スクリーム・アンド・ショット







愛子さんリクエスト
冷徹の熱、溶融、クローゼットの中の抜け道、落ちる陰りに愛の炎を
と続いたミラシリーズの続き







壮大な物語、喜劇、悲劇、恋物語、空想物語、大衆芝居、誰もが一度は耳にしていくそれらに大体関わる「愛」というもの。
この「愛」は非常に厄介で、時に人を生かし、殺して、何度も殺す。
見えないところで自分が殺されていく恐怖を得てしまえば、生かされる喜びも味わえる。
ナイフのようなもので、林檎を綺麗に剥くことも出来れば刺し殺すことも出来てしまう、愛というのはそういうもの。
「愛」がこんなにもややこしく面倒くさいものになったのは、前時代からの先入観であり種として繁栄するための目的とプロバガンダがいつも関わったからだと思う。
私がそう思うだけで、何も口にしないし何も言わないし何も疎まない。
でも、愛する者を見つめたときにそういった思いが浮かび上がるのならば、私の目の前にある愛は前時代の先入観に侵された病の塊。
決してそうではないと言い続ければ呪いも病も溶けて治るのは、御伽話だけ。
現実は御伽話ではない、どこまでも救いのない闇に包まれた世界を自らで照らして歩いた末にある大きな門を潜り抜ける冒険だ。
そう、人生は御伽話じゃない。
冒険なのだから、何をしたっていい。
皆気づいているはずのことなのに、恐れとか憂いとか言ってしまえば社会情勢とか衆人の目が怖いとかでやらないのだ。
私の「愛」は、恐れをも超える本物の愛だと世界中の者に分からせてやりたい。
そうすれば、皆が振り回されたり気にしたりすることがひとつふたつ減る。

言葉の羅列のような滑稽な愛を妄想していれば、来客を知らせる間の抜けた音が部屋の中に響き渡る。
庶民は泊まれないような高級なホテルはブザーが鳴るのか、と思いながら口紅を引いて、髪を手櫛しながら扉を開ければ既にミラがいた。
いつも通りの気品のある姿に、顔つき、雰囲気、出で立ち。
部屋に招きいれ、ルームサービスで取ったパンケーキセットが豪華なテーブルに並んでいるのを見たミラが、パンケーキを見て嬉しそうに微笑む。
アフトクラトルで邪神のように怖がられ、育ちの良さが成せる態度や振る舞いは教養のない民から冷たい女だと恐れられるミラは、本当はこんなに可愛らしい。
「なまえ、お昼よ、約束は守ってくれたようね、安心したわ。」
言葉遣いこそ堅苦しさが感じられるものの、ミラの顔は子供のように朗らかで柔らかそうな笑顔。
パンケーキひとつでこんなにも嬉しそうにするミラを、今すぐに抱きしめたい。
椅子に座り、ミラの小さな腰がクッションの上に乗る。
恋しい手つきがナイフとフォークを手に、パンケーキを慣れた手つきで切っていく。
ミラの愛らしい顔と仕草を眺めながら、すこし前に淹れておいた紅茶を飲む。
カップに目をやり、口紅がフチについていないことを確認する。
その隙を狙ったかのように、ミラが今日のデートをわざと高級ホテルにした理由を口にし始めた。
「この前喫茶店でパンケーキを食べたでしょう・・・見られていたの、ランバネインに。」
ああ、そうか。
声に出さず目でそう伝えると、ミラがパンケーキの一切れを頬張った。
一体、いつどこで何を見られたのか。
「ランバネイン様ね、私にも分け隔てなく接するお方よ」
「そうかしら?」
「私は、そうだと思うわ」
アフトクラトルの権力者の妻が友人と会ってお茶をしている、それだけなら人目を避けたデートでいいとミラが提案するわけがない。
おそらく、ミラが喫茶店で私に抱きつき、ミラの耳たぶにキスをして、そっと喫茶店のある通りを離れ、賑やかな通りを更に通り抜け、その先にある宿泊街へ行ったこと。
どこを見られていたか、大体想像がついて紅茶を一口飲む。
パンケーキを飲みこんだミラが「美味しいわ。」と呟き、音も無く立ち上がった。
出入り口付近にある連絡用のメモに何かを書き、べりっと引き剥がし、パンケーキの皿の横に置く。
「これをホテルのパティシエに渡したいわ、チョコレートソースがとても美味しい。」
小指をすこしだけ曲げてメモを置いたミラを見て、メモを何気なく見る。
メモには「ベッド前の鏡の中に一緒に来たハイレイン様がいる、なまえがたくさん犯して」と綺麗な字で書かれていた。
綺麗な字を読み解くと同時に、ミラの顔を見るのを忘れた。
