表裏一体のそれら






携帯で動画を再生するために、ネットの海を軽く彷徨いつつ下品にケーキを食べる。
指はクリームに埋まって、口の中は甘さでいっぱい。
ケーキに使われる濃度の高いクリームは、パンケーキの上のクリームとは違う味。
どれだけパンケーキを食べても、クッキークリームを食べても、結局はケーキが食べたくなるものだ。
私の尻の下で四つん這いのまま器用に煙草を吸う克己くんに、検索結果をぱっと見て報告した。
「うーわー、克己くん!ボーダーすごい話題になってる」
煙草をふかして、煙で返事。
ケーキを一口齧って、動画をタップして再生。
口の中でイチゴとオレンジの味をクリームが優しく包んで溶けていく幸せと、尻の下で畜生のように床に這う克己くん。
クリームと対照的な苦く臭い煙草の煙は、そろそろ終わるだろう。
「記者会見の公式動画、アクセスし辛くなるくらい見られてるし色々始まったね」
動画を再生すれば、映るのは克己くんの同僚。
おじさんばかりでムサくるしい。
こんな胡散臭い組織で今は仕事をしている克己くんを思うと、夜もバラ鞭の手入れに身が入らない。
動画の中にいる鷲鼻のおじさんが「殉職した六名のご遺族には謹んでお悔やみを申し上げます。」と抑制のない声で言った。
克己くん曰く、隊員にアッパーをキメられたり情報のドザ周りに追われることもある不憫な人らしい。
見た目だけなら神経質そうとしか思えず、人は見た目ではないと悟る。
「記者撮影の動画ですら凄い再生されてるよ〜、で、この動画のどのへんにいたの?」
携帯を四つん這いの克己くんの顔の目の前に持っていくと、大人しく煙草を咥えた口をそっと開く。
顎の下に置いてあった唾液まみれになったクリスタルの灰皿に煙草が落ちて、煙草の火が終わりを告げる。
「修くんが出てくる時に動画を止めて見ればわかるけど、記者会見会場前方右に扉の向こうにいた。」
動画をすこし飛ばして、修くんという男の子が出てくるところまで飛ばす。
修くんが出てきたところをじーっと見て、克己くんが映っていないことを確認した。
克己くんは前の仕事柄、人に隠れて仕事をするのが得意。
映ってるわけないか、と諦めて修くんの登場シーンを見る。
「ここから出てくるところ、かっこいいよねー、修くんの見た目気弱だけど芯の強さがあるなら将来化けるはず」
ケーキを一口食べて、量を見て全部口に放りこんだ。
唇にクリームがつき舐め取れば甘い味が口に広がる。
動画を見ながら食べ、クリーム塗れの手で克己くんのお尻を優しく叩く。
んっ、と声を詰まらせた克己くんのお尻にべったりとクリームがついたのを見て、お尻で指についたクリームを拭いた。
「真の強さは見かけによらないんだよ、なまえ。」
かっこいいことを言う克己くんにドキッとしながら、べたつく指を克己くんの口元に持っていく。
黙って指を舐める克己くんにドキドキしながらも、動画を見た。
男の子が記者会見相手に立ち向かう光景は、まるでドラマのクライマックスのよう。
「ほーんと克己くん思いつくことが普通の人と違うよね、素敵」
組織の動きより、運と巡り合わせによる流れを見る克己くんの考えることは、いまでもよくわからない。
克己くんの口から指をひっこぬいて、克己くんの背中で唾液を拭く。

動画を見ながら、尻の下にいる克己くんに聞いてみた。
「あとから怒られなかったの?」
「特に。」
ただ、と続けた克己くんの整った横顔に、惚れ惚れする。
「俺はヒーローにも反撃の機会があっていいと思っただけでね、ボーダーに対しても彼に対しても深い意味はないんだ。」
「あ〜〜〜かっこいい!克己くん大好き!」
携帯を握り締めたまま、ときめいた反射できゃあきゃあ叫んで克己くんの背中から立つ。
