声を枯らせ







三輪秀次リクエストの藤白さん、ありすさんの
・三輪くんとすれ違う話/悲愛
・鈴鳴支部所属の同い年金髪クォーターなオールラウンンダーとほの暗めの裏
になっています。

わりと暗い











私の髪は目を引く。
血はどこで巡り、運命を手繰り寄せ、人の形をするのか、私は考えるたびに息を沈めていく。
目を覆う金色の睫毛、色素の少ない肌、薄い唇と舌から出る言語はこれでいいのかと世間の目が向く。
考えてもどうしようもないことは世界に沢山あり、それが身から離れようとしないことならば、苦しみに似た焦燥感は度々に襲い掛かってくる。
三輪が銃の手入れをしながら、話しかけてきた。
「なまえ、そこで寝ていないで個人戦にでも行ったらどうだ。」
壁一枚向こう、曇った声。
「ええー・・・ここがいいわ」
手入れされた部屋、いつもはここに月見さんがいてお茶を淹れてたり和菓子をくれたりする。
彼女の黒髪と切れ長の目は、この国にありふれた外見。
そこに異物のように紛れる私を平凡扱いするから、ボーダーの人が好き。
でも、三輪は少し違った。
いつも殺しにきそうな目つきをしていて、気配も薄暗く口調も暗い。
誰に対しても、私に対してもそう。
正直怖くて仕方なかったけれど、凶暴な態度を取らないので躾のなってない子犬だと思うことにしたら、慣れた。
鈴鳴は居心地がいい。
来馬さんはとても優しく、来たばかりで棘のある私を優しく出迎えてくれた。
嫌味で異国語で喋れば異国語で返してくるユーモアがある来馬さんも、私の動きを覚えて何度も勝ちに来る村上くんも、品のある今ちゃんも、元気な太一くんも。
鈴鳴のみんなが、大好き。
そう口にしていいのかと、異国の人間独特の薄い唇と舌が躊躇う。
本当なら、三輪に声をかけて「オー!ヤポンスキーボーイ!個人戦しまショウ!」とか見た目に合うことでも言って三輪を誘えばいい。
三輪は興味の対象だ。
騒がしくなく、一人で行動して、自分の信念に忠実。
こういう人は滅多にいない。
私の目には、魅力的に映るのだ。
三輪には、和室が似合う。
月見さんと三輪が持つ、日本の平均的な黒い髪にクリーム色の肌は、和室に溶け込む。
私に和室は似合わない。
背中をゆっくりさせたくて寝転がって、天井を見つめる。
色素の薄い目は、光に強くない。
だからこういう照明があまり利いていない和室は好きなのだ。
ツインテールにした金髪が、畳の上で広がっていた。
「ねえ三輪、米屋はどうしたの?」
「個人戦だ。」
暗い声が薄い壁一枚向こうから聞こえる。
「暇なのだわ、相手してほしいの」
「暇ならここから出て行け。」
私を一切相手にしない態度から、三輪がいまどんな顔をしているか想像がつく。
今にも歯軋りしそうな顔で、どこかを睨みながら銃の手入れをしているんだろう。
起き上がって、ぼうっとする。
三輪はいつもこうだ。
私が冗談で異国語を話して馬鹿にしても、個人戦で勝っても、異国のお菓子を持ってきて月見さんと食べていても。
鈴鳴なのに、月見さんが好きだからという理由でここに来ても。
私の相手なんかしない。
第一、遊びも他人の相手もする暇なんかないんだろう。
三輪は姉を失って、楽しみや冗談どころじゃない日々をずっと過ごしている。

