スターチス






アニオリナナバ例のアレ
・最後に言ってる言葉が「おとこ」に聞こえる(お父さんのおとう、で切れてるにしてはKの発音が強い)
・許して!とは叫んでいない=ナナバさんが悪いわけじゃない
・もうしません=なんかして怒られてた
・ナナバさんがかっこいいのは生まれ持った性質そのもの、それを否定してかかったのが存在がいたかもしれない
・やめてー!って叫びたくなるようなことされた

この解釈ぜんぶ混ぜた
いつも通り百合夢です










暗闇に慣れきった目で僅かに見えるナナバの目元にかかりそうな前髪に手を伸ばす。
指は確かにナナバの細い髪の毛先に触れて、眼球の真ん中にある青い瞳が私の指を追って動いた。
「すこし伸びた?」
髪から手を離し、顔から鎖骨にかけて撫でた。
白くて薄い肌の上を私の指だけがなぞっていく暗闇の息の沈みに、瞼の重さがまた一歩と近づいていく。
「そうかも、毛先だけ切ろうかな。」
「さっき、髪の毛についてた汗が太ももにぽたぽたーって、冷たかった」
毛布を被って、身体を寄せ合う。
私とナナバの匂いしかしないシーツの中で、見つめ合わなくてもわかる温度を求める。
舐め尽した鎖骨のすぐ上にキスをすれば、頭を撫でられた。
細いけど安心感のある腕が、私を包む。
「それじゃ、余計切らないといけないね。」
頭の上でそう囁かれて、何度も撫でられる。
この瞬間が最高に気分が良く、喉が鳴りそうになってしまうのをナナバは知っていた。
つむじにキスされて、私の肩に愛しい人の体温が当たる。
「おやすみ、なまえ。」
「おやすみ」
そう言って目を瞑っても、思ったよりすぐ寝れない。
汗くさいし、指先と舌先と唇からは愛液の匂いがする。
朝一番で水でも被ればどうにかなる香りをナナバは気にするから、こういうことは非番の日にしかしない。
激しい喘ぎに音と味とは無縁な私達の愛情表現は、知る由もない人たちが見てしまえば何か特別な生き物の特別な儀式にしか見えないだろう。
滑りの奥底から湧き上がる熱を治めることもなく、静かに互いを限界まで昂ぶり合わせる姿を、私は美しいと思っている。
どこも特別ではないけれど、愛し合っていることは特別。
行為の色々を思い出していれば、真上から呻きが聞こえた。
ねえなまえと呼ぶわけでもないと悟り、息を止める。
ナナバがまだ起きているのかと思って瞼だけ動かせば、掠れた声がした。
「ごめ・・・な・・・い・・・。」
そのあとに続く言葉はなく、瞼を開けたまま呼吸を伺う。
一定数の呼吸数は続き、寝息のようなものも聞こえる。
先に寝入られてしまったとはいえ、寝言にしては後味の悪いものだった。
あとすこしで喘ぎが爆発しそうなくらいにまで責められた私への謝罪を寝言で済ますとは、ナナバらしい。
そう自己完結して眠りに落ちる前、少しだけ思うことがあった。
何の夢を見ているのだろう。


