プティット・フィエルテ








唯我スマボ実装おめでとう
スマボ司令官目線で小ネタ







何せ目の前にいる唯我くんは顔見知りなので「去年からここの司令官を務めているなまえだ」とは言わなかった。
ボーダーの一番大きなスポンサーの息子、司令官をしていると嫌でも知るので彼を知らないわけがない。
清潔感のある見た目に、自分は無敵だと過信していそうな上っ面。
その下は極度の弱虫か礼儀正しい子供のどっちかだろう。
たぶん、どっちも兼ねている。
先ほどから私を見る目に曇りはなく、事態を疑おうという気は見て取れない。
「活動内容や戦闘内容、他詳しい点に至るまでは正規の部隊と同じく、違う点はひとつ。入隊規定は全て私の独断と規定による基準のみ。太刀川隊に所属する唯我くんからすると、ここは特殊部隊にあたる。
ここは当真勇と迅悠一を筆頭にした遠征部隊と、先日捕虜となったアフトクラトルのミラが所属する特殊な戦隊。
私の今のところの目的はひとつ、どんな手を使っても市内の平和を守ることと言ったら城戸司令に静かに怒られたから、私の真似を覚えるだけで城戸司令には嫌われなくなる。
唯我くん、君は今日からここでも活動してもらう、慣れるまでは小南桐絵がリーダーのチームに配属する、よろしく頼むよ。
堅苦しい説明はこんなところかな、なにか質問ある?」
気を抜けば唯我くんが手に持った袋から片手を離し、手を上げて質問する。
「ところで、なまえ司令官。」
「司令官はいらないよ」
「じゃあ、なまえさん。」
唯我くんが部屋を見渡し、自分と私しかいないことを確認して寂しそうに一言。
「小南先輩は?」
「雨取ちゃんとケーキ買いに行った」
「他のチームメイトは?」
「佐鳥くんは辻くんと遊びにいって、緑川くんは迅くんのとこじゃないかなあ」
目が潤んで、悔しそうな顔をした唯我くんが呻く。
「ボクの出迎えは?」
「いるわけないじゃん」
小奇麗な袋を持った唯我くんが後ろのテーブルに歩み寄り、荷物を置く。
それから近くのソファに勢いよくダイブしてうつ伏せになり、不満そうに叫んだ。
「うああああ〜〜〜ボク一人で入隊なんて酷いいい〜〜〜〜青少年保護育成条例に抵触しているううう!!!」
「これからよろしくね」
いつもの調子で叫ぶ唯我くんを見守っていると、応接テーブルの近くにあるソファから人影。
アイマスクをしたままの当真くんが起き上がって、唯我くんの声がするほうに向かって笑っていた。
「そーそー、よろしくな。」
当真くんの声を聞いても泣き止まない唯我くん。
もし当真くんがいなかったのなら唯我くんの背中を蹴り飛ばそうかと思っていたのに。
「あれ当真くん、いつからいたの」
そっけなく言えばアイマスクをしたままへらへら笑う。
いつもこの調子だけど、当真くんがいないと私の戦隊が回らなくなる。
実力者の彼に問いかければ、二度寝せんばかりの雰囲気を纏ったまま喋り始めた。
「11時から仮眠してましたあー。」
「何時まで寝る気だったの」
「んー、12時半くらいまで?」
「今14時だけど」
「マジで超やべえじゃん。」
アイマスクを投げ捨て、凄まじい速さで立ち上がった当真くんが鞄の在り処へと走る。
執務座席を弄る姿を見て、あそこも鍵をつけないと昼寝スペースにされると悟った。
鞄に入っていた携帯を手にとってメールを確認したのか、溜息をつきながら顔を覆いその場で一回転する。
長い足がくるくる回った後、携帯を片手に唯我くんへと歩み寄る。
ソファにうつ伏せになっていても気配を感じ取ったのか、唯我くんがそっと歩いてくる当真くんを見た。
「へえ〜噂の唯我じゃん、ども。」
うだうだ言っていても、先輩の前で醜態を長くは晒せないのか渋々起き上がる。
プライドが許さないのか、当真くんを目の前にして握手する手も差し出さず腕を組んだまま挨拶。
「唯我尊です、初めまして。」
かっこつけた顔のまま挨拶する唯我くんを相手にしても、当真くんの緩さは壊れない。
堅物ぶっている唯我くんの肩を抱いた当真くんが、フランクに話しかける。
「出水から聞いてんぜー、実力はB級の奴らとドッコイどっこいなんだろ?お坊ちゃまはすげえなあ。」
図星を突かれ、一瞬だけ顔を顰めた唯我くん。
そう、彼は強くない。
「なっ、こう見えてもボクを慕う後輩はいましてね!君が目下だと馬鹿にするにはボクは少々惜しいかと。」
それは初耳だけど、たぶん三雲くんじゃないだろうか。
三雲くんなら誰とでも意思疎通ができそうだ。
あとで唯我くんの後輩は誰か聞いておこうと思い、二人を背にしてテーブルへと歩む。
「うわーっ聞いてたとおりクソだなー。」
「誰がクソですか失敬な!!」

