ほろ酔いの夜




16巻プロフィールで17歳のラタリコフくんがワインを飲んでいて
あっちの世界は15歳くらいで成人?そもそも成人してから酒のんでいいよって概念がない?
と妄想しました







監禁部屋もといヒュースくんがいる部屋に夜食と酒とお茶を持ち訪れ、ノック。
鈍い声がしたので片手でドアを開け、体でドアを押して部屋に踏み入る。
無機質だった部屋にいくつかの生活用品が置かれ、乱雑さはないものの潜むように使われている部屋は暗く、パソコンの光だけが唯一の明かりだった。
パソコンには陽太郎が教えたと思われる戦隊もの朝番組が映っていて、陽太郎の英才教育を感じる。
「陽太郎、もう寝たよ」
頭の後ろに向かって生える角も見慣れ、厳しい警戒心も薄れてきたヒュースくんは軽侮の目を向けなくなってきた。
それが嬉しくて、たまに話しかけている。
最初はうざがられていたものの、しつこくすれば諦めたように返答くらいはしてくれるようになった。
無言で、無表情で、寡黙で、何を考えているか悟らせないヒュースくん。
頭の中は別のことでいっぱいなのは、見て取れる。
何を考えているかまでは分からなくても、悩み思いつめつつも決意だけ固まっている時の焦燥感ともどかしさは、筆舌尽くしがたい絶望。
そんな経験を、法律上酒を飲める歳を過ぎれば誰もがしたことがある。
夜食をテーブルに置き部屋の電気をつけ、酒をテーブルの脇に置いた。
クッションの上に腰を置きグラスをふたつ出すと、訝しげな顔をしたヒュースくんが私を見る。
「警戒心が薄すぎる、気味が悪いって顔ね」
ルームウェアのままヒュースくんをからかうと、ヒュースくんはパソコンに再度向かい合うことなく私のほうを見てくれた。
「薄ら笑いを浮かべた女が部屋に入ってきて、怪しまないほうがどうかしている。」
「言うねえ、箸使えるようになってきたって陽太郎から聞いたけど、皮肉の利かせ方も飲み込みが早いんだね」
話によると実力はあったらしく、レイジさんと戦ったら五分五分くらいと烏丸くんが言っていた。
嘘ばかりついて人の顔色で遊ぶ烏丸くんのことなので、ヒュースくんが実力があるのも嘘かもしれないので半信半疑。
ヒュースくんが心の折れない子なのは、日頃過ごすたびに手の動きや目の動きを見ればわかる。
意思の強そうな目が動いて、世間話をふっかける私の目の前にある夜食が置かれたテーブルを見た。
「それはなんだ。」
「お夜食」
明らかに一人分ではない夜食と酒とお茶を見て、ヒュースくんが立ち上がりこちらにくる。
背は高めで手足はまっすぐ、腰の位置は高い。
部屋の電気の下で見れば、肌は薄い白、小さい目の中にはガラス球のような虹彩が映えてぎょろっとしていた。
見た目だけなら、角つきヘッドフォンをつけたどこかの外国人のよう。
座椅子をひっぱり床に置き、その上に座るヒュースくん。
グラスに注がれる前の酒の匂いを嗅ぎ取ったのか、伏目にしたままピンクのボトルを睨んだ。
「安い匂いだ。」
コンビニでも売ってるような適当な安い酒を手に取り、開封しグラスに注ぐ。
「寝るための酒だから薄いよ」
自分の分のグラスに注ぎ、なみなみと注いだところで一気に飲み干す。
炭酸ドリンクを飲んだときの爽快感とアルコールの香りが食道と鼻を通る依存的快感。
ぐいーっと飲み、ヒュースくんがいる手前おとなしくぷはぁと溜息をつく。
この一杯が生きているなんとやらと思えば、ヒュースくんが自分のグラスに酒を注いで飲んでいた。
真顔のまま見つめ、ぐいぐいと飲む姿はまるで酒豪。
一杯飲み終わったヒュースくんが、グラスをテーブルに置いたところで質問した。
「ヒュースくん、あなたいくつ?」
「16になる。」
ヒュースくんのグラスを奪い、目を離した私の落ち度も十分にあるものの立場上怒らないといけない。
「なに飲んでるの!?すました顔して実はすっごい悪い子なんじゃないの!?」
「は?」
「成人矢先の酒の失敗を避けるために未成年に少しの酒を勧める人もいるけど、私はそうじゃないわよ」
ピンクのボトルをそっと遠ざけ睨むと、ヒュースくんが言葉を繰り返した。
「未成年。」
「未成年!」
ヒュースくんのガラス球のような虹彩の真ん中にある瞳孔を見て、はっとした。