目を覚ましたときには、抱きしめていたはずの体温は無かった。
私ひとりだけが寝ているシーツの上で寝返りを打って、朝の日差しを瞳に迎え入れる。
それから耳がはっきりして、ちき、ちき、と鈍い音がするのを聴き取った。
鈍さの間に鋭さのある、不穏な音。
寝起きの身体にくっついた首を動かして音のほうを見れば、ナナバが鋏を片手に髪を整えていた。
側にある小さい桶には、水が必要な分だけ入っている。
小さな鏡を片手に、丁寧に切っていく。
下着姿のナナバの側にある剃刀を見て、ゆっくり起き上がる。
私の気配を感じ取ったナナバが小さな鏡だけをこちらに向けて動かし、鏡に寝起きの私が映った。
寝癖がついて全裸のままの私がアホっぽい顔をしていて、笑ってしまう。
ふふ、と息を漏らした私を横目で見たナナバの髪は、またしてもすっきりしていた。
目にかかることもなさそうな長さになったことで満足したのか、鋏を置き剃刀を手にする。
手を桶の水に突っ込んでから、手で髪を濡らし始めたナナバの首筋の綺麗なこと。
「ええー、もう刈っちゃうの?」
その首筋を見つめたまま、私は目が離せない。
剃刀を片手に慣れた手つきで髪を剃り出したナナバを見てから、欠伸をして手櫛をした。
「ああ、やっぱり長い髪は嫌だ。」
明らかに短い髪に向かってそう言うナナバは、今の髪型が相当気に入っているんだろう。
でも、と思いを口にする。
「ナナバの髪、荒れてないから伸ばしたらきっと綺麗だよ」
長い髪をまとめたナナバを妄想する。
細い項に映えて綺麗だろうなと思えば、剃刀片手のナナバが不穏な目をして私を見た。
見られた途端、なんとなく背筋の中が固まる。
目だけは私を捉えて動かないまま、取って付けたようにナナバの唇だけが動く。
「ごめん、なまえ、私はこれの髪型がいいって前に話したよね。」
「あ、うん、ごめんね」
「謝られても困る。」
冷たく言い切られ、ナナバがまた剃刀作業を再開する。
半分ほど剃られた髪が更に剃られ直していくのを唖然として見る前に、やることがあるだろうと立ち上がって枕元に置いておいた下着を手に取った。
なんとなく心臓が冷たくなったまま服を着ていくうちに、ナナバの髪はナナバの手によって刈られていく。
部屋にいて、言い合いになるのも面倒なのでさっさと部屋を出て配給を貰いにいった。
扉を開けても、声はない。
人のいない廊下を歩き、見事に誰もいない空間を歩く。
短い髪がいかに良いかは、以前聞いていた。
お節介が多いのは私の悪いとこなのか、ナナバの触れてはいけないプライドだったのか、答えはナナバ本人しか知らない。
初めてナナバを見たときは、歩く姿のかっこよさに一目惚れしたのを思い出して、誰もいない配給所に着いた。
二人分のパンとスープを持っていけば、きっとすぐに話せる。
使い古されたトレイは、いつも古い匂いがして苦手。
これの上に乗せなきゃパンもスープもないから、仕方ない。
楽な配給を手にすれば、後から来た男性兵士に手元を覗き込まれ個数を確認された。
異様な数を取っていないのかの確認だろうけど、男性兵士がにょきっと後ろから現れるのは良い気分ではない。
挨拶もせず去っても、部屋を後にした時と同じように声はかからなかった。
誰も、私なんか気にしない。
私を気にするのは私だけ、なんて言っていられないくらいナナバのことが好き。
気を取り直して部屋に戻れば、配給を持った私を見たナナバが私に飛びつこうとする。
「なまえ。」
寸でのところで止まってくれたナナバに微笑みかけ、さっぱりした髪を確認した。
昨日の夜より短い髪をしたナナバの横を通り過ぎてから、小さな机にパンとスープの乗ったトレイを置く。
「朝食、持ってきた、食べよ?」
「うん。」
悲しそうな顔で頷いたナナバより先に椅子に座ろうとすれば、机の上には半端に水の残った桶。
机の端にトレイを置いてから桶を片付けようとして、桶に触れる。
軽いものだと思って持ったが最後、滑らせて残り僅かな水と共に桶を落とした。
びしゃ、と床に撒き散らかされる僅かな水と、嫌な音を何度も立てて転がる桶。