横にあるソファに携帯を置いて、動画のことだけを喋った。
「ぼくはヒーローじゃない、誰もが納得するような結果は出せない、ね〜・・・この子すごい謙虚に見えて物事否定する細かさがないね」
目で合図をすれば、克己くんは四つん這いになるのをやめた。
全裸にネクタイという奇怪な格好をしていても、克己くんはかっこいい。
唾液で煙草の火を完全に消したあと、床に付いていた膝を労わる姿が横目で見える。
壁にかけてあるオブジェにひっかかった鞭と縄の中から、いつも使う縄と鞭とバイブを掴み取れば、いつの間にか背後に克己くんがいた。
手に禍々しいそれらを手にしつつ優しくキスをすると、克己くんが私をそっと抱きしめる。
克己くんの鎖骨あたりに顔を寄せれば、克己くんが私を撫でた。
「でも彼は事の細かさを拭う隙間を突いてくるからね、非常にやり手だ。」
唯一身に着けているネクタイを噛んで引っ張ると、克己くんがそっとネクタイを外し始めた。
「真面目な子でよかったと思うよ、ああいう子が悪の組織に行くと厄介だからね。」
「なあにそれ」
「ああそうだ、なまえ。帰ったときに見つけた不在通知をテーブルに置いておいた。」
「ほんと?ありがと」
外したネクタイで自分の手に軽い輪をかけ、私に差し出す。
口で咥えて引っ張れば、すぐに克己くんの手が軽く縛られた。
「真面目な子でよかった、って要するに大人が所々機転をきかせて悪の手に渡らないようにしてるだけ、でしょ?」
「俺の言う事まで当てないでおくれ、俺の可愛いなまえ。」
耳元で囁かれ、嬉しくて倒れかける。
真っ赤な顔のまま喜べば、手を縛られた克己くんは強請ってきた。
そっと私を追い詰め、命令もないのにキスしてくる。
「まったく、臨機応変に良い悪いで物事を考えられるから克己くんは克己くんなんだろうね、克己くんも少し前までいたんでしょ?」
バラ鞭で胸を叩いて、オブジェの影にあるフックにかかった鎖を引っ張って克己くんの腕を縛る。
その間も克己くんは私しか見ておらず、どきどきした。
鎖が鈍く食い込んでいくのが分かるらしく、克己くんは時々溜息を漏らす。
「人聞きの悪い・・・なまえ、わかってるはずだ、俺は仕事だった。」
仕事だったら悪いことでも出来る。
ふざけても悪いことは出来ない私には、克己くんが美しく見えてしまう。
なんて美しい精神性なんだろうと感動し、克己くんの腕を縛り上げ壁にあるバールのようなものを弄ったまま克己くんを見つめた。
不敵に笑う克己くんを見て、初恋のような甘い気分になった。
「はあ、現実的な人って美しい」
バールのようなものを思い切り下に引っ張れば、克己くんが上に引っ張られた。
爪先立ちになって、筋肉質な体が丸見えになる。
鍛えた体と、影に埋もれる鎖骨。
細くはない足に落ちる汗を見て微笑めば、窘められるような目を向けられる。
手にしているバイブで腹筋をなぞりながら克己くんを見つめれば、目元に期待を浮かべた克己くんがわざとらしくニヤけた。
「かっこいいって言ってくれよ。」
かっこよさにくらくらしながら克己くんの口にバイブを突っ込んでしゃぶらせたままにして、両手で顔を覆う。
どうしてこう、簡単に素敵なことが言えるんだろう。
バラ鞭で克己くんの性器を叩きながら、大好きな克己くんの顔を見つめる。
叩くたびにか細く喘いで、可愛らしい。
「かっこいいかわいいは簡単に目指せるけど、美しいものには目指してもなれないことが殆どなのよ、克己くんは本当に素敵」
咥えていたバイブを引っこ抜けば、糞生意気かつ非常にかっこいい言葉が飛び出した。
「そんな素敵な男をなまえはどうしてるんだい?」
挑発する克己くんの頬を愛しく撫でて、キスをするふりをすれば克己くんから舌を出した。