何だって?と聞き返したくなる事実を張り倒してしまう前に、考えるべきことがある。
どうしてハイレイン様がこんな行動を取っているのか、だ。
ランバネイン様に見つかった、ミラは先ほど大ヒントをくれている。
定期的にどこかへ出かけ、夜遅くまたは翌日に帰宅するミラにハイレイン様が邪な疑いをかけていた結果、ばれた。
背筋に熱いものが走り、同時に胃の中が強ばり、今にも笑いそうになる。
パンケーキを食べるミラを見つめながら、この部屋の間取りを脳内で再確認した。
出入り口とフロア高級ホテルらしい綺麗な作りで、広くて大きい。
広いフロアの真ん中に私とミラがいるテーブルと椅子があるけど、これもまた広いし大きいので、ミラがわざわざこのような行動で伝えてきたということはどこかに盗聴器がある。
声を聴いてどうするのかと気分が悪いものの、息を吐き出してうふふと笑って適当な話題をミラに振った。
先ほど塗った口紅のブランドから新作が出ると言えば「もう予約したわ、当日には使うの。」と丁寧に返される。
丁寧なミラの手元近くにあるメモに目をやって、軽い感じで言ってみた。
「ミラから褒められたパティシエって呼ばれて、このホテルも大盛り上がりになるわよ」
平静を装い微笑んだけど、今にも大笑いしてしまいそうだ。
ハイレイン様が行為を見ようとしている事実はとても可笑しいけれど、パンケーキのソースの中身のように蕩けた私の愛に一滴の冷や水が注がれる。
気持ちは分からなくもないが、当事者としては気持ちを噛み砕くことが出来ない。
今据わっている椅子とテーブルの後ろにはベッド、その横には化粧台、化粧台の横からバスルームに行ける。
ミラのメモの内容は、ベッド側にいるハイレイン様には確実に見えていない。
体の中をぐるぐると回る感覚には、覚えがあった。
笑うことと叫ぶことは、よく似ている。
今にも叫びたい、でも、笑いたい。
これだから男はと何度でも口にして大笑いできそうな話が出来たと喜ぶ自分と、私とミラの閨事にまで干渉してくるハイレイン様の脳みその中身が恐ろしくて叫びたい自分がいる。
パンケーキを頬張るミラが、そっとメモを黒窓の向こうにやった。
パティシエに届けるわ、なんて呟いたその唇に今すぐキスしたい。
ハイレイン様は、今この瞬間も何かしら見ているし聴いているだろう。
あの根暗のことだ、ミラに「女同士で性行為をしても意味が無いだろう、どうやってするんだ、出来もしないだろう。」とか言ったんだろう。
ハイレイン様の顔を浮かべながら汚いことを考えるくらいには、叫びたい。
政略結婚の裏で、ミラに本命の恋人がいることは想定の範囲内でも相手が女性だったと知って、出来心か興味で私を出し抜こうとしたと思考が染み付きそうになっただけで、笑いたい。
私達の愛が否定された気分は拭えなく、笑いと叫びの間に独特の気分の悪さだけは消えずに体の底に溜まる。
溜まっていくものが憎悪に変わる前にミラがパンケーキを食べ終われば、と思えば、ミラが立ち上がりベッドのほうへ歩く。

パンケーキは食べかけなのにいいの?と自分で言っているのか理性が言っているのか分からない言葉を投げかければ、ミラが私を少し見たあとベッド前でするすると服を脱ぎ始めた。
黒くて質素なワンピースの下には、私とミラの二人で選んだ赤とピンクの記事に白いレースが縫いこまれた可愛い下着。
グラマラスな体の線に対して肌は白く、美しい。
見とれそうになって目を合わせると、ミラの瞳には欲情と同時に何かへの軽侮が浮かんでいる。
麗しい色をした瞳を見つめて、安堵した。
ミラも、私と同じ思い。
それはもう、変えようがないのだ。
「なまえとこの前したでしょ、何度も思い出して一人でしたの。」
下着姿のまま腹から臍の下を手で撫で、誘うような仕草をするミラを見てアハハと女独特のいやらしい笑いをしてみせた。
「そんなはしたないことを口にするなんて、どういう風の吹き回し?」
ミラに近寄り、片手でブラジャーを取り外してあげた。
露になった乳房を舐めると、ミラが私の頭を抱きしめて息を短く吐き出す。
「ほら・・・私あの時泣いたでしょう、それで余計に。」
確かに、喫茶店で抱きしめあったときのミラはその後泣きながら行為に及んだ。
プレッシャーも肩書きの重さも政略結婚の意味も、ミラがミラ自身に戻るときだけは重圧になる。