いつもなら「なにやってるんだなまえ!もう、駄目じゃないか。」とか言うはずのナナバより先に、私が呻く。
「うわーやっちゃった・・・水、ごめんね」
桶を拾い、いつも置いてある場所に置き直してから床の濡れ具合を見つめる。
飲み水一口分くらいしか残っていなかったであろう水に申し訳なく思いながら、朝からついてないと心の中で挫けた。
水は、落としても零しても放っておけば乾く。
拭く程度でもないと判断してからナナバを見つめれば、何故かナナバが立ち尽くしていた。
凍ったように床を見つめるナナバを見て、怒り出すかと思えばそんなこともない。
「ナナバ?」
私の声でようやく目を動かしたナナバを見てから、椅子に座ってスープを一口飲む。
運んでいる間に冷めたスープが喉を通り、胃に落ちる。
ナナバも同じように座りパンを齧ったと思えば、すぐに喋り出した。
「ごめん、本当にごめん。」
「なんで謝るの」
スープの中にパンを千切って入れてから飲めば、後で少しは腹がマシになる気がする。
食べ進める私を他所に、ナナバが珍しく食べないまま話し始めた。
「何か食べながら、する話じゃないかもしれないけどさ・・・なまえは、どうして女らしくしてるの?」
目の前の配給とも零した水とも関係ない話題を、突如振られる。
口の中にあるパンを何度も噛みながら考え、女らしいとは何か考えた。
ぱっと頭に浮かんだのはリコの姿。
髪は短めだけど、仕草や雰囲気は女の子らしい。
私とリコ、どちらが女らしいかと言えば間違いなくリコのはず。
女らしいとは、と逆に思ってしまい、パンを飲み込んでから質問を質問で返す。
「えっ、うーん・・・私、女らしく見えるの?」
「見える。」
「どこが?」
「仕草、喋り方、服装、髪型、全部。」
食べる手を止めて、ナナバを見つめる。
髪型以外に、昨日と変化はない。
目つきもおかしくないし顔色も悪くないのに、何故そんなことを思えばナナバがパンを齧った。
喋りながら食え、ということらしい。
スープを一口飲んでから、自分の中の価値観を説明した。
「持って産まれたものを否定する気はないし、かといって活用する気もない」
ナナバから、食べかけのスープへと視線を落とす。
なんとなくナナバの顔を見れず自分の中に探りをかけて、食べ物を取り入れる代わりのように言葉を吐き出した。
「女らしいとか考えたこともない、女だからこうだとかああだとか、そんなのないし・・・性別がどっちかだったら絶対に得をしたとか損をしたとか、そういうことってあるの?
女だったら朝食多くくれるとか楽して昇給できるとか、そんなのもないじゃない、それに私とナナバが一緒にいるのも性別が関係あるわけじゃない」
スープを一口、飲む。
丁度いい暖かさが喉を通過してから、ナナバを見る。
今度はナナバが呆然とした目でスープを見つめていて、視線が絡み合わない。
昨日の夜とは大違いの朝、こういうこともあるのは分かっている。
それでも、伏目がちにするナナバの顔は親しさからは遠く離れていった。
愛しい薄い唇が、ぽつりぽつりと動き出す。