一瞬身を引い克己くんの目に期待と渇望が浮かび、残念そうな顔をする。
唾を顔に吐きかけ、克己くんの顔を汚くした。
「どうしてほしいの?」
クリーム味の唾液が顔にかかっても、嫌そうな顔をしない。
バイブを腰のあたりにひっかけてから縄で軽く縛りにかかれば、避けられぬ身長差から生まれる見下しの目に合う。
色んなものを見てきた克己くん。
決して自分本位で物を考えないところがとても好き、失態を好まなさそうな雰囲気も好き。
背中と首と胴に縄を通し、筋肉を締め上げる。
額に浮かぶ汗がリビングから漏れる光で照らされて、克己くんの顔が色づく。
私に向かって好きだとか愛してるとか言ってるときよりも、ずっと欲情した顔をした克己くん。
わざと下のほうには触れていないのに、緩く勃ちあがっているのを見てバラ鞭の根元で性器を叩く。
「言えっていうのかい?」
一瞬だけ蕩けた目をした克己くんに惚れ惚れしながら、バラ鞭で下腹部を叩いた。
いい音がする中、私が克己くんの顔に吐き捨てた唾が垂れて顎から首に落ちる。
ラグビーをしていたのに傷ひとつない首に唾液が滑り落ちるのを見て、ぞくぞくした。
「恥ずかしいけど、言って」
「それじゃあ、縄をキツく。」
「具体的に言ってよーわかんなあい」
堅物清楚な克己くんは、このときだけ恥を捨てる。
互いの都合のいい欲望のために、大好きな人の精神性の底にある願望を薄めたもののために。
本当はこういう形じゃなくてもいいのに、克己くんは私のために喘いでくれる。
「なまえ、背中の縛りをもう少しキツくするか、足首と腕の縛りを繋いでくれないか、それとなまえが俺の中に挿入したものを取って欲しい。」
恥を捨てたおねだりに、歓喜と恥ずかしさと克己くんが好きという気持ちが溢れ出す。
縄を腕の間から通し、足首まで伸ばして縛る。
繋がった縄の真ん中を縛り、フックにひっかけられるようにしたあと克己くんの背中をバラ鞭の先で撫でた。
見えないところで鞭を感じたのか、克己くんの肩が震える。
息を漏らしても、まだ何もしない。
いくつにも重ねて縛った後もう一度腕の間を通し、恍惚とした顔の克己くんの頬を叩く。
「もお仕方ないなあ、これでいい?ねえ?自分の立場言ってみて!」
「なまえの旦那有力候補。」
「ほんとーに嬉しいけどお、それだけ?」
「なまえの一生涯保障付きまでついてくるなまえの雄肉穴奴隷で種馬です。」
「いやー!照れるうう〜!」
嬉しさに叫びながら克己くんを縛る縄に手をかけ、体を吊るための一本にまた別の縄を通す。
輪を作り、フックにかけ、また輪を作り克己くんを這う縄に通し、吊る。
逞しい体があっさりと宙吊りになり、男らしく喘いだ克己くんの顔を撫でた。
「その奴隷のお尻、どうなってるんだっけ?」
「なまえに朝からケツにお仕置きをくらったまま、腹痛を感じてもトイレに行けず10時間は経ったところだよ。」
「今の今まで我慢もしろなんて言ってないのに我慢しちゃったの??」
衝撃と悦びで顔を覆い、克己くんを見つめる。
やれやれと言った顔のまま吊られ頬を染め息を荒くする克己くんは、性的なことこの上ない。
「そうだよ、なまえはこういうのが好きなんだろう?」
「私は好きだけど、克己くんは今までそうでもなかったんでしょ?」
「確かにね・・・でもなまえのために先入観を払われ恥部を延々と開発されていってる感じがするね。」
私のためだよと笑う克己くんの笑顔。
影の中でぼうっと浮かぶ滲んだ雰囲気と、汗の香りがしそうな光景。
冷たくも呆れず、期待だけを残した克己くん。
「もうっ克己くん!どうしてそうかっこいいの!?プライドまで朝立ちの精子と一緒に出ちゃったの??恥ずかしいなあ〜克己くん!もう!」
