月光







アニメ二期の発表でスマブラ新作発表に喜ぶ外国人みたくなってた
最新号の内容含みます







私はいつも真実を見たがる。
宗教的なことや心理的な意味合いはない。
真実がどんなものか手に入れてから生きるのが、この上なく安らぐのだ。
どうしてそう感じるのか、考えたことはない。
いつ死ぬか分からない心臓と身体の中身の一番上に詰まった脳みその中から出るものに逆らうといけないと、わかっている。
理解するということが考えた結果ならば、私は今頃相当の哲学者のはず。
哲学者でもない、心理学者でもない。
私は愛と共に生きる女だと、浅はかさの溝を埋めるために真実を追うだけ。
だから、帰ってきたライナーの隣にいつもいるベルトルトがいないのを見て、なんとなく察した。
昼間は立て込んでるから夜に会おう、ライナーはそう言った。
背後にいるジークさんはいつも通り険しい顔をしていて、怖いと思う。
ライナーの使命も、戦いも、宿命も、私が理解することは許されるのだろうか。
月明かりで照らされた石の階段を登るたびに、足の間を冷たい空気が撫でる。
夜の冷たい空気と静けさを体感させてくれる闇は、嫌いではない。
階段を上がり続けて汗をかくことのない夜の冷えた空気で深呼吸すると、リップバームの香りが鼻を通った。
ライナーがプレゼントしてくれた苺のリップバームは、もうすぐ底をつく。
「このリップバームがなくなるころには、俺はなまえとの人生を選ぶ。」と言った日は、昨日のことのように覚えている。
大きな手にあるラッピングされた袋、すこしだけ照れたライナー、寄り添って袋を開けて喜ぶ私。
ライナーが好き、時間なんてどうでもいいの、ライナーの側にいさせて。
数年前のことも、昨日のようだと思わせてくれる愛とは恋とは素晴らしいものだ。
平和に生きるのなら、愛と恋を信じよ。
それがくだらないことだと分かっているものの、今のライナーに必要なのは平和バカでお花畑な頭をした女だ。
階段を登り終われば、満月。
女が満月を見るのはよくないと言い伝えられているので、城の屋上で満月を仰ぐライナーへとすぐ視線を移した。
私の視線に気づいたのか、ライナーが振り返る。
大好きなライナー、おかえり。
そんな気持ちがいっぱいのまま、そっとライナーに寄り添う。
大きな身体、逞しい腕、男らしい顔。
金色の睫毛とヘーゼルの瞳が月明かりで照らされ鈍い金色に見えて、ライナーを軽く抱きしめる。
「会いたかった。」
「私も」
ライナーの、会いたかったという声に、蕩けそうなくらい嬉しい。
腕に抱きついて、手の平を撫でながら話しかけた。
「昼間忙しいときにごめんね、ジークさん怖い顔してた」
「戦士長が怖いのはいつものことだ。」
「運がいいね、ってジークさんに言われてたけど」
ライナーの横顔を見つめて、視線の先を探る。
「どんな意味?」
満月を見つめるライナーの首をこっちにまわしたいけど、薄い唇が動くのを見つめるのも悪くない。
「運だけの半端な屑野朗って意味じゃないのか。」
太い首と大きな力こぶがある腕を見て、そんなこと言わないでと言いたくなる。
本心を優先しては、真実は見えてこない。
自虐をきいて、暫しの間心の深みに一緒に浸かることにした。
「ベルトルトのこと、聞いた」
ライナーの目元がぴくりと動く。
「残念だったね」
「あいつは・・・今でもどこかで生きてるよ、魂ってもんがあんなら、中に・・・」
中に、と続けることはなく、暫く無言だった。
ライナーとベルトルトの手土産の女性は、ユミルだった。
そのことで一時話題をさらったものの、私にはライナーのことしか眼中にない。
女性がどうなったかは、興味がなくライナーのことだけを考えた。
ユミルの女性はライナーに手紙を託したらしく、次の任務も騒がしいものになるんだろうと思ったが、予想通りだったらしい。
満月を見つめる横顔から、いつ涙が垂れてもおかしくはなく、私は見守る。
涙を流さないライナーは、自決する直前のような雰囲気で語り出す。
「あいつは、立派だった。追い詰められそうになった時も、あいつは戦った。俺が今こうしていられるのもベルトルトの機転のおかげだ。戦士にとっちゃあいつは誇りであり鑑、今後も語り継がれていく一流の戦士だ。」
懺悔のような口ぶりを聞いて、ライナーの肩を抱きしめる。
「壁の中・・・どうだった?」
私の手を、ライナーが握る。
大きな手で触れられるたびに、安心感に包まれた。
目を閉じて、ライナーを感じたい。
満月から目を逸らすべく目を閉じれば、ライナーの声がした。