「私、小さいときは髪に鋏を入れてなくて、伸ばしていた長い髪を自分でどうにかしたことなんてなかった。
だからその髪をお父さんが毎朝綺麗に結って邪魔にならないようにしてくれてたんだけど、切ってほしいって言っても長さを保つくらいにしか切ってもらえなくて、大きくなるにつれて嫌になっていった。
長い髪を結ってることを馬鹿にされたこともないし、他の子と自分は比べたことがない。
でも、私は自分自身が女を押し付けられてるみたいで嫌だった。
髪の中に自分の匂いも他の匂いも溜まるだろう、あれが嫌なんだよ、世の中のこと全部受け入れなきゃいけないみたいで・・・自由になりたいんだ、髪くらい自由にしたかった。
考えても考えても、なんでこんな思いをしてまで嫌なことも受け入れなきゃいけないのは、自分が女だからだ、って。」
語り続けるナナバから、目を離せない。
止めることも出来ず、ただ黙って聞く。
顔色ひとつ変えず語るナナバが、パンを一口齧ってノロノロとわざとらしく食べる。
それから目だけをこちらに向けて、ナナバが私を伺った。
青い瞳に見つめられて胸が高鳴ると思ったのに、話が気になってそれどころじゃない。
薄い唇が、また動く。
「ある時、一人で髪を切った。ディアンドルも脱いで、お父さんのズボンを履いてベルトを締めた。ブーツも履いた。」
いけないことでもしている顔をしたナナバの唇が囁く。
「最高の気分だった。」
罪でも告白するかのような口ぶりに驚けば、ナナバが悲しそうな顔をした。
その顔を見て、今すぐに抱きしめたいと思ってしまう程には、ナナバのことが好き。
なのに、何もしてあげられない。
「そのあと、お父さんに怒られて、これでもかってくらいボコボコにされて・・・。」
一息ついてから、唇を一文字に結んで顔を赤くした。
泣き出すのではないかと私が焦ってしまうくらい歪んだ顔をしたあと、ナナバが感情を押し殺した先で噛み砕いた。
なんでもないと言いたいような瞳をしたまま、パンを食いちぎる。
大口を開けて食べられたパンは言葉ごと飲み込むように食べられて、飲み込まれていく。
なにもせず、ただ黙ってナナバを待った。
喉がごくりと鳴ったのが聞こえたあと、ナナバがスープを一口飲む。
「男の真似はもうしませんって言わされた、怖かった。」
食べる気も失せ、労いも慰めも届かないような感情へ問いかけた。
「どうして今まで言わなかったの」
今のナナバしか知らない私が、知ったように呟いた言葉。
どう響くかなんて、わからない。
噛み砕いた感情を吐き出すように、ナナバの顔が崩れるように歪んでいくのを見て、ぞっとする。
ナナバの瞳にうっすら涙が浮かんでるのがわかって、閉口した。
「おかしいだろ、だって、こんなのって自分の鎧の作り方を詳しく説明してるようなものじゃないか、兵士は誰もそんなことしないだろう。」
鎧、と言ったナナバが今にも泣きそうな顔をする。
そういうことは、皆言わないだけ、口にしないだけ。
なんでもないふりをして生きているだけなのに、時たま自分にだけ襲い掛かるあの焦燥に人は耐えられない。
だから孤独を避けようと人は誰かと共に生きようとする。
「おかしくない、私にはそのことを言えたのよ、もう大丈夫だから」
ナナバと、生きてるうちは一緒にいたい。
おぞましいものでも見るような目を私に向けたあと、ナナバの瞳に恐怖が浮かんだ。
「言えたよ、今、やっと言えただけ。」
恐怖はすぐに軽蔑に変わり、私が寂しい気持ちになる。
今のナナバに、私は見えてなかった。
誰にでもある側面は引き込まれ呑まれるが故に、本当は見てはいけないのだ。
ナナバが額に拳を当てて、溜息をつく。
見たことのない姿を目の当たりにしても出来ることはなく、遠くで誰かが笑う声が聞こえた。
皆起きだして、非番以外は出ている。
もしナナバが泣き喚こうが、誰かが聞きつけてくる確立は低いだろう。
それならと思った矢先、ナナバの拳で隠れた顔の端から涙が落ちるのを見て、ハッとする。
「ナナバ」
「なまえ、同情だけはやめろ。」
なまえ、なまえ、と何度か私を呼んだあと、鉛にでもなったかのように落ち込み始めた。
「憎い、憎かった、自分らしくいたいだけなのに怖かった、自分らしくいれるなら何処でもよかった、強くなりたかった。」
それで調査兵団に?と言いたい。
同情だけはやめろと言われた言葉の上辺だけでも汲み取り、黙る。
食べることも忘れた朝に待ち受けるものは、なんだろう。
生きるか死ぬか、それは調査兵団にいてもいなくても同じなことを思い起こさせるナナバの姿と今の話に、自分にしか出来ることはないかと浅ましくも探す。
例えどんなことになろうとも、私はナナバを愛すると決めた。
私だけがナナバの味方だと驕る気はない。
「ナナバはナナバだよ、私はナナバが好き」
想う気持ちを、偽りたくはなかった。
「どこにいたって、少なくとも私はナナバを好きになった、ずっと一緒にいたいって思った」
届くかどうか不透明な言葉に、ナナバが消え入りそうな命でも見つめてるんじゃないかというくらい低い声で返してきた。
「割れたものって元に戻るのかな、戻るとすればそれは奇跡なんじゃないかな。」
額に当てている拳を両手で握り、落ちるナナバを引き戻す。
「元に戻せないなら新しいものを作り上げればいい、作り上げることだって凝らして見れば奇跡なのよ」
緩んだ拳は私の両手に落ちて、霞みかけの目をこちらに向けた。
泣き叫ぶことこそしないナナバの両手を握って、見つめる。
綺麗な青い瞳と白い皮膚の下にあるものを、私は今まで触れられなかった。
恐怖と何度夜を共にしたか分からない生き様も、抱きしめる覚悟はある。
この場に私がいたのは、意味があると思いたい。
ある者は誤魔化し、ある者は生きる糧にし、ある者は表に出したまま生きる。
隠し続けたナナバの静かな叫びを聞いてしまうと同時に湧き上がるのは、軽蔑でも嘲笑でもなく、ただの愛情。
私の両手に、涙が一粒落ちる。
「なまえ、大好きだよ。」
何度も聞いたはずのナナバの愛の言葉に、胸が締め付けられて仕方がなかった。





2017.04.23








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