身から離れぬ記憶、こびりついて取れない事実。
私は身体を覆う皮膚と色に、三輪は脳に。
三輪と私は似ている。
けれど、お互いの傷を舐めあって生きようなんて魂胆はどちらも持ち合わせていない、そう気づいたのは少し前だ。
村上くんに奇跡的に勝っても、私が勝ち誇らない姿勢を皆が褒めた。
「外国の子なのに凄い」「外人なのに大人しいのね」
クォーターだ、どういうわけか私に異国の血が濃く出たんだ、そう言いたくても言わない。
私が知る気持ちは、私のもの。
三輪も姿勢は同じのようだから、きっと気が合うと思っても冷たく暗い態度を取られておしまい。
それが何度あったことか。
「そこでいつまでも燻ってないで米屋追いかけたらどうなの」
嫌味。
日本人が嫌うこと、そして私も言われるのが嫌いなこと。
「そのまま返す、なまえ、今日はオペレーター会議だから、うちのオペレーターは帰らない。」
その言葉に、少しばかりの期待を失う。
三輪は私が月見さんを待っていると信じている。
そのほうが色々と都合がいいのは間違いないけれど、すこし残念。
のっそりと立ち上がり、背伸びをする。
皆より長い脚、小さい頭部、金色の髪、色素の薄い肌。
トリガーで皆と同じような黒髪と身体に出来たけれど、あえてこのままにした。
コンプレックスに思えなくても、この身体を包むものは私がこうなっている原因であり証だと誰もが一目見て分かるようにしたい。
桜子ちゃんとお揃いのツインテールも、異国じゃ気持ち悪がられる髪形。
でも、ここでは「可愛い」で済まされる。
ここは良い国だと思って和室から出ようとすれば、三輪と鉢合わせた。
私より数センチ背の高い三輪の顔を見れば、怒ってもいないし悲しんでもいないし笑ってもいない。
黒い髪、クリーム色の肌、低い鼻、眼球を守る瞼に生える黒い睫毛、輪郭の下にある骨は逞しくなく、性差を感じさせない。
「なんのためにここに来てるか分かってるぞ、もう帰れ。」
「嫌なのだわ、って言うつもりだったの」
三輪を通り過ぎて、出口へ向かう。
「村上くんと約束があるの、だからもう行く」
もちろん嘘。
本当は三輪と個人戦をしたかったのに、と脳の中で感情にする前に肩を強く捕まれる。
なに、と振り向けば、三輪がまたしても怒ってもいないし悲しんでもいないし笑ってもいない顔をしていた。
振り向いて向き合っても、オイとかコラの一言もない。
なあに、と口だけ動かしてみれば三輪の手が私の肩を押した。
喧嘩を売っているのかと掴みかかろうとすれば、手を掴まれて暗く低い声で話される。
「なんのつもりで鈴鳴のなまえがここに来ている。」
「月見さんに会うため」
嘘、本当は三輪といつか話してみたいから。
ここまで暗い影を持つ人がどんなことを考えて何を話すのか、私は知りたいから。
自分勝手な私を、自分勝手で覆う。
三輪が顔色を変えないまま、ぽつりと告げる。
「なまえ、運が良いのを忘れるな。陽介がここにいなくて良かったな、ここ最近なまえについてかなり下品なことを言っていた。」
「米屋が?意味が分からない」
「なまえが他の野郎のオカズにされてるのを陽介は茶化したんだよ、あの性格だからなまえに言って反応を楽しむつもりだった。」
いくつか意味のわからない言葉があって、え、と呟いて思考を止める。
「なまえは嵐山隊にでも行けばいい、そうすれば一石二鳥だろう、鈴鳴から離れたくない理由はなんだ?村上と付き合っているのか?」
「違う」
なんで村上くんの名前が、と疑問に思う。
手の力を緩めれば、三輪が自然と手を離してくれた。
おかずと言われても食べ物のほうだろう、と何なのか分からないままでいると、三輪が私の金髪を触る。
ツインテールの片方に何かついていたかと顔を三輪から逸らせば、次は頬に手が触れた。
身を引こうとすれば、三輪が強い力で二の腕を掴んだ。
一瞬だけ体が浮くような感覚がして、壁に押し付けられる。
背中に冷たい感覚が走り、身体の中で防衛本能が叫ぶ。
痛みはなく、身体だけふっ飛んでいく感覚を味わいつくす前に三輪の顔が至近距離に現れた。
三輪の顔は変わらないのに、瞳孔だけが開いていてゾッとした。
思わず唾を吐いて三輪の頬に白い唾液の塊をかけて、状況からオカズの意味をなんとなく察する。
「ああ、そうだよな、なまえ、オカズにされてるんだ、嫌だろう。」
唾を吐きかけられた三輪は激昂することなく、淡々としている。
私がこういうことをされるような目で見る人が、どこかにいたのか。
そりゃそうだ、この髪と容姿だ。
異質なものはいつだって隠れた感情の的になりやすい。