それが時々あったから、ミラが本当は子供のように純粋で無垢だから時に残酷になれることを私は知っていた。
ハイレイン様じゃ、絶対に知れないこと。
ミラの乳房から胴を舐めて、臍の下にキスをする。
下着を下ろしてあげると、ミラのほうから脚をあげて脱いでくれた。
柔らかい脚に顔を埋めれば、早くと呟いてミラが私を引いてベッドに飛び込んだ。
シーツの上で全裸になったミラのために、服を脱いで下着だけになる。
いつもミラだけが全裸になるのは変わらない、ここではいつもどおりすればいい。
「なまえ、愛してるわ。」
聴きなれた愛しい声が、私の名前を呼ぶ。
キスをしながら指で性器を愛撫すれば、すぐに滑りはじめる。
ミラの濡れた性器と私の指が溶けてひとつになりそうなくらい熱を持って濡れてくるまで、ミラの愛しい顔を見つめた。
普段の冷酷さも消え、私の前でだけ女になり、恋人になり、好きと何度も呟く愛しい唇を真っ赤にさせる。
ミラとの今の関係に不満は無い。
言う事があるとすれば、政略結婚により会う機会が減ったこと。
不満はそれくらいなのに、ベッドの向かいにある大きな鏡の向こうにいるというハイレイン様は何を思ったのか。
見ているのなら、見せてあげる。
透明の体液が私の手指を濡らし、くちくちと音がし始めた。
好きなところを弄っていくたびに、あ、あ、と声を漏らすミラに何度もキスをする。
なまえ、なまえ、と呼ぶミラの膣内に指を埋めれば、熱の中に指が招かれた。
熱い膣内は締まり、上部は膨らんでいる。
ミラの唇から逃れて、中指と薬指を使い膣を指の腹で扱くとミラが喘いだ。
脚を開いて、太ももの筋肉を強ばらせ、腰をがくがくと震わせて強請るミラのために何度も膣内で指を行き来させると、ミラが目に涙を溜める。
掌が愛液で濡れ、肉唇を掌で擦った。
とても可愛い顔にたまらずキスをすれば私の口紅は取れて、ミラの口の周りに残っていく。
熱い口腔内を舌で舐めまわせば、ミラにもっとと顔を掴まれた。
声が直に伝わる状態で膣内を指で蹂躙すれば、んんんと叫びに近い喘ぎが頭蓋の中にまで響いた。
舌の奥から発せられる獣のような喘ぎのあとミラが自ら顔を離し、空気を求めて呼吸する。
「なまえ、すき、すき、ああぁぁああぁ、も、奥きちゃうっ。」
奥、と言われて中指と人差し指を膣内に挿入し、親指で肉芽を擦る。
ぐちぐちと音が鳴るたびに、ミラが喘いで乱れた。
髪はシーツの上でばさばさになって、肢体にも汗が浮かぶほど熱を持ち、喘ぐ口元には私の口紅がついている。
淫靡な光景に恍惚としながら手を動かしていれば、手首のあたりにぶしゃっと潮がかかった。
「奥っ、奥くる、くるっ!」
腰を震わせるミラのため、何度も指で責めればミラが我慢していたかのような叫びに近い嬌声をあげる。
何度か潮を噴いたあと、性器を震わせながら達して、びくびくと動く。
吐息に張り付いてきたかのような喘ぎに、興奮が湧き上がって舌なめずりを起こした。
ゆっくりとミラの膣内から指を引き抜けば、泡立った愛液が指の間にも性器の間にも張り付き、中指の根元には白い愛液までついている。
「いっぱい感じたね」
そう言ってキスをすれば、ミラのほうから強請られる。
達したばかりで重い腰をあげ、動くたびに喘ぐ。
「ん、あ、なまえ。ね、あれ、私が上になる・・・。」
上になる、と言われなんの体位かすぐに分かり、ミラを抱きしめる。
汗ばんだ温かい体は、皮膚の下に熱を持って今にも破裂しそうだ。
ミラを支えたあと、ミラを膝立ちにさせたまま私は寝転がりミラの股の下に顔を持っていく。
散々手指で責め抜いた性器が目の前に現れ、思わず舐める。
赤く腫れて誘う肉唇を舐めれば「んあああっ!!」と抑え切れなかったであろう声がした。
私の顔に乗る体位になり、ミラの細い指が私の臍から下の部分を這う。
性器に舌を這わせながらふと周りを気にすれば、私が寝転がったまま上を見れば鏡が見える位置にいた。
今ハイレイン様に見えているのは、ミラのお尻と、性器を舐める私の頭頂部。
それなら、とミラの気持ちいいところを知り尽くした自らの舌でミラの性器を舐めまわせば「なまえ、なまえ、すきっ、すきぃ、あああぁぁ。」と喘がれる。
この愛しい声を聴くためだけに、ミラの蕩けた声と体と顔と心を堪能したくて行為に及ぶ。
私を愛していると、喘いで叫ぶ声が欲しくて透明な体液に塗れる。