「薄汚い奴らがうようよしていた、あそこはまるでヒトの形をしたゴミが足生やして喋るだけの空間としか言いようがない。」
「そうね、行ったことないけど、そう思うわ」
「ろくなもんじゃねえ、亡霊みてえな奴が原始人みてえな生活して暮らしてる家の臭いは最悪だった。」
「ああ、それは最悪ね」
「おまけにサウナもプールもねえときた、糞だったよ。」
「たしかに」
「なまえ、いい匂いする。」
「ライナーがくれたリップバームよ」
「あれか、ありがとう。」
小奇麗な城の床は、綺麗だ。
ライナーはここのほうが落ち着くんだろうか。
私ですらそうなんだから、ライナーもそうなんだろうか。
ふと、ライナーが私のほうを向いて喋りかけたのを感じた。
「なまえの考えてること・・・当ててやろうか?」
頭の上から、声がする。
目をあけてライナーを見ると、大好きなライナーが至近距離にいた。
「やってみて」
口元を歪めて笑ったライナーが、私に向かって告げる。
「あんな女の言う事を聞いたくらいだから弱みを握られたんじゃないか、作戦がボロボロになりかけたことの負い目をあの女に付け込まれたんじゃないか・・・・・・生きてることに、負い目を感じているんじゃないか。どうだ?」
自虐。
ライナーはたまにこういうことをする。
これをするときは、精神を保っている時だ。
辛いときにするライナーの癖みたいなもので、知ってる人間は私しかいない。
正確には、私だけになった。
ライナーに微笑みかけ、誘うような目つきをしてみる。
「大体あってるけど、ちょっと違う」
本当か?と笑うライナーの顔を見て、どきどきした。
「どこが違うんだ。」
言ってみろと迫るライナーの顔を掴んだままキスしてしまいたい。
今は、それをしない。
「根本的なところ」
真実だけが、欲しい。
「あの女性のことはいいの、でもね、ライナーが私にも言えないような何かを持って帰ってきたなあとは思ってる」
私の一言に、ライナーが固まる。
図星のようだが、話題を逸らすために唐突な世間話を始める気配もない。
つまり、重く苦しく避けたい図星を得てしまったのだ。
「言えない?」呟けば、「ああ。」と返ってきた。
沈黙の間、私はライナーを見つめ、ライナーは私と握った自分の手を見つめ、月明かりは私達を照らす。
月が何者かならば、この状況に神秘を包み込んでくれただろうか。
神は、いない。
誰よりもライナーがそれを知っているから、何も言わなかった。
俺は、と続けたライナーを、神がいるなら救ってほしい。
そんな真実は追い求めたところで在り得ないから、私がライナーの側にいる。
ぽつり、ぽつりと語り出すライナーの顔は歪んではいない。
「あんとき泣いたんだが・・・マルコが食われたとき、ベルトルトは涙ひとつ見せなかった。」
違和感が、私の頭から爪先まで走り全身が冷える。
またかと思う間もなく、ライナーは後悔を言葉に認め始めた。
「正直、あいつは一流の兵士だよ。仲間の死を悲しまずに戦える奴は何れ国の頂点にも成りえる。泣きもしない取り乱しもしないベルトルトを見て、俺は憧れた。俺のほうが先輩なんだけどな・・・精神的な意味で俺が崩れちゃどうしようもないのに。
悪魔共にばれたときも、あいつは冷静で厄介なヤツに責め立てられても顔色ひとつ変えなかった。エレンは調子に乗るところがあるからな、ベルトルトも分かってたんだろう、よくコニーに絡まれてたし。
あいつには世話になった、ベルトルトのことを俺は忘れない。そのあとのクリスタなんだが・・・」
「ライナー」
はっとしたようで、ライナーが私を見つめる。
にこ、と笑えば、ライナーはバツが悪そうに俯いた。
「・・・ああ、悪い、ごめん。なまえ、悪い、本当に・・・。」
「いいの」
俯いたライナーを抱きしめ、耳元で囁く。
「大変だったでしょう、ライナー、ここを出るまでは忘れていいの、私がいるから大丈夫」
そう囁けば、大きな腕が抱き返してきた。
力が少し篭っていて、逃げられないと感じ反射的に身体が興奮する。
これもあと何回できるのか。
もし年月が経って、おばあさんになった私の隣には、誰かいるのだろうか。
想像できないから今のうちにライナーと子供を作っておいたほうがいいし、若いときに旦那を亡くしましたと言えばいい。
悲しい想像が簡単に出来てしまうくらい、ライナーが好き。
この愛も恋も、私の中で燃えてしまえばいい。
腹の中に愛の炎を宿せば、ライナーの忘れ形見のような子供が産まれるだろうか。
産まれた子を愛せば、ライナーへの思いもいつか故人への思いとして変貌してほしい。
希望的観測は、とまらない。
愛があるかぎり、私は止まることを知らないのだ。
縋るようなライナーを抱きしめたまま撫でれば、掠れた声がした。
「忘れられない。頭の中を、あいつらが這いずり回って、殺せない。」
悲しそうな言葉を、平気で口に出す。
それくらいなんてことないライナーを、私は愛さざるを得ない。
「ライナー、おでこ出して」
その言葉に腕の力を緩めてくれたライナーの顔の前に戻って、戦いじゃ役に立たなさそうな私の手でライナーの額を撫でる。
撫でたところにキスをして、頬を両手で撫でれば、ライナーが甘えた目をしてくれた。
額と唇の間に苺の香りが篭り、熱を保つ。
「いいこ、いいこ」
真実は、どこにでもある。
「なまえ・・・結婚しよ・・・残りの時間だけでも、幸せにするから。」
その真実がどれだけ不幸せで不幸で悲しいものでも、私は泣かない、叫ばない。
「もう幸せよ」
人が見つめたがらない汚い真実は、私の愛。
ライナーを抱きしめ、何度も撫でてあげた。







2017.01.14







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