんだん落ち着いてきた。
見慣れた女、見慣れた体、見慣れている私。
いつもは私が馬乗りになるか、馬乗りになったキースが私を甚振っているか。
腰を振っている間は、人間皆動物。
誘ってしまえば、ふとした本音も出るかもしれないと賭けてみた。
「ねえ、じゃあキース、私の体を見てよ」
お腹から手を離して、ほら見てと誘ってみる。
私がお腹を気にしているのは分かっていても、まじまじと見るようなことはしない人だ。
体を離し、ほぼ裸の私を見下ろしてくる。
「正直、前と変わってない。」
嬉しい言葉をひとつ、そして大きな手が私の頬に触れた。
「誘うような顔つきの真下に誘うような体つき、さぞここも誘うような付き方をしていると思われるだろうな。」
性器に指が行き着き、最後に一言。
「実際そんなことはないが。」
「えっ」
何と比べているんだ、と目で訴えれば、申し訳無さそうに目を逸らされた。
「まあ・・・団長になるまでの過程で医学も齧るからな。」
そう、と呟けばキースが大きな指で臍下と結合部分を撫でる。
「ここも、可愛らしいぞ。」
「どういう可愛いの基準なのかさっぱり」
私の額にキスした唇が、基準は特に無いと呟く。
性器付近にあった大きな指が、肉芽を擦る。
「あっ、えあっ!」
腰を抑えていた脚が震え、お尻のあたりを攣りそうになった。
キースが欲情して座った目で私の体を見下ろし、大きな指にずるずると擦られたまま、腰を動かされる。
当然気持ちいいので身を任せ、揺さぶられる身体のてっぺんにある頭を働かせた。
お尻を叩いて罵って、と迫る時の私が考えていることといえば、見るからに堅物なキースの性欲を引き出したいという理由。
血も涙もなさそうなおじさんが、女の肉体を貪るという光景が見たくて堪らない。
そう、そういう不埒で優越感に浸るための気持ちを性欲と愛で混ぜた理由なのだ。
女の私は感情由来の理由は絶頂と共に飛んでいく。
じゃあキースはどうしたというのだろう。
ことの始まりを思い出す。
ナイル・ドークにバレていて、妊娠してた時に病院で見られていて、ナイルの妻、妊娠。
きっと、ナイルに何か言われたのか、または性行為本来の目的を目指し始めてしまったか。
向こうで寝ているあの子ひとりでも大変なのに、と思っても、快感でどっかに飛んでいく。
背筋の中を、ゆっくりと絶頂が這う。
叩かれ、蹴られ、罵られて迎える絶頂とは全くの別物。
じわじわと広がる快感に身を任せ、揺さぶられる身体の中で弾けていく快感が行き先もなく皮膚の下を走る。
気持ちいいと悲鳴をあげる子宮の周りにある筋肉が収縮して、身体を抑えた。
脚が緩んで、かかとが痺れる。
僅かに声を漏らせば、体内にあるキースの一部が膨らんで何かを出す感覚がした。
奥のほうで出した気がするので、漏れないうちに布を当てておかないといけない。
息を切らしたキースが、私に縋りつく。
「なまえ、力を抜いてくれ・・・抜けない・・・。」
「待って、むり」
この状態で、どう力を抜けと。
汗をかいた全身と、混ざる呼吸。
キースの背中を抱いて、会話の最初のほうに戻った。
「息殺してオナニーしてるつもりだったのに・・・」
「俺の耳を舐めるな。」
射精して疲れたのか、息も絶え絶えなキースが愛おしくなる。
言われたとおりにキースの耳をべろりと舐めてみると、身体を離され叫ばれた。
「舐めるな!!!」
赤らんだ顔、怖い目つき。
今の声であの子が起きたらどうしようと思い、服を直しつつ微笑む。
汗で張り付いた髪を耳にかけて、キースの腕に顔を寄せる。
「淫乱馬鹿に戻れそう」
そう言って笑えば、優しく抱きしめられた。




2018.08.18





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