分かっていたのに、こうも突きつけられると地獄へ落ちろと叫びたくなる。
地獄へ落ちるのは私か、オカズにする馬鹿共か、私を覆うこの肌と髪か。
きっと、全部だ。
片手で私が吐いた唾を拭った三輪が、私にキスをする。
お菓子の甘味料に近い甘い匂いがしたけど、吐き気を催す要因にしかならない。
直前に食べていたクッキーの味が私の唾液の中に混じり、腕で三輪を押してなんとか避けようとする。
三輪の手が私の身体を這い、胸と尻を揉んだ。
ぞわぞわと這う気持ち悪さと、柔らかさの下にある性に刺激が伝わり、頭の裏が凍りつく。
唇が離れれば、三輪の手が私の口を塞いだ。
眼前にいる三輪の息が荒く、なんだこれはと閉口する。
息をする音が怖くて、目の前にいる三輪は三輪じゃなく別の雄じゃないかと疑う。
いつもの暗く怖い三輪とは掛け離れた姿に驚けば、三輪が身体を押し付け下半身を弄り始めた。
私のスカートの下、下着の真下で何かが行われている。
ただ、私の下着が脱がされる気配はなく、何をしているんだと目で訴えれば、三輪がうっすらと笑った。
目が細まり、薄めの唇がにやっと笑って動いて、前髪が目にかかり影をつくる。
そう、三輪が笑ったのだ。
一度も良い顔をしない三輪が薄ら笑いを浮かべ、私の股の下で手を小刻みに動かし何かをしている。
なんとなく何をされているかわかって、塞がれた口のまま叫んだ。
やめろ、と思ってもやめるわけがない。
はあはあと息を切らす三輪が、薄ら笑いを浮かべて言う。
「好きなだけ叫べ、誰にも聞こえやしない。」
三輪の頭に頭突きでも出来ないかと動いてみたが、口を塞ぐ力が強すぎて動けない。
壁に押し付けられたのがマズかったと反省しても、事は起こっている。
「鈴鳴のなまえが、ここに何度も来ているのがいけない。」
腕で背中を叩いても、膝で腰を蹴っても、三輪は下で何かを続けている。
「なまえの今日のことは秘密にしてやる、だから。」
だからなんだと暴れれば、三輪が息を吸うように口をぽっかりと空けて呻く。
蹴り続けていた腰がかくかくと動き、太ももの内側に何かが触れた。
なんなのかは、わかる。
気持ち悪くて嫌だ嫌だと顔を振って腰を蹴れば、三輪が口から手を離した。
「何っ、するのよ!!気持ち悪いっ、の、だわっ!!!」
声がつかえて、喉がおかしくなる。
手っ取り早く異国語で罵ってみれば、三輪が私の肩を撫でた。
平手打ちをしても、三輪はびくともしない。
赤く腫れかけた頬をした三輪が、暗い顔のまま囁く。
「もうここに来るな、俺以外になまえがこういうことをされると思うと、怒りでそいつを殺してなまえを犯しそうだ。」
「誰とこんなことしたいと思うのよ!!!」
絶叫すれば、三輪が目を見開いた。
鋭い目に戸惑いが浮かんだのを見て、ふつふつと沸くはずの怒りが爆発する。
三輪に平手打ちをすれば、顔を伏せられた。
太ももの内側にべっとりとついた精液が擦れて、ぬるりと肌を撫でる。
何かで拭くためにティッシュを探す、ああでもその前に、ここを出なきゃ。
月見さんとお茶をするのは楽しいけど、もうここには来たくない。
ドアに向かって走れば、すぐに三輪に追いつかれた。
私の腰を抱いて、三輪がしゃがむ。
脚が動かず、ドアの手前で転びそうになり上半身だけが飛びそうになる。
太ももの内側に、何か熱いものが蠢き出した。
体勢からして、それが三輪の舌であることはすぐに分かる。
精液を舐めとられ、三輪がそれを飲んでいるのが肌越しに伝わった。
虫唾が走るも、少しくずぐったい。
そのくすぐったさが、私の身体の拒絶感に悲鳴を上げさせる。
「もうやめてよ!!嫌!!!」
「なまえ、怖いだろう。」
精液を舐め取った舌のまま、三輪が喋る。
「陽介のことなんて、嘘だ、オレが、なまえをオカズにして・・・。」
恐る恐る、自分の下半身の背後を見た。
三輪が私のお尻あたりに顔を寄せ、口元を精液で汚したまま息を切らし、悲しそうな顔をしている。
異国語で、罵った。
三輪は意味を分かっていないだろう。
でも、罵られていることくらいは分かるはずだ。
身体を覆う金色の髪、肌、目。
こびりついて離れないそれは、私を覆い、いつか埋め尽くすだろう。
三輪の脳から離れない姉の死の記憶、私の身体から離れない血という道標の具現。
いつかきっと、分かり合えると思っていた。
だから歩み寄らなかった私は、自分勝手で、高慢で、身体を包むものを言い訳にして。
精液を舐め取る三輪を見て、涙が溢れた。






2017.09.22








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