愛液が溢れ、唇を濡らした。
「もう、ああぁぁ、すきっ、なまえ、すきなのっ、すきなのっ!!」
分かりきったことを、ミラは何度も伝える。
愛しい気持ちが爆発し、愛を確かめ合う、それだけのために抱き合う。
男との性行為とは目的が違うのを、見ているハイレイン様は理解するだろうか。
膨れた肉芽、愛液の溢れる肉唇、ひくひくと動く膣口。
膣の中に指を埋めて擦れば、腰ががくがくと揺れ強請る声がして、熱い膣内を指で責めれば潮が顔にかかる。
震えて真っ赤な性器と、熱が篭りすぎて熱いお尻。
掴んで舐めて、指と舌で責めて、声を聴いて。
これ以上に幸せなことはあるだろうか。
ミラが快感に追われながらも私の性器を弄り、舐めている。
気持ちよさとしては微々たるものでも、愛しいミラがしてくれているだけで今にも達しそうだ。
可愛いミラを見て濡らした性器を見られるのは恥ずかしいけど、ミラになら弄られたっていい。
なまえ、と囁いては間で喘ぎ、喘がせるために舐める。
性器を舐めて、吸い付いたり舌で愛液を舐め取っていれば、ミラから「もういい、疲れた」の合図の左手の拳をシーツに二回叩く音がした。
唇を離し、顔の下半分が愛液にまみれた私の顔を見たミラが照れくさそうに微笑む。
その顔には快感が滲んでいて、淫猥な事この上ない表情をしていた。
「なまえ、も、いきすぎて腰いたい。」
「そっか、ゆっくりしましょう」
へなりと力なくシーツに倒れこむミラに寄り添い、ベッド脇にあるティッシュで顔と舌を拭く。
独特の味がする愛液を取り、シーツの上にティッシュを落とせば、ミラが私の太ももを撫でて抱き寄せてきた。
ミラの手に従って大人しく抱きしめられると、ミラが「耳を澄ませて。」と囁く。
ケアをするふりをしてミラの体を撫でていれば、奥のほうから扉が閉まる音がした。
たぶん、ハイレイン様だろう。
「本当にいたの」
「ええ、もういいみたいね。」
自分でも驚くくらい潜んだ声が出て、改めて性行為を目撃されていたことを自覚する。
最初から最後までレズビアンの行為ではあったが、なぜそれを見たがったのか、分からない。
ミラの髪を撫でれば、可愛い声がした。
「私の言っていることが嘘じゃないかって疑ってたのよ、でも、もういいみたい。」
「なにそれ」
「なまえ、私、見られて興奮しちゃってたわ、変な女って思わないで。」
ハイレイン様が何を考えているかは、分からない。
可愛いことを言うミラが愛しくて、そっと抱きしめる。
熱が収まってきたころに再度行為をするだろうけど、首にキスマークをつけてミラに印をつけた。
「見られて興奮するの、でも、今回だけよ。ミラのこんな姿を見るのは私だけでいい」
「そうね・・・腰が痛くなるのはなまえとだけでいいわ。」
いつものミラは、キスマークをつけさせない。
ハイレイン様にばれてしまうから、という私の配慮とミラの黙認もあり今までつけたことがなかった。
ミラの首に、キスマークをひとつつける。
「じゃあ私とミラは、ハイレイン様公認の仲ってこと?」
「まあ・・・あの人は、跡取りと権力のことを第一に考えていたから。」
一息おいたミラが、微笑んだ。
「そうなるわね。」
嬉しい事実に、今度こそ笑う。
叫びは笑いに掻き消され、嬉しくなってミラに抱きつく。
おかしい、ばかみたい、愛を疑うために小細工を仕掛けて、それでミラが納得するわけない。
政略結婚とはいえ、女性との不貞なんて皆に言えるわけがない。
女同士なら、子供はできない。
私の目的はハイレイン様の権力や金でもない、ミラと愛し合うこと。
もし私が男なら、金を全部取り上げて打ち首にでもしたんだろう、でも生憎私は女、そんなことが目的で生きてるわけじゃない。
愛に規律を結び付けないだけ、それだけのこと。
女は等しく愛を産み出す存在だと気づくまでに時間を要したのは、きっと私だけではない。
叫びたい気持ちは、笑いへと変化していく。
私の笑顔を見て、ミラも察したのか気の抜けた笑顔を見せる。
クローゼットの奥から大事なものを見つけたときのような、安堵の笑顔。
これでいい、と安心した顔。
ミラの潤んだ瞳を自分のものにしたくて、またキスをした。






2017.10.19










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