女らしく笑い、照れながら克己くんのお尻を触る。
肛門に刺さったままのアナルプラグに事前にひっかけておいた小さなアナルビーズを思い切り引っ張れば、音もなく大きなアナルプラグが出てくる。
クリアガラス製のアナルプラグを克己くんのお尻から引っこ抜くと、朝に挿入した大量のローションの残骸が一滴だけ流れた。
綺麗にしてから挿入したので、異臭はしない。
るぼ、と不快な音がしそうな抜け方をしたあと、克己くんがまともに喘いだ。
「んうっ。」
顔を顰めたまま歯の間から漏れる妖艶な声。
克己くんの顔が苦痛と不快感に埋もれた痛みを探そうと喘いでいるのがわかって、愛らしすぎた。
「あぁぁやばい今の声、すっごい胸キュンってきたあああ」
吊られたままの克己くんが喘ぐ無様な姿に眩暈がしそうになり、思わずオブジェの近くにあった酒を手に取る。
克己くんは酒があまり得意ではない。
だからこそ、こういう時に活用するしかないのだ。
柑橘系リキュールの蓋を開け、一口含んだまま克己くんに酒くさいキスをする。
唇を開けて私のキスを酒ごと受け入れた克己くんが僅かに苦しそうにしたのを聞いて、バラ鞭でお尻を叩く。
克己くんから唇を離して頬を掴めば、まずそうに酒を飲んだ。
「ついでにこのヤニくっさい唾液もリキュールでどうにかしたら?」
「それは無理なお願いだな。」
一度は必ずそう言う。
誰でも、未知のものに対しては一度構える。
縛られたままバイブを挿入されて正体不明になりかけている克己くんの上に乗った時も、直前まで克己くんはそう言っていた。
今じゃどうだろう。
何事も、先入観が消えればあとは精神性同士のお付き合いの問題なのだ。
そこに余計な問題はなく、透けて見える心だけがある。
暴かれる心との触れあいは余計なノイズがない、だからこの行為が心地いいのだ。
私に限らず、こういう行為を好む者は皆同じようなことを言うだろう。
「何事も勇気を持って行動よ」
腰にひっかけておいたバイブをお尻に突っ込もうとしたとき、克己くんが冷静な声色になる。
目つきで何が言いたいのか分かるので、素直に聞いてあげた。
「なあ、なまえ、朝のトイレの後からずっと挿れてたじゃないか。」
「うん」
「またトイレ行きたいんだけど行っていいかな。」
「一日二回もするのー!?うわめっちゃ健康的っすごっ」
克己くんの体から離れ、思わず縄を解く。
慣れてくれば一瞬で解けるのが、縄という古典的かつ革新のある道具のいいところだ。
地面に克己くんの足がついて、両腕を自由にした途端克己くんが全裸のままトイレへ駆けていった。
その速さ、さすが元ラガーマン。
私が好きなこの行為を難なく受け入れた克己くんを、出来れば一生ものにしていたい。
もし私がそう言ったとき「俺も愛しているよ、ずっと一緒にいよう。」と素直に言ってもらいたい気持ちが、どこかにある。
得意のバラ鞭も、虐めやすい縄も、責め道具のバイブも、なんにもいらないから。
物や痛みや快感や精神性と乖離した場所に愛はあると知っても、まだこうしていたい。
生き死にも私の手の中にかかることを、許し、許される関係があるのなら。
難しいことがどうでもいいとバカになりたい気持ちもある。
それらを暴力性で包んだ私でも、克己くんは愛してくれた。
優しい克己くん、今日は背中を虐めるのはやめてあげようかとか、まだまだお尻をお仕置きしようかとか。
そんなことばかり考える私を叱るように男らしい悲鳴がトイレから聞こえ、私はまたメロメロになった。







2016.09.22





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