唯我くんが置いた小奇麗な袋を間近で見れば、見覚えのあるロゴが記されていた。
「ねえ唯我くん、これピストルチョコ?」
袋を片手に、唯我くんに確認。
当真くんに肩を抱かれ絡まれる唯我くんが、そうですよと得意気に言う。
「ドゥボーヴ・エ・ガレのチョコなのは正解です、それはレ・プティット・マドレーヌ。日本支店で買ったものですけども。」
袋の反対を見れば、ドゥボーヴ・エ・ガレの文字。
わざわざ日本支店のものだと言うあたり、育ちが伺える。
中身がお菓子なのを確認して袋に手を突っ込み、ラッピングされた綺麗な箱を取り出した。
ひとつひとつから高級感漂う箱の装丁を眺めた後、そっと封を切る。
「へえ〜初めて食べる〜」
「ってなまえさん!なに勝手に食べようとしてるんですか!!」
私が万遍の笑みで箱を開けるのを見て、当真くんが唯我くんから離れた。
長い足でひょいひょいと近寄り、いつものようにニヤニヤしながらここでのルールを新入りに教える。
箱をあければ、綺麗なチョコレートがたくさん。
ひとつ手に取り、封をあけて口へ放り込む。
「采配はなまえさんにかかってるけど、俺のチームに来たら歓迎してやっからコレ食っていい?ここの食糧事情は早いもん勝ちだから。」
予想外のルールと持ってきたお菓子が私と当真くんにどんどん食べられていく光景を目の当たりにし、唯我くんが叫ぶ。
「それは小南先輩にあげるものですー!」
お世話になるリーダーに、とお菓子を持ってきた唯我くん。
歯と舌の上で蕩けるチョコレートの甘さの間から鼻を包む香りがする。
口の中で弾けた味から順にボンボンショコラを味わった。
上っ面の下に礼儀正さは間違いなくあるのが見えたところで、少しだけ優しくなる。
「当真くん、いじわるしない」
箱を抱えたまま当真くんに背を向けると、馴れ馴れしい大きな手が私の顎をそっと撫でる。
「意地悪なんかしてないってー、俺も鬼じゃないし昨日の迅さんの感じなら大丈夫でしょ。」
私の顎に触れた手で、ボンボンショコラをひとつ。
こういう仕草がこの歳で出ている当真くんは、将来いい女たらしになるだろう。
ボンボンショコラを頬張る当真くんに、年下から精一杯の怒りを唯我くんが露にする。
「そう言いつつ食べないでくださいっ。」
暴力も痛みも知らなさそうな唯我くんの顔が、赤くなっている。
チームメイトに蹴られたり雑な扱いをされたりしても、唯我くんは絶対にやり返さないとうっすら聞いていた。
コネで入隊したからには、周りにどう従えばいいか分かるくらいに頭がいい。
だが今の状況は持ってきた食料を意図なく食い散らかされる不本意な状況。
どうしていいか、わからないのだろう。
箱からボンボンショコラをひとつ手にして、ふと唯我くんを見た。
「あーん」
ふざけ半分、ボンボンショコラをひとつ唯我くんの口元に持っていくと、そのまま幼子のようにぱくりと食べられた。
指先に妙に手入れされた唇が触れて、一瞬だけ変な気分になる。
絶対に可愛くないはずの上目遣いで見つめられたまま口の中のボンボンショコラをもぐもぐと食べられ、つい目を背けた。
「小南ちゃんには私から言っておくから、安心して」
あと一人が味見しにくれば、レ・プティット・マドレーヌは空になる。
箱の残骸を見た小南ちゃんが「あたしがいない間に美味しいもの食べたわねー!」と怒るのが目に見える。
その時は当真くんに罪を擦り付けようと最低なことを考えたので、最低な人になりきってみた。
「本部長から聞いてるわよー、唯我くんってベイルアウトしなかったら嬉しさのあまり毎回終わった後に作戦会議室で財布の金を部屋に撒き散らすんだって?」
「なんですかその情報の有余曲折!」
とんでもない話をふられた唯我くんが、天変地異のニュースでも見たかのような顔をした。
当真くんが笑い出し、私が一人でふざけていると分かっていても話に乗ってくる。
「マジで?なまえさん今すぐ唯我を俺のチームに。」
爆笑する当真くんの意図が見えなかったのか、唯我くんが大真面目に反論した。
「ボクのパパがボーダーの一番大きなスポンサーだって知ってるでしょう、ボクの成績がよければ隊にお金が降りることはありますよ。」
「ファザコンだ。」
「違います。」
その言葉にも大真面目で反論する唯我くん。
一方の当真くんは、それすらも面白いようで笑っていた。
箸が転がっただけで面白いのと同じように、何もかもの裏が取れても上っ面がよければいいと思う時期がある。
唯我くんは今そうじゃないだけで、クソ真面目な顔で涙目になった。
彼のような子は、もうすこし大人にならないと多様なことを受け入れられないだろう。
当真くんのように柔軟になれとは言わない。
どちらもいたっていい、ここはボーダーだから。
慰め半分で唯我くんに話しかければ、キャッチを内心嘲笑う買い物帰りの人のような目つきをされた。
「ここに来たからには意地でもベイルアウトしないようになるわよー、成績悪かったら私の足揉み係になってもらうからね」
その一言で勝ち誇りたかったのか、唯我くんが急に得意気な顔をする。
ボンボンショコラ、もうひとつあげればよかったかな。
当真くんが息を吸っては半笑いになる横で、唯我くんが告げる。
「わかりました、それじゃあボクの成績がよかったらボクをリーダーにしたチームを作ってください。」
「いいよー」
「でたあーなまえさんの必殺二つ返事ー。」
携帯を片手に笑う当真くんが、近くにあった自分のマフラーを唯我くんに投げる。
野太い悲鳴があがり、理由のない絡みが始まったところで、唯我くんにここでも頑張ってもらうためにトリガーを用意した。
唯我くんがリーダーになる日を待ち望んでおこう。





2016.09.23








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