もしかしたらアフトクラトルでは成人の年齢がこことは違うのかもしれない。
こっちの世界だって国によって成人年齢が違うというのに、ヒュースくんの見た目が少し大人っぽいからという理由で色々忘れていた。
「あ、えーっと、アフトクラトルでは何歳から成人なの?」
申し訳ないことを聞くと、ヒュースくんが私の価値観を基準としてとんでもないことを言い出した。
「成人・・・とはなんだ。」
唖然とし、真顔になる。
夜食が数度冷えた気がして意味そのものを説明する。
「酒や煙草の嗜好品を嗜んでも怒られなくなる年齢のこと」
ああ、と呟いたヒュースくんがピンクのボトルにまで身を乗り出し、易々とグラスに酒を注ぎ始めた。
「それは玄界の文化か、ヨータローが持ってきた湯を入れた三分後には完成する糸状の柔らかいパンといい、玄界は時に理解しがたい。」
「それじゃあ、ヒュースはお酒が飲めるの?」
「あまり好まないが、多少は飲める。」
注いだ酒を、ごくりと一口。
動く喉仏だけは大人だ。
薄い目元や頬の色を見れば子供なんじゃないかと思う程度で、見た目は限りなく大人に近い。
こういう子を悪い道に引きずり込んではいけないのが、大人というものだ。
「アフトクラトルは子供でもお酒が飲めるの?」
私が珍しげに聞けばヒュースくんはきちんと返答してくれた。
「子供でも飲めるぞ、といってもヨータローのような子供は飲めない、周囲の者から認められれば手をつけられる代物だ。」
そしてまた一杯。
酒に強い体質なのか、肌は赤くならない。
「これが危ないものって認識は?」
「多量に飲みすぎると危険なのは何物でも一緒だ。」
もっともなことを言ったヒュースくんが、私の空のグラスに酒を注いでくれた。
ありがとう、と呟けばヒュースくんが流れるように喋り出す。
「特にこういう混ぜもののある酒を長期に渡り飲みすぎると危険だ。アルコールの純度が低く、水増しの代わりに酒と関係のない子供だまし手前ものをアルコールと混ぜてある。
アルコールそのものを嗜めば何ら害はないと当主が申していた。こんなものを容易く口にできるというのに玄界の秩序はよくも持つ、わが国では考えられない。」
もっともすぎることを言ったヒュースくんに、一点だけ問いただした。
「当主って?」
ヒュースくんがグラスを持つ手を見つめ、悲しそうな顔をした、と思えばグラスの中の酒を飲み干す。
「・・・ほら、混ぜ物のある酒はよくない。」
気にはなるものの、酒が周ってきただけかもしれない。
聞かなかったことにして流し、酒に少しだけ頼る。
「まあいいや、今日疲れたんだー、陽太郎のおもちゃ買った帰りに階段で足ひっかけて靴底が見事にへこんだの」
「間抜けめ。」
「ほんとよねえー、パンプスに慣れすぎるとぺたんこ靴でコケるんだよ」
テーブルの上にある夜食を見つめたヒュースくんが、不意に呼んだ。
「なまえ、これはなんで出来ている。」
驚き、口から豆鉄砲でも出しそうな顔をしてから正気に戻り、恥ずかしくなる。
夜食を指差し私を見つめるヒュースくんに、目を伏せた。
「ヒュースくん、私の名前呼ぶの珍しいね」
「そうかもしれないな、なまえ。」
取り皿を手にして、ヒュースくんの分を取り分ける。
かなり久しぶりに名前を呼んでもらえたような、初めて呼んでもらえたっけ、とにかく久しぶりだ。
取り分けている私をよそに、ヒュースくんは酒を注いでは飲む。
酒の力で、僅かな時間だけはどうとでもなれ。
気持ち多めに持って渡すと、ヒュースくんがまじまじと見つめた。
「なんだこれは。」
「こんにゃくパスタカルボナーラ風」
「原材料はなんだ?」
「芋、かかってるソースの原材料は乳」
夜食を見つめたあと、慣れてきたばかりの箸を渡す。
匂いの誘惑には勝てなかったようで、こんにゃくパスタに箸をつけたヒュースくんが呻く。
「理解しがたい世界だ。」
ヒュースくんの箸からちゅるんとこんにゃくパスタが落ちたのを見て、そっとフォークを差し出した。
今日は楽しい夜になりそうだ。








2016.09.09








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