捕らわれなき製図







カゲのサイドエフェクトと好きなもの一覧から妄想

どう考えてもアウトドアにはなれないだろうし
引きこもることもあるんじゃないかと思うし
好きなもの一覧にもあるし
もしかしてこういうことしてんじゃないか?っていう捏造







こたつに入っていいと許可してくれた光ちゃん本人が寝始めて、15分は経った。
起きる気配のない光ちゃんは動かず、寝息しか聞こえない。
机にあるカゲくんの数学ノートが終わりかけても、光ちゃんのテスト勉強は手付かずのまま、私とカゲくんしかいない時間が過ぎていく。
「なまえ、今期のクソ数学よお、因数分解って範囲だったっけ。」
「範囲じゃない気がする」
数学のチェックを終えて日本史の教科書を開けば、違和感に気づく。
範囲のはずなのに、カゲくんの手元に日本史のノートがない。
目で日本史のノートは?と訴えれば今日の晩御飯でも教えるように答えてくれた。
「とってない。」
「えええ」
「なまえみたく、先公が黒板に書くきったねえ字を丁寧に写してねえんだよ。」
「テスト勉強どうしてるの」
「ゾエと一夜漬け、なまえのノート、穂刈の脳筋勉強。」
「前期よく落とさなかったね?」
「前期の日本史がわりと分かってたからカバーしておいた。」
へえ、と驚けば光ちゃんが寝返りを打った。
光ちゃんの健康的な寝顔を目の当たりにして安心したあと、カゲくんに向き合う。
「日本史得意なんだ」
マスクで半分隠れた口の中にあるギザギザの歯が見え隠れして、不敵な笑みを作る。
「兄貴の部屋にある歴史系漫画ずっと読んでた小学生時代が生きるぜ。」
ぶははと笑うカゲくんが、とてもカゲくんらしい。
範囲だけ勉強して上手いことやり過ごす私は、カゲくんの自由さが羨ましかった。
といっても、サイドエフェクトのせいで色々と面倒なことは分かっている。
あなたが羨ましい、とは口に出来ない。
それでも、感情に対して明け透けなカゲくんのことは好きだった。
「つーか俺ろくにノートとってねえよ?防衛任務やってりゃあの学校だと留年しねえし。」
「よく三年まであがれたね」
「ボーダーで頑張ってますとか上っ面張ってなきゃヒカリも落ちてるだろ。」
詰まれた教科書を横目に、カゲくんが携帯を弄り出した。
こういうことが今まで何度もあったし、今頃当真くんの成績も誰かに救済されている。
範囲だけやっていれば進級も卒業もできる、でも万が一のことが、と考えれば人間は不安になるのだ。

恐るべきカゲくんの教科書の山に、手を伸ばしてみる。
世界史の教科書の間に挟まっていたノートを手に取り開くと、内容がバラバラだった。
中世ヨーロッパとポルトガルの次の行から何故かウラジオストクの成り立ちが書き記されていて、大変不安になる。
国語の教科書の下にあったボロボロのノートを手に取り、見てみた。
ノートの表紙には「英語」と書いてある。
一体どんな英語が、と開けばノート一面に字ではなく絵が広がっていた。
ページをめくり、それが絵ではなく漫画だと気づく。
更にめくれば漫画の横からクロッキーのようなものがいくつも描かれたページに当たり、次は全身が描かれた絵。
クロッキーの上から更に描いた絵がいくつもあったりして、それからまた漫画が始まる。
どこにも英語は見当たらない。
ページをめくってもめくっても、漫画か絵しかなく混乱した。
しかも、描かれている絵はとても上手い。
ザカザカした線の絵もあれば、一本線で描かれた絵もある。
スーツ姿の男の人が酒を飲む絵や、唇が大きいセクシー美女の絵も、海パン男性の絵も、全て同じ人が描いた絵なのは分かった。
もう一度英語のノートであることを確認し、カゲくんにそっと見せる。
「あれ、カゲくんこれ・・・」
私の申し訳なさそうな声で、ようやくこちらを見た。
「あ?」
私の手にあるものを見て、瞬時に理解したカゲくんの顔が真っ赤になる。
「だああああ!!!!なまえっおいっ寄越せ!」
ノートを持ったまま逃げる気もなく、私の手からノートがブン取られた。
カゲくんがノートを鞄に突っ込むのを見て、思い切って聞いてみる。
「授業中ずっと漫画描いてたの?絵はすっごく上手いけど、授業ノートに描いたらいけないよ」
諭してみると、驚くべき返答に悩まされた。
「落書きノート。」
「え」
「あれ、落書きノート。」
唖然とする私を睨みつけるカゲくんは、真っ赤。
落書きノートの表紙になんで英語なんて書いておいたのかと聞く前に答えが返ってくる。
「そーやって書いておけば机の上に出してもバレねえだろ。」
ばつが悪そうにするカゲくんを見て、大体の察しがつく。
授業ノートと同じ種類のノートを落書きノートにして、自分用にわかりやすく英語と書いておく。
そうすればノートの外観だけで落書きノートだとバレることはなく、提出の際に間違って出さなければ永久にバレない。
そう、間違えなければ。
「つまりあれで授業中に描いていたと」
「わりぃか!!!!」
気まずそうに絶叫するカゲくんに、私の感情が刺さる。
後ずさるカゲくんに迫れば、そっと逃げられた。
カゲくんの知られたくない秘密を知ってしまい、わくわくする。
「もっと見たい」
後ずさるカゲくんが私の感情に負けたのか、鞄に手を突っ込んで渋々ノートを渡す。
その手は、震えていた。
秘密を握った私は、善意しかない心のままノートを開く。
途中から開いたので話は何がなんだかわからないものの、映画のシーンのような漫画が描かれていた。
ホテルマンのような格好をした男性が子供をつれて逃げ出し、列車に飛び乗るシーン。
ふきだしの中にある文字はメモ書きで読めないものの、描かれている子供を見るにホテルマンが助け出したようだ。
読み進めるうちに自然と視線が誘導されていくのを感じて、思わず声をあげる。
「カゲくん、絵描くの得意なんだ!すごい!」
「別に大したこたぁねーよ、んなもん描いてりゃどうにかなんだ。」
カゲくんのうめき声が聞こえるけど、そんなのどうでもいい。
途中で赤ペンのような線があって、落書き中にペンケースが事故を起こしたのが伺える。
「それでもすごいよ!ここまで上手くなれるのって才能じゃない?」
「なわけあるか。」
ノートから視線をずらしてカゲくんを見れば、赤い顔のままそっぽを向いていた。
気まずいのか、私のほうは見ようとしてくれない。
ページを進めれば漫画は終わって、落書きがいくつもあった。
ゾエくんが野球バットを投げている絵、穂刈くんが掃除用具入れの中に入る絵、光ちゃんがバトミントンのラケットで黒板を叩き壊す絵。
村上くんが弁当箱を当真くんの口に突っ込んでる絵の隣には、ゾエくんが骨付き肉を食べる絵があった。
「これゾエくん?似てる!」
「うるせー。」
次のページを開くと、有名漫画のキャラと見せかけて顔だけ穂刈くんと村上くんという謎の絵を見つけた。
横のほうに買い物メモがあって、生活感が溢れている。
「やだ、これ穂刈くんと村上くん?」
「おう。」
買い物メモをめくると、光ちゃんと私が花壇に水を撒いている絵、その花壇の横に邪悪な顔をした犬飼くんらしき人物がいた。
犬飼くんらしき人物が花壇の近くでコーラとメントスを片手に邪悪な顔をしている絵をまじまじと見つめ、カゲくんに問いかける。
「これは光ちゃんと私で、これは・・・犬飼くん・・・?」
「他犬の空似だろ。」
「他犬って」
不穏なページをめくれば、線がくっきりした絵があった。
有名漫画のキャラと、ロングヘアの女性と短髪の男性の絵の上から更に極細サインペンでなぞったままにした絵。
不思議な線を見て、カゲくんに近寄りノートの中の絵を指差した。
「これサインペン?ウラ移りしてないのに綺麗」
「ドローイングペン。」
どんなペンが分からないけど、きっと漫画に使うペンなのだろう。
めくっても、上手い絵が目に飛び込んでくる。
どうしてこんなに上手いんだろうと思えば、カゲくんが目を逸らす。
ノートを後ろのほうまでめくり、何も描かれてないページを開き差し出した。
「カゲくんすごいね、もっと描いてよ」
「やだ。」
「だめなの?」
お願い!と視線で訴えれば、赤い顔をしたカゲくんと目が合った。
カゲくんは歯軋りしたあとにノートを受け取り、ペンケースに手を突っ込んで薄汚れたシャーペンを手に取る。
「ちっ、クソ女。」
そう言いながらも、さらさらと描き始めた。
元の場所に戻り、見守る。
光ちゃんは相変わらず寝ているし、起きる気配もない。
カゲくんが凄い勢いで叫んだりしても寝てるなんて、相当疲れたんだろう。
そっと光ちゃんに寄り添い、完成を待つ。
描き始めた途端に真剣な顔をしているのを見て、描いてりゃどうにかなると言い放ったカゲくんの得意なものなのを知る。
「カゲくん、なんで描き始めたの?」
「クソ能力が面倒くせえ時期があって、暇だから落書きしてた。」
「ああ、そっか、でもすごいよ」
サイドエフェクトのせいで外に出たくない日は、こうしてすごしていた。
そう言いたげなカゲくんを見つめれば、構わずともペンの音が聞こえる。
紙とペンが触れあう音が聞こえる頻度が高くなってきた頃、斜線を延々描く音がした。
なにが出来上がるのかとわくわくすれば、カゲくんの顔が赤くなる。
がりがりがり、と音を立てて描き始めたかと思えば絵が描かれたページをノートから一枚破り、私へ差し出す。
「ほらよ!なまえ!満足か、ああ!?」
カゲくんの顔は真っ赤。
今にもキレそうな表情をしたカゲくんから、そっと紙を一枚受け取る。
ノートのページにシャーペンで描かれた絵は、漫画っぽくデフォルメされた私の絵。
絵の中の私は笑ってて、手元には日本史の教科書を持っていた。
特徴を掴んであって、似ている。
ものすごく嬉しくなり、絵を丁寧に抱きしめた。
「わー!すごいすごい!持って帰る!うれしい、カゲくんありがとう!」
「ふん、なまえはそんなきたねえ落書きでいいのかよ、粗末なヤツ。」
「そんなことないよ、カゲくんが私に描いてくれたんだもん、嬉しいよ、大事にするね」
思ったことをそのまま口に出せば、何故かカゲくんが叫び始めた。
シャーペンを握り締めたまま、床に倒れこんで体育座りの体勢をとる。
「クソがあああああ!!!黙れ!こっちみんな!!!!うるせええええ!!!」
転がり始めたカゲくんの側で、ちょっかいを出す。
「あっ髪の毛にトーンの切れ端」
「黙れーーーー!!!」
絶叫するカゲくんに描いてもらった絵を一旦教科書の間に挟み、転がるカゲくんに微笑みかける。
カゲくんは鞄の近くにあったジャケットを頭に被せたまま悶絶しはじめ、光ちゃんが起き上がるまで暫く呻いていた。






2016